1114.鍛錬篇:優先順位をつける

 今回は「優先順位」についてです。

「小説を書く」のは人生でどのくらいの「優先順位」にあるのでしょうか。

 なによりも上で、なによりも下か。

 それを見出だしてください。





優先順位をつける


 皆様にとって「小説を書く」ことはどの程度「優先順位」が高いですか。

 それを知らずに「小説を書く」のは難しい。

「これから小説を書こう」としている方は、「小説を書く」優先順位をはっきりとさせるところから始めてください。




やるべきことの優先順位をつける

 執筆に取り組むにあたって皆様に確認したいのは「小説を書く」ことの「優先順位」です。

 学生であれば、勉学が「優先順位」の筆頭でしょう。学費をアルバイトで稼いでいるのならその下になります。もしアルバイトが勉学よりも上になってしまったら、単位が足りずに学校を卒業できないかもしれません。

 では学生は「勉学」「アルバイト」の順かといえば少し異なります。両立するだけの「体力・体調」を維持する必要があるのです。

「勉学」「アルバイト」「体力・体調」の三つの要素があります。学生の優先順位は「勉学」「体力・体調」「アルバイト」の順でなければなりません。「体力・体調」を顧みずに「アルバイト」のシフトを入れてしまうと、いつか体を壊して「勉学」にも支障をきたします。だから「体力・体調」は「アルバイト」よりも上でなければならないのです。あとは「勉学」と「体力・体調」の順序になりますが、学生の本分は「勉学」です。多少「体力・体調」で無理をしても、課題は成し遂げなければなりません。それができるだけの「体力・体調」を手に入れてあるとなおよい。だから優先順位としては「勉学」≧「体力・体調」>「アルバイト」となります。


 ここに「小説を書く」ことをどこに入れるのか。「優先順位」をつけて確認するべきです。

 将来「プロ」の書き手になりたいとお思いなら、すべての「勉学」を置いてでも「小説を書く」の「優先順位」が高くなります。

 しかし「プロ」になるのなら、可能なかぎり知識が豊富でなければなりません。最低限「日本語の文章が書ける」必要があります。当然ですよね。日本の小説なのですから。

 極端な話、英語がまったくできなくても、国語がダントツならそれでよい。できれば歴史に詳しいとなおよいですね。

 ただ、国語がダントツだと語彙力はあっても、普通の人にわかる語彙を使えるかわかりません。自分では当たり前だと思っている語彙が、一般人にはまったくわからない、ということがよく起こるのです。


 たとえば「破天荒」という語彙があります。

 現在の多くの一般人は「破茶滅茶な性格」のことだと思っているのです。しかし実際の意味は「今まで誰もしなかったことをする。前代未聞」。

 よく織田信長氏を「破天荒な人物」と呼びますが、「うつけ者」という「破茶滅茶な性格」を指した言葉ではないのです。「今までに誰も成し遂げられなかった天下統一を成し遂げようとした」ことを指していました。

 元々「破天荒」は「天荒を破る」意です。「天荒」とはなにか。古代中国・唐の時代が成立して百年以上経っても、荊州(現在の湖北省)から科挙(官吏登用試験)の合格者が出ませんでした。そのため荊州は「天荒」の地と呼ばれるようになったのです。「天荒」とは「未開の荒れ地」を指します。

 そんな「天荒」の地・荊州出身の劉蛻りゅうぜいという者が、初めて科挙に合格したのです。これにより世の人々は「天荒を破った」と讃えたのです。

 だから「破天荒」とは「前例のない偉業を成し遂げた」者を指す言葉となりました。

 この説話は古代中国・宋の時代の説話集『北夢瑣言ほくむさげん』に記されています。


 私が「国語がダントツで、できれば歴史に詳しいとなおよい」としたのは、こういった語源に詳しくなるためです。

 歴史に詳しいと由来がわかるので、語彙を間違って使いません。

 小説で「破天荒な人物」と書いたときに、唐王朝の劉蛻が「天荒を破った」ことに由来する、と正しく補足できます。まぁ補足しなければならないような単語は極力用いないのが「誰もが楽しめる小説」の特徴なのですが。

 知らないよりも知っていれば、少なくとも使いどころは間違いません。


「綺羅星の如く」という語彙があります。

 アニメのボンズ『STAR DRIVER 輝きのタクト』に「綺羅星十字団」という組織が存在し、事あるごとに「きらぼし☆」と叫んでいるので、つい「きらぼしのごとく」と読みたくなったしまうのです。

