1101.鍛錬篇:スペシャリストが求められる時代

 今回と次回は「スペシャリスト」についてです。

 ただし現時点で次回はまだ執筆していません。あくまでも予定です。

「なんでも書ける」と豪語される方は、基本的に「どれも中途半端」になります。





スペシャリストが求められる時代


 あなたが得意なジャンルはなんでしょうか。

「剣と魔法のファンタジー」かもしれませんし「スペース・オペラ」かもしれません。「推理」「ホラー」「青春」「日常」。小説投稿サイトのカテゴリーを見ても、ジャンルはさまざまです。

 その中でどのジャンルが得意なのでしょうか。




なんでも書けるはなにも書けない

「私はどんなジャンルでも書けます。依頼があればSFだって歴史ものだってなんだって書けるので、どんどんご依頼ください」

 そんな書き手がいるとします。

 あなたが出版社レーベルの編集さんになったとして、この書き手になにを期待するでしょうか。

 そもそもこの書き手がどのジャンルにどれだけの知識を持っているかわかりません。

 池井戸潤氏「半沢直樹」シリーズのような企業もの経済ものが書けるだけの知識はあるのか。株式投資や投資信託などの金融ものが書けるだけの知識はあるのか。平安時代の東北地方平泉が書けるだけの知識はあるのか。

 すべて謎です。まったくわかりません。

 そんなわからない状態で、この書き手に執筆を依頼するでしょうか。

 しませんよね。

 どれだけ正確な情報を書けるのかが不明なのですから。

「なんでも書けます」は「どのジャンルも浅く広くカバーしています」です。

 企業もの経済ものを当出版社レーベルから発刊したいとします。実力未知数のこの書き手に依頼するより、池井戸潤氏に依頼したほうが売上が期待できそうだと思いませんか。


 出版社レーベルにはそれぞれに方向性があります。

 ライトノベルであれば「剣と魔法のファンタジー」しか発刊しない出版社レーベルが多い。

 そういう出版社レーベルと契約しようと思っても、あなたの「剣と魔法のファンタジー」作品の実力がわからないのでは、契約できそうにありません。

 そのため出版社レーベルは小説投稿サイトで「小説賞・新人賞」を開催します。

 そこで優秀な作品を出版したほうが、実力未知数の書き手に依頼するよりよほど手堅いからです。


 これから小説で生計を立てていきたい方は、専門ジャンルを持ちましょう。

 ジャンルをひとつに絞って依頼が来るのだろうか。

 そうお思いかもしれませんね。安心してください。専門家には必ず依頼が来ます。

 いっぽうで「なにでも書ける」方にはいつになっても依頼は来ません。なにを書かせても専門家に劣るからです。

 現在最も人気があるジャンルは「異世界ファンタジー」です。だから「異世界ファンタジー」に強ければ出版依頼が殺到する、というほど単純ではありません。

「異世界ファンタジー」の書き手の数自体が圧倒的に多いからです。百の枠があるとして、万の書き手がいます。つまり出版につながるのは百分の一のみ。総数自体は多いのですが、競合が多すぎるため出版機会も減ってしまうのです。

 しかし「現実世界ファンタジー」ものに強い書き手には「電撃文庫」などの「現実世界ファンタジー」に強い出版社レーベルから依頼が舞い込むことがあります。

「文学小説」に強ければ、文芸出版社から依頼が来るかもしれません。

 しかし「剣と魔法のファンタジー」も書ければ「SF」も書ける。「推理」も「ホラー」も「青春」も書ける。こんな書き手になにを期待すればよいのでしょうか。

 もしすべてが出版レベルに到達しているのなら、天賦の才能ですからぜひとも契約したいはずです。

 ですがたいていは「器用貧乏」に終わります。確かにいろいろ書けるけど、多くの読み手が満足するほど深みのある作品は書けない。

 だから「なんでも書ける」方は「なにも書かせてもらえない」のです。

 そうなるくらいなら、競合が多くても「剣と魔法のファンタジー」に特化して活路を見出だしましょう。そのほうがはるかにましです。

 現在ほとんどの小説投稿サイトで「剣と魔法のファンタジー」が応募できる「小説賞・新人賞」を開催しています。すべての賞に応募してくる書き手はまずいません。つまり「強さの偏り」が必ず出ます。強豪ばかりが集結する「小説賞・新人賞」もあれば、強豪のまったくいない「小説賞・新人賞」もあるのです。


