1113.鍛錬篇:覚醒水準とパフォーマンスレベル

 今回は「覚醒とパフォーマンス」についてです。

 頭が冴えているとパフォーマンスは高まるのでしょうか。

 実はそうとも言えません。

 頭が冴えすぎていると、パフォーマンスは逆に低下してしまいます。





覚醒水準とパフォーマンスレベル


 皆様は朝起き抜けに小説を執筆した経験はありますか。

 私はやってみましたが、ぐだぐだな作品しか書けませんでした。

 なぜかといえば「覚醒水準」が低かったからです。




覚醒水準

 人間は起きているかぎり「覚醒」しています。「覚醒」が低下すると「睡眠」になってしまうのです。極端には意識がはっきりしているときと、眠っているとき。このふたつに分けられます。

 私が起き抜けに小説を書いてみたのは、「何時頃に執筆するとよい小説が書けるのか」気になったから。私の場合はだいたい午後二時頃から午後四時頃までなら質の高い小説が書けるようです。

 これが万人に当てはまるかといえば違います。

 どのくらい「覚醒」しているときに、最もパフォーマンスがよくなるのか。人それぞれだからです。

 人によっては起き抜けで「覚醒水準」が低いときのほうが筆が乗ります。深夜になってから捗る方もいるのです。

 そもそも、すべての方が同じ時刻に眠って同じ時刻に起きているわけではありません。

 つまり人によって「覚醒」している時間がそもそも異なるのです。


 では最も「覚醒」しているときが最も執筆に適しているのか。といえばこれも違うのです。

 スポーツの世界で「試合筋」と呼ばれる、試合会場の盛り上がりに興奮して極度に「覚醒」してしまう現象があります。いつもと同じ力を出しているはずなのにいつも以上の力が出てしまうのです。いつも練習で成功している技でも、会場の盛り上がりに興奮していると失敗してしまいます。

 同じことが小説を書くときにも起こるのです。

 あまりに興奮して書き始めると「勢い」ばかりが先走り、「これは名文になる!」と思い込んでしまいます。しかし冷静なときに読み返すと「言いたいことがよくわからない」印象を受けるのです。

 一般的に小説は興奮して「覚醒」しすぎていてもうまい文章は書けません。「書く」行為に集中しすぎて、「読み手」を考えられなくなるからです。

 適度に冷めた状態なら、スラスラと書けて「読み手」も意識できます。

 このバランスがとれた「覚醒水準」が、最良の執筆状態です。

 眠気が襲ってきて「覚醒水準」が低下しているときは文章が思い浮かびません。しかし「ひらめいた! 絶対にこれを書かなければ!」と興奮して「覚醒水準」が高まりすぎても空回りするだけです。

 あなたもさまざまな時刻に執筆してみて、バランスのとれるところを見極めましょう。

 あなたにとって理想的な「覚醒水準」を見出だせるはずです。




パフォーマンスレベル

「覚醒水準」が低いとパフォーマンスは低下します。しかし高すぎてもパフォーマンスは低下するのです。

 パフォーマンスのレベルが最も高まる「覚醒水準」を見出だしてください。

 たとえばゴルフのパッティングで「覚醒水準」が高まると力んで失敗する確率が高まります。対してティーショットでは「覚醒水準」が高くないと筋肉のフルパワーを引き出せません。


 小説を書くのも「勢い」に任せると力んで失敗しやすく、かといって「抑制」しすぎるとこぢんまりとした魅力に欠ける作品にしかならないのです。

 ほどほどにテンションを高め、しかし我を失わないくらい冷めた意識を保てるところ。

 これが「覚醒水準」として適正であり、そのときパフォーマンスが最も高まります。

 このバランスのとれた「パフォーマンスレベル」が小説の執筆には欠かせません。

 脳内で物語の情景が明確に浮かんでいる。

 それを「冷めた」意識でただ単に文字へ起こしていくだけでは熱量のない作品になります。たとえ「小説賞・新人賞」へ応募しても、「文章は書けているのだけど、なにか伝わってこない」という評価になるのです。

 逆に「熱い」意識で感情を込めて文章を紡いていくと熱量の高い作品にはなります。しかし「小説賞・新人賞」へ応募すると、「勢いはよいのだけど、文章がいまいち淡白で味けない」という評価になるのです。

「冷め」すぎても「熱」すぎても、選考を通過できません。

 ほどほどの熱量で書けるようになれば、高いパフォーマンスを引き出せます。それが結果となって現われるのが小説投稿サイトであり、そこで開催される「小説賞・新人賞」なのです。

 高いパフォーマンスを発揮できれば、書くごとにみるみると才能が開花していきます。

 パフォーマンスが低いままでは、いくら書いてもまったく才能に直結しません。


 実は書き手の性格によって「覚醒水準」と「パフォーマンスレベル」の釣り合いが変わってきます。

 内向的な方は「覚醒水準」を抑えめにすれば「パフォーマンスレベル」が高まるのです。興奮するとのめり込みやすいという理由があるのかもしれません。

 反対に外向的な方は「覚醒水準」を高めにしてテンションを上げれば「パフォーマンスレベル」が高まります。ノリノリで書けるからかもしれません。

 また楽観的な方は目標を高めに設定するとやる気が出ます。当然「パフォーマンスレベル」も高まるのです。

 しかし悲観的な方は目標を低めに設定しないとすぐやる気をなくします。当然「パフォーマンスレベル」も低まるのです。

 あなたの性格はあなた自身がいちばんよくわかっていますよね。釣り合いを見つけるときの参考にしてください。





最後に

 今回は「覚醒水準とパフォーマンスレベル」について述べました。

 つねに高いパフォーマンスを引き出せるよう、自身にとって最適な「覚醒水準」を見つけ出しておきましょう。

 性格によって最適な「覚醒水準」は異なってきます。

 自分が思っていた以上に「パフォーマンスレベル」を引き出せる時刻や状態は異なるのです。

 夜寝る前に執筆して頭が冴えて眠れない。

 それでは執筆時のパフォーマンスが高くても、日中のパフォーマンスが大きく低下してしまいます。

 執筆後、寝入るまでに一時間ほど空けてください。脳の興奮を冷まさなければじゅうぶんな睡眠はとれません。

 執筆に重点を置きすぎず、日頃の仕事や勉強や作業に影響しない「覚醒水準」と「パフォーマンスレベル」の兼ね合いを見つけてください。



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