1119.鍛錬篇:鈍ってきても必ず上達している

 今回は「スランプ」についてです。

 最初は好調に閲覧数もブックマークも上がってきたのに、あるとき突然伸びが止まる、ということがよくあります。

 そこで「才能の限界かな」と感じる方が多いのですが、本当に限界なのでしょうか。





鈍ってきても必ず上達している


 練習は人を裏切りません。

 まるで「筋肉は裏切らない」のようですが、これは事実です。

 最初は目に見えて成果が現れます。しかしある程度練習していると、成果がさほど上がらず鈍化してくるのです。いわゆる「伸び悩み」。

 それで見切りをつけて練習をやめてしまうと、練習前に逆戻りです。




なぜリバウンドするのか

 ダイエットは、始めたときがいちばん成果を上げます。みるみるうちに体重が落ちていくのです。だから体重が落ち続けているかぎり、ダイエットはやめません。

 しかしある程度経つと、急に体重が落ちなくなってきます。

 ここで多くの方が「もう体重は落ちないな」と感じてダイエットをやめてしまうのです。するとたちどころに体重が増え、いつしかダイエット前までリバウンドしてしまいます。

「これ以上体重は落ちない」と思っていても、実はさらに体重が落ちる途上なのです。

 運動でダイエットをしているのなら、まず筋肉がつきます。その筋肉が周囲の脂肪を燃焼させるので、あれよあれよと体重が落ちていくのです。脂肪が燃焼されると、筋肉が太くなっていきます。つまり最初は燃焼される脂肪のほうが多いので、体重は落ちるのです。しかし筋肉が太くなってきて減少する脂肪よりも重くなります。脂肪より筋肉のほうが重いからです。この釣り合いがとれている状態が「体重が変化しない」頃になります。ここで運動をやめてしまうと、筋肉が落ちてしまいますので体重は減るはずです。しかし先に燃焼されるはずの脂肪がついてしまいますので、あっという間に重くなってしまうのです。

 もし運動をやめなければ、燃やせる脂肪が減っていくので、筋肉が細くなっていきます。筋力自体はさほど変わらず、筋肉の質が変わることで再び体重が減り始めるのです。いわゆる「細マッチョ」の状態。

 ボディビルダーのような筋肉をつけたければ、(たとえばプロテインのような)筋肉を構成するタンパク質を大量に摂取してください。タンパク質をそれほどとらずに運動を続けると「細マッチョ」になるのです。

 ムキムキにするか締まった体にするのか。それによって以後の運動の量と質も変化します。


 小説もダイエットのようなものです。

 駆け出しの頃は、なにを教えられてもぐんぐんと上達していきます。中級の書き手にならすぐなれるのです。舞台設定、人物設定、人間関係、ストーリーの構成(起承転結・三幕法)、正しい日本語。これらをしっかりさせるのは本当にすぐできます。

 しかしある程度書けるようになると、突然今までのやり方へ限界を感じてしまうのです。そこでやり方を変えてしまう方がとても多い。

 ですが基礎ほど重要なものはありません。基礎練習を疎かにして応用だけに気が向いてしまうと、ボロボロになってしまいます。

 応用練習を始めるのはよい。ただ、基礎練習は続けたまま応用練習を始めるべきです。

 ある程度書けるからと、「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」の手順をすっ飛ばせば、内容がぐだぐだな作品にしかなりません。

 書けるようになったからこそ、物語の基礎である「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」をしっかりと作りましょう。そのうえで「文章の表現」に磨きをかけていけば、再び成長のフェイズに突入します。




伸び悩みこそ飛躍の手前

 なにごとも「伸び悩み」は迷いを生むのです。迷ってもブレずに基礎を続けることで、いつかスランプを脱して、より高みへと飛んでいけます。

「伸び悩み」は高く跳ぶために重心をいったん下げるのと同じです。沈み込むから筋力を発揮して高く跳躍できます。

 嘘だとお思いでしたら「垂直跳び」をしてみてください。最初は膝を曲げずにそのまま真上にジャンプするのです。するとほとんど跳べないことに気づけます。なにせ膝を曲げて重心を落としていませんから、使えるのは足首と股関節と上体の筋肉だけしかないからです。

 膝を曲げて重心を落としてから真上にジャンプすると、はるかに高く跳べます。太ももとお尻、すね、背中の筋肉と、さらに両腕の振りを使えるため、全身のバネが利くからです。


 小説も「伸び悩み」こそが上級者へと通じる過程です。

 小説投稿サイトで順調に「評価ポイント」が稼げていると、書いて投稿するのが楽しくて仕方がありません。しかし、ある日突然「評価ポイント」が伸びなくなってしまいます。新しい作品を始めても、前作とほとんど「評価ポイント」が変わらなくなってしまうのです。これでは苦労して書いたのに面白くない。何度書き直しても、新しい作品を始めても、まったく「評価ポイント」が伸びてこないのです。

 ここで「壁」を感じてしまう方がとても多い。

 しかしこれは「壁」ではなく、高く飛躍するための「沈み込み」なのです。

 基礎を疎かにせず、そのうえで高く飛躍できるよう準備してください。

「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」を決めたら、あらゆる「文章の表現」を試すのです。どれだけ試したかで、飛躍の度合いが変わります。

 いわゆる「覚醒」「進化」です。

 伸びているように感じないのですが、確実に地力はつけていきましょう。

 しっかりと地力がつけば、ある日突然変化が起こります。「評価ポイント」が急増するのです。

 だから、小説を書いてきて「壁」にぶち当たったと感じたなら、「これは沈み込みなのだ」と言い聞かせてください。


 あれこれ思い悩むのも試行錯誤するのも、すべてあなたの糧になります。

 どんな状態からだって、人は大きく飛躍できるものなのです。

 あなたは小説の「天才」ではないのかもしれません。しかし「秀才」には誰だってなれます。「秀才」は「沈み込み」のときも基礎をたいせつにしたうえで、試行錯誤を繰り返してきたのです。

「自分に芥川龍之介賞、直木三十五賞は獲れない」と自覚しているのなら、それ以外の賞を目指せばよい。自覚しながらも芥川龍之介賞、直木三十五賞を狙って努力し続けてもよい。

 成長の足枷を嵌めているのは、いつも自分自身なのだと理解してください。

 そうすれば、いつか努力や試行錯誤を続けることのたいせつさが実感できるでしょう。





最後に

 今回は「鈍ってきても必ず上達している」ことについて述べました。

 とくに技能を求められるものは、「壁」に直面することが多いのです。

 その「壁」は高く飛躍のための「沈み込み」だと理解してください。

「沈み込み」だからこそ、基礎を疎かにしてはなりません。基礎を固めたうえで応用を試行錯誤するのです。

 するとある日突然「沈み込み」から高くジャンプしています。

 自ら気づくこともありますが、たいていは自覚もなくなぜか飛躍しているものです。



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