 たとえば『ピクシブ文芸』で開催された「ピクシブ文芸大賞」は、強豪がほとんど参加しませんでした。そんな中で大賞が決まったのです。強豪に揉まれていない作品ですから、多くの読み手を惹きつけられるほどの作品ではなかった。

 幻冬舎から「紙の書籍」が出版されますがさっぱり売れず、大赤字を出したことで「ピクシブ文芸大賞」の第二回はまったく案内が行なわれない事態となっています。

 しかも『ピクシブ文芸』の公式サイトが開始当初からまったく整備されておらず、投稿作品の検索機能すら付いていません。開催されている企画もすでに終わっている古いものが延々と表示されているのです。つまり運営が「やる気をなくした」と思われます。


「なんでも書ける」方であっても、ひとつのジャンルに絞って「小説賞・新人賞」を獲得してください。受賞できれば、さまざまなジャンルを書かせてもらえるチャンスが巡ってくるかもしれません、

 賀東招二氏は『フルメタル・パニック!』でロボットバトルものを書きました。しかしその後ロボットバトルものは書いていません。「なんでも書ける」を実践しようとしたのですね。実際毛色の異なる『甘城ブリリアントパーク』や『コップクラフト』はアニメ化もされました。「なんでも書ける」を実証したのです。

 ですが困ったことも起こります。

 ロボットバトルもののイメージが強すぎて、他のジャンルの新作を追ってくれない読み手が多かったのです。

 昔は「書き手」そのものにファンが付いて、どんな小説を書いても追ってくれました。

 しかし現在は「作品」にファンが付いて、同じような作品でなければ追ってくれなくなったのです。つまり異なる書き手が書く、同じような作品を追うようになりました。

 だから「主人公最強」の作品ばかりが「紙の書籍」化され、順次アニメ化されていくのです。

「書き手にファンが付く」時代はすでに終わっています。

 今は「作品にファンが付く」時代です。

 川原礫氏『ソードアート・オンライン』が人気を博したら、他の書き手の「VRMMO」ものがこぞって「紙の書籍」化されました。

 これなども「作品にファンが付く」時代を象徴しています。

「書き手にファンが付く」には、ひとつのジャンルでビッグヒットを飛ばすことが最低条件です。そのうえで新作もじゅうぶん面白い作品かどうか。安定して「面白い作品」が提供できれば、「書き手にファンが付く」ようになります。

 伏見つかさ氏のように『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『エロマンガ先生』と次々に「面白い作品」を書けば「書き手にファンが付く」のです。

 ですが多くのライトノベルの書き手は、「紙の書籍」化された一作だけを残して文壇を去っていきます。次の作品が「面白くない」から「書き手にファンが付かない」のです。


 あなたのプロフィールを書く箇所が、どの小説投稿サイトにもあります。

 そこに「自分は○○をよく書きます」と書くだけで「スペシャリスト」をアピールできるのです。

「なんでも書きます」ではなく「○○が得意です」のほうが、より多くの読み手に届きます。

 あなたはなんの「スペシャリスト」でしょうか。

 すぐに思い浮かばない方は、一度自分を振り返ってみましょう。





最後に

 今回は「スペシャリストが求められる時代」について述べました。

「なんでも均一に書ける」ではなく、「より深く書ける」方が「小説賞・新人賞」を獲得して「紙の書籍」化されていくのです。

 オールラウンダーはあまり評価されない時代になりました。

 これからはスペシャリストの時代です。

 あなたも、専門ジャンルを持って鍛錬に励んでくださいね。



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