1130.鍛錬篇:堅実に書けば賞は獲れるとうそぶく

 今回は「堅実に書けば」についてです。

 実に多くの書き手が「堅実に書けば大賞は獲れるんだけど、目立ちたいからひねりを入れちゃうんだよな」と思ってしまいます。

 それなら最初から「堅実に書い」て大賞を獲ればよいではありませんか。

 なぜひねりを入れてしまうのですか。





堅実に書けば賞は獲れるとうそぶく


 あなたまたは周りで「私が堅実に作品を書けば必ず大賞が獲れるよ」と言っている方はいませんか。とくに落選したときの言い訳として。

 それならなぜ「堅実に書かない」のでしょうか。

「堅実に書けば必ず大賞が獲れる」のであれば、「堅実に書けば」よいのです。誰もあなたへ「堅実に書くな」とは言っていません。




なぜ堅実に書かないのか

「私が堅実に作品を書けば必ず大賞が獲れるよ」というセリフはとても便利です。

 ではなぜ「堅実に書かない」のか。

 逃げ道を用意したいからです。

 つねに挑戦的な意欲作を書いていながら、落選したら「堅実に書けば……」と言い逃れます。これは精神的な保険です。

 私は堅実に書けないのでこんな言い訳はしません。「小説賞・新人賞」へはつねに斜め上の作品を書いて応募していますからね。

 とはいえ本コラムを毎日連載して千日以上経ち、小説も書いていられません。

 となれば私は「コラムを書いているから小説のカンが鈍った」と言い訳しだすでしょう。久しぶりに小説を書いて小説投稿サイトへ掲載し、不評だったときは言い出しかねないので皆様要注意ですよ。私も言わないように努めますが。


「小説賞・新人賞」へ応募するからには大賞を目指さなくてどうしますか。

「堅実に書けば……」の方は、「堅実」なら大賞が獲れるんですよね。わかっているなら堅実に書きましょうよ。

 それでも堅実に書けない方は、やはり逃げ道を用意したいのです。

 もし堅実に書いても大賞が獲れなかったら、どう言い逃れしたらよいのかわからなくなります。




努力も才能のうち

 よく「努力も才能のうち」と言います。

 まさしくそのとおりです。

「努力」とは基礎を積み上げていく作業を指します。たとえばドミノ倒しの世界記録を狙っているとして、ドミノ牌を地道に並べていく作業が「努力」なのです。

 よほど集中して慎重に並べていかないと、誤ってドミノ牌を倒して今までの努力が水泡に帰します。そのため、ドミノ牌を並べていくときは「ストッパー」を用いるのです。ある程度まで並べたら「ストッパー」を置いて、たとえドミノ牌を倒してしまっても「ストッパー」のところで止まるようにするのです。安全弁のような役割になります。

「努力」にも「ストッパー」を置くべきです。

 ここまで勉強してきたから、もうこれだけの知識がある。次回からはよりレベルの高い勉強を始めよう。

 このときの「これだけの知識」の区切りが「ストッパー」です。

 つまり「納得できるほどの知識が身についた」と判断したところに「ストッパー」をかまします。


 学校なら中間テスト、期末テストでは出題範囲が異なります。教科書の先へどんどん進んでいくのです。たとえ答えがわからなくても、出題範囲は先へと進んでいきます。これが「ストッパー」です。

 入学試験は異なります。受験のときまでに習ってきたはずのすべての範囲が対象です。「ストッパー」という概念は入学試験にはありません。

 高校三年生で習うものがよく出題される傾向はあります。しかし高校一年生で習う基礎的なものも出題されるのです。

 入学試験では基礎と応用がともに判断されます。


「努力」を続けられるのも「才能」です。

 地道にコツコツと「努力」を続けて、基礎から応用まで網羅すれば、入学試験でも満点が獲れます。

 地道にコツコツできない方が「堅実に書けば……」パターンに陥るのです。

 執筆の訓練では「ストッパー」をきちんと工夫して置いていきましょう。

「助詞の重複を避ける」という訓練は、ある程度できるようになったらそこに「ストッパー」を配置するのです。そうすれば次の段階の訓練へと進めるようになります。まるで学校で授業を受けているようなものです。

 学校で国語や現代文が苦手だったなぁという方は、かなりの不利を背負っています。文章を書くことに抵抗のある方が、すらすらと書けるようになる魔法はありません。

 そういう方にはよく「話すように書け」と言われます。しかしこれは苦手意識をなくす以外の効果はありません。

 実際にボイスレコーダーへ思いついた物語を吹き込んでみましょう。それを聴きながら文字へ起こしていくと、ほとんどの方は支離滅裂な文章になります。

 これは「話す」行為が聞き手とのコミュニケーションで成り立っているからです。書き手から読み手への一方通行である「文章」を書くとき、読み手から「それってどういうことですか?」なんて声が聞こえるはずがありませんよね。もし聞こえる方がいらっしゃいましたら、あなたはジキル博士かアムロ・レイなので、一度医師の意見をうかがったほうがよろしいでしょう。


「才能」の中でも「努力」はあなたの意志で持続できます。

 小説を書くことに集中し、ひたすらあきらめずに努力し続ければ、いつか大賞を授かるでしょう。

 大賞が獲れるまで、落選したら都度アップデートしていきましょう。

「小説賞・新人賞」は大賞を獲れなければ意味がありません。優秀賞や佳作程度で喜んでは困ります。

 現在「プロ」で活動している書き手のほとんどが大賞を獲ってデビューしているのです。だから挨拶も「○○賞の△△です」のような形になります。

 大賞を獲らずに文壇で活躍するのは、出版不況の現在ではまず不可能です。

 賞の後ろ盾のない書き手が「紙の書籍」など出せやしません。

 小説投稿サイトで開催される「小説賞・新人賞」でも、「書籍化」の権利がある賞を獲らないと、いつまで経っても専業の「プロ」にはなれません。

 狙うなら「書籍化」の権利がある「小説賞・新人賞」です。それ以外は小遣い稼ぎ程度に考えておきましょう。





最後に

 今回は「堅実に書けば賞は獲れるとうそぶく」について述べました。

 このセリフは「現実逃避」以外のなにものでもありません。

 本当に堅実に書けば獲れるのなら、今回も堅実に書けばよかったではないですか。

 落選してから「堅実に書けば……」なんて言っている間は大賞なんて獲れやしません。

 一度そのセリフを吐いたのなら、有言実行してください。できなければしょせんその程度の人物だったのだと知られてしまいますよ。



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