1118.鍛錬篇:アフォーダンスに感性を働かせる
今回は「アフォーダンス」に向かない「感性」をあえてやらせる方法についてです。
ちょっと難しいかもしれませんが、試せばなにかが変わるかも。
アフォーダンスに感性を働かせる
事前に「プログラム」をストックして、必要な局面で自動的に選び出して実行させる「アフォーダンス」ですが、けっして万能ではありません。
そんな小説は「プロ」の方なら手慰みで書けてしまうものです。
しかし「小説賞・新人賞」に通るかと言えば無理でしょう。
「プロ」には許されるけど、アマチュアは「アフォーダンス」だけで評価されません。
「うまく書けているんだけど、いまいち感情が動かない」作品になりがちだからです。
感性はアフォーダンスに向かない
物事をどう捉えるか。それが感性です。
感性は人それぞれで異なっており、ひとりとして同じ感性を持ち合わせていません。
「アフォーダンス」は「プログラム」のストックを自動的に実行する能力です。
「アフォーダンス」で感性は引き出せません。
ではどうするか。
感性が必要なところだけ頭を悩ませてください。
それ以外の定型文を用いるところでは「アフォーダンス」で省力化していくのです。
つまり描写にメリハリをつけます。
感性が働いている文章を読むと、自然と心が動かされるのです。
感動する物語を書きたいのなら、感動させたい部分が目立つようにしましょう。
そのためにはどうするか。
数をこなすしかないのです。
場数を踏むと、どこに注力すれば目立つのかが見えてきます。
まず重要でない部分は「アフォーダンス」に丸投げしてください。そんなところまで頭を悩ませてしまうと、そこが悪目立ちしてしまいます。
「アフォーダンス」に丸投げするには、数多く作品を書くしかないのです。
書かずに「プログラム」をストックする方法はありません。
よほどの精読家なら、他人の作品から「プログラム」を抽出して自分のものにできるかもしれない。でも、そんな才能をお持ちなら、本コラムは読んでいないでしょう。
本コラムをお読みの方は、とにかく作品を書き続けて「プログラム」を大量にストックしていくべきです。
せっかく「アフォーダンス」に丸投げするのに、使える「プログラム」が少なければ同じ表現の繰り返しになります。単調に見えてしまうのです。
感性とは感覚のこと
感性はよく「感受性」という言葉で表されます。
Google検索では「感性【かんせい】印象を受け入れる能力。感受性。また、感覚に伴う感情・衝動や欲望。」と表示されるので、やはり「感受性」と関係があるのでしょう。
「感受性【かんじゅせい】外界の刺激・印象を受け入れる能力。物を感じとる能力。」です。
この「印象を受け入れる能力」とはなにを指すのか。
対象を目で
感性は「五感をフルに活用し」ないと表現できません。
たとえば目で
人間は視覚に多くの情報を頼っているのです。そこに聴覚・触覚・嗅覚・味覚を織り交ぜて、感性が刺激します。
そもそも小説とは視覚で文字しか見えていません。にもかかわらず読み手の感性に働きかけてきます。
なぜかといえば、文字から単語を、単語から映像を連想するからです。
会話文であれば、文字から単語を、単語から音声を連想します。誰が話しているのかがわかっていれば、その声色で再生されるのです。
このふたつが書けていない作品はまずありません。しかし他の触覚・嗅覚・味覚はあまり書けていないのです。触覚は「痛い」「熱い」以外ではまず使われません。嗅覚・味覚に至っては書かれていない作品も多々あります。書いてあっても「
「小説賞・新人賞」で大賞を獲る作品は、たいてい五感すべてをきちんと表現できています。そのほうが読んでいて再現性が高いからです。
五感の表現に頭を悩ませていると、そのうち「感性」が研ぎ澄まされていきます。
どう表現すれば、細かな感覚が読み手に伝わるのか、に意識を向けられるからです。
感性は年齢によって鈍っていきます。瑞々しい感性は若者にしか存在しません。だから「小説賞・新人賞」に挑戦するなら若いうちがよいのです。
では
感性で勝負できないだけで、着眼点つまり目のつけどころでじゅうぶん勝負できるのです。黒田夏子氏『abさんご』はひじょうに着眼点がよく、他の追随を許しませんでした。だから芥川龍之介賞を授かれたのです。
ですが感性を活かせていない若者と、衰えたとはいえ感性をできるだけ活かした年重の書き手とでは、後者のほうが大賞に近い。それは才能を活かしきれない天才と、自分にできる最大限を活かしきった凡人との戦いに等しいのです。