 しかし正しくは「きら、ほしのごとく」と読みます。

「綺羅」とは「あやぎぬうすぎぬ」転じて「美しい衣装。またそれをまとった人」を指す言葉です。その「綺羅」のように素晴らしいものがまるで空に瞬く星のようにたくさんある。それが「綺羅星の如く」の意味です。本来は「綺羅星の如し」の形で、「立派ですぐれたものや華やかなものがたくさん集まっている様子」を表しています。

「きらぼし」の誤用はおそらく童謡『きらきらぼし』の「きらきらひかるお空の星よ」から来ているのでしょう。




優先順位の低いものをあえて切り捨てる

 社会に出てからも「優先順位」をつけて物事を処理していきます。

 しかしどうしても自分に与えられた仕事量が仕事時間内に終わらないこともあるのです。

 その場合どうするか。「優先順位」をつけて高いものから順に行なってください。そして「優先順位」の低いものをあえて切り捨てるのです。

「優先順位」が低いものは、全体の数%程度しか影響しない場合が多い。

 その程度であればなくてもかまいません。

 統計学でも、全体への影響がとても少ない数字はあえて切り捨てて計算しています。

 それでもある程度の正確さが出せることを私たちは日頃よく目にしているのです。

「選挙速報」を観たことがありますか。

 テレビでは衆議院議員総選挙のときによく特番を組んで「選挙速報」を流すのです。

 そのとき「開票率〇%」の状態で「当選確実」が打たれる候補が表示されます。

 なぜこんなことができるのか。それが「統計学」の凄まじさです。

 テレビ各局は投票前また投票後に投票者へ事前調査をしており、全体の傾向に影響しそうにない数字をあえて切り捨てて、影響の大きな数字を集計して加工つまり「統計」するのです。だから「開票率〇%」でも自信を持って「当選確実」を打てます。

 しかし「開票率〇%」で「当選確実」が出てしまっては、投票率が下がり続けるだけです。なぜなら、選挙権を持っている自分が投票しなくてもすでに「当選確実」な候補は決まっていたのではないか。そう受け取られてしまうからです。

 正しい民主共和制では「当選確実」なんて打たせてはなりません。あくまでも開票した実数をもって結果を示すべきです。

 あなたの貴重な一票がまるで切り捨てられたような「統計」の力に屈してはなりません。


 しかし「小説を書く」とき、「統計」の仕組みは不可欠です。

 物語全体に影響を与えないような小さなものは、書くに及びません。

 たとえば「イライラすると左親指の爪を噛むクセがある」とします。

 これは物語全体にどれほど影響を与えるでしょうか。もし物語内でイライラするシーンがあるのなら、とても印象的なクセに映ります。しかしイライラするシーンがなかったとしたら、本文に「イライラすると左親指の爪を噛むクセがある。」と書いてもまったく意味がないですよね。

 こういった物語に関係しないものは、キャラクターを立たせるために細かく設定してあっても、本文には書かないでください。これが「優先順位の低いものはあえて切り捨てる」です。

 たとえ些細なクセをひとつ書かなかったとしても、それ以外の文章でそういったことを匂わせられれば「統計」と同じくなります。

 なくてもあるように見せるには、「優先順位」をつねに考えて書くようにしてください。

「優先順位」の高いものは必ず書き、低いものは書かなくてもかまわない。

 そのくらいの割り切りが必要です。

 設定の段階ではいくらでも作り込んでください。ですが、それらをすべて書く必要はないのです。

「せっかく設定したのだから」は書き入れる理由になりません。

 それが物語全体にどういった影響を与えるのかを確認してください。

 これも「即興劇」で作品を書く人と、「台本を書いて練習して上演して」作品を書く人の差です。

「即興劇」はどうしても、その投稿回だけで惹きつけようとするから、些細なクセをふんだんに盛り込みます。「台本を書いて」は物語全体がわかっているので、キャラクターに設定した些細なクセが、物語に影響を与えるのかどうかを理解して描写できるのです。

 どちらが全体の完成度が高いかは言うまでもありません。





最後に

 今回は「優先順位をつける」ことについて述べました。

 物事にはすべて「優先順位」をつけるべきです。

 あなたの人生にとって「小説を書く」ことにどのくらいの「優先順位」があるのでしょうか。

 単なる趣味の域を出ないのか。副業として取り組みたいのか。本業にしたいのか。

 それぞれで優先順位は異なります。

 本職にしたいのなら、現在の職業がなんであれ、優先して「小説を書く」べきです。



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