「若い」は確かに武器となります。しかし「若さゆえの過ち」というものもあるのです。
経験豊富な老将が若さを鼻にかけた新米将軍に勝った例は枚挙にいとまがありません。たとえば中国戦国時代の趙の国に、
「感性が乏しくなった」と感じたなら、五感を「意識して」書き入れてください。そうして経験を増やしていけば、文章から漂う感性は豊かになります。
感性をアフォーダンスで引き出す
五感を活かした文章が書ければ、表現の引き出しは確実に増えていきます。
それは類似した感覚を、同じような表現で使えるからです。
そうなったとき、感性は「アフォーダンス」で引き出せるようになります。
実戦経験が豊富なら、五感を活かした文章は「プログラム」として脳内にストックされていくのです。感性が普通の文章と同様に「アフォーダンス」で引っ張り出せます。
「文豪」とはこのレベルにまで「アフォーダンス」を高めた書き手を指していると見てよいでしょう。だから多作できたのです。
それに比べると今の書き手は五感を活かした文章が書けていません。
「書かない」のか「書けない」のかはわかりませんが、文章から感性が漂ってこないのです。
視覚・聴覚だけでなく、もっと触覚・嗅覚・味覚を書き入れてください。その蓄積から「アフォーダンス」で感性が引き出せます。
駆け出しの書き手ほど、五感が書けていないものです。
たとえば「冷たいキスをした。」と書きます。すると唇が少し冷たく感じられませんか。「人差し指の先に針が突き刺さるような痛みを感じた。」なら痛覚が刺激されるはずです。
これから小説で食べていこうと志しているのであれば、五感から逃げないでください。むしろ書きすぎなくらい五感を記すのです。
「プロ」レベルの書き手は、たいてい感性の表現を「アフォーダンス」で引き出せます。逆に言えば、感性の表現を「アフォーダンス」で引き出せれば、じゅうぶん「プロ」レベルなのです。
また五感の機微をわきまえれば、第六感つまり直感を鍛えられます。
直感は、五感のあるもののわずかな変化に気づく能力のことです。
常日頃から五感の差を意識して書き分ければ、感覚の程度が見えてきます。たとえば最初は強い・弱い・中くらいの三段階しか書き分けられなくても、次第に五段階、十段階、二十段階と細かく書き分けていくのです。感覚を研ぎ澄ませて、丁寧に程度に差をつけていきます。
これは絵を描くのに似ています。最初はセルアニメのように、肌色、影、ハイライトの三段階で肌を塗り分けていくのです。慣れてきたら二段影のように細かくしていきます。これを進めていくとグラデーション塗り、厚塗りへと進めるのです。ここまできたら絵師独自の塗り方が身につきます。
小説で五感の程度を書き分けられるようになれば、読み手に複雑な感情を与えられるのです。
たとえば「恩師の死」という
「恩師の死」で恩師とほとんど接点がなく、ただ「人が死んだ」と感じただけの人物も、もし自身の妹が殺されたらどうなるでしょうか。ただ「人が死んだ」だけでは収まらないはずです。血涙を流しながら敵討ち・復讐を誓うと思いませんか。
文章で感性の程度を緻密に書き分けていくと、そのうち直感が芽生えてきます。
この直感が「アフォーダンス」とつながるのです。
事前に脳内へストックされた「感性の表現」の「プログラム」を自動的に引き出して実行してくれます。
つまり十段階で七レベルの怒りを表現するにはこの「プログラム」を使おう、というひらめきが降りてくるのです。
「アフォーダンス」を最大限に活かした執筆法は、あなた独自の特徴的な文章を生み出します。すべての書き手がまったく同じ「プログラム」を持っているわけではないからです。「アフォーダンス」で引き出す「プログラム」がそもそも異なっているのですから、出力される文章だって当然違ってきます。
五感の機微に精通することで、直感も独自の文体も身につくのです。
試さない理由がありませんよね。
最後に
今回は「アフォーダンスに感性を働かせる」ことについて述べました。
本来「アフォーダンス」と感性は相性がよくありません。
しかし感情の機微に精通すれば、感性を「アフォーダンス」で引き出せるようになります。
その域に達すれば、直感も働き、独自の文体も身につくのです。
感性さえも「アフォーダンス」で引き出せるようになれば、「プロ」へ近づけます。
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