1102.鍛錬篇:書きたいジャンルに精通しているか

 今回も「スペシャリスト」についてです。

 精通したジャンルだからこそ、魅力的な作品が書けます。





書きたいジャンルに精通しているか


「剣と魔法のファンタジー」ものを書きたいとします。

 あなたは「剣と魔法のファンタジー」が書けるだけの知識を有しているでしょうか。

 知識もないのに「剣と魔法のファンタジー」は書けません。

 それは「推理」を書けるだけの知識がないから「推理」小説は書けないことと同じなのです。




人生で精通しているジャンルがわかる

 あなたはこれまで生きてきて、どんなことに興味を持ったでしょうか。どんなものを趣味にしたでしょうか。

 これが「精通しているジャンル」を見つけ出す鍵です。

 私は「剣と魔法のファンタジー」に精通しています。

 以前から書いていますが、私は養護施設育ちで愛読書が『アーサー王伝説』でした。「アーサー王と円卓の騎士」の物語は「剣と魔法のファンタジー」そのものです。「円卓の騎士」という文字から「剣」はイメージできるでしょう。「魔法」はと言えばアーサー王を補佐した「魔術師マーリン」や、持つ者の傷を癒やす宝剣「エクスカリバー」を授けた「湖の乙女」などが挙げられます。

 TYPE−MOON『Fate』シリーズでもお馴染みのアーサー、ランスロット、ガウェイン、モードレッド(モルドレッド)などは『アーサー王伝説』からの借名であることは有名ですよね。

 異世界での「剣と魔法のファンタジー」はゲーム雑誌『コンプティーク』でリプレイが掲載された『ロードス島戦記』が挙げられます。「戦士・ドワーフ・エルフ・魔術師・僧侶・盗賊」による六人パーティーが「剣と魔法のファンタジー」で王道となったのも『ロードス島戦記』が端緒です。

 J.R.R.トールキン氏『指輪物語』は後年に読んでいるため、異世界の「剣と魔法のファンタジー」ものに触れたのは『ロードス島戦記』、そしてリプレイ元となったTRPGテーブルトーク・ロールプレイングゲーム『Dungeons & Dragons 第二版』が先になります。

 こういったバックボーンがあるため、私は純粋な異世界の「剣と魔法のファンタジー」に馴れ親しんでいるのです。

 こういう方は「異世界ファンタジー」を書けばよいと思います。


 それとは別になりますが、私は保育園児の頃からアクロバットに興味を持っていました。とんぼ返りやバク転、バク宙などを砂場や土の上、雪の上などで独習したものです。

 だから器械体操に関する知識もあります。

 また一週間剣術道場に通ったり、ケンカばかりしていたので柔道の投げ技やボクシングのパンチや中国拳法の体さばきなどを身につけたのです。そうした意味でも「アクション」が主体の小説を書く素地が出来あがっています。

「剣と魔法のファンタジー」での「アクション」シーンこそ、私が精通しているものなのです。


 さらに中学二年のときに中国古典・檀道済氏『三十六計』、孫武氏『孫子』を読んで「兵法」について独習しました。きっかけは「コンピュータ・ゲームを自作する」ためです。当時のコンピュータ・ゲームは、ひとりですべてができなければ作れませんでした。

 プログラミング、ゲームシステム、物語シナリオCGコンピュータ・グラフィック、音楽についてひと通り学びました。

 今皆様がご覧になっている本コラムも、大元となる知識はこのときに身につけています。熟成期間がとても長いのですね。

 物語ストーリーについてはそこから一年ののち、短編小説を書き始めました。

 プログラミングについては小学二年でBASIC言語を習得し、中学二年でC言語、中学三年でZ80アセンブラ言語をマスターしています。だから「宇宙」や「科学技術」に根ざした「SF」の適性はありませんが、「サイバーパンク」なら書けるかもしれません。おそらく「VRMMO」もシステム面から創り上げるだけの素地はあるはずです。

 しかも「兵法」の知識があるため、大国同士の組織戦も書けます。


 そうなると私だけが書ける作品は、「剣と魔法のファンタジー」で大国同士の組織戦を描きつつ、個々人のバトルも描けるもの、です。舞台は異世界、コンピュータ・ネットワークを問いません。どちらもそれなりに書けるはずです。

 とても平たく言えば田中芳樹氏『アルスラーン戦記』のようなものが書けるでしょう。

 将軍・軍師による大国同士の組織戦と、戦士によるヒロイックな役回り。その両方が書けるのが私の強みとなります。




趣味を強みに変える

 私の人生を見ると精通しているジャンルや要素がとても明確に示されていますよね。

 私には読み手の皆様の人生がわかりません。こればかりは自分を顧みなければ見つけ出せないのです。

 本コラムをお読みで中高生の方もおられるでしょう。

 若い方は経験が少ないので「強み」と呼べるほどの「ジャンル」は見出だせないかもしれません。しかし「多様な可能性」を有していますので、どんな「ジャンル」でも書こうと思えば書けます。

 人生経験の「強み」がなければ、あなたの「趣味」をさらいましょう。

「剣と魔法のファンタジー」を読むのが好き。

 それも立派な「趣味」です。私だって『アーサー王伝説』を読むのが趣味でしたからね。

 そういう方は、より多くの「剣と魔法のファンタジー」を読んで知識を得てください。そしてわからないことがあったら、片っ端から調べていくのです。

「剣と魔法のファンタジー」と一言で表しても、西洋風もあれば東洋風もあります。西洋風なら錬金術師パラケルススが提唱した地・水・風・火の「四大精霊しだいせいれい」、東洋風なら古代中国発祥の木火土金水もっかどごんすいの「五行説ごぎょうせつ」が有名です。

 これがわからないと、それっぽい雰囲気は出せません。

 知らなければいつでも調べられるのがインターネット社会のよいところ。昔は図書館に行くか、高い専門書籍を購入しなければわかりませんでした。

 まぁ「趣味」になるくらい好きなら、言われなくても調べていますけどね。

 私もプログラミング・物語シナリオ・CG・音楽などを誰に言われるでもなく自前で調べて独学しましたから。

 物語シナリオから物語ストーリーへと波及するのもそう難しいことではありません。ごく自然な流れです。

「好きこそものの上手なれ」

 好きなものには時間も金も惜しまないため、知識がより深まります。

 あなたの「趣味」はなんですか?




専門ジャンルを持つ

 あなたはどんなジャンルの小説でも書けるのかもしれません。

 その中で「専門ジャンル」を持っていただきたいのです。

「専門ジャンル」を有していれば「スペシャリスト」になれます。

「専門ジャンル」を磨き上げて研ぎ澄ませば、「小説賞・新人賞」を一点突破できるのです。

「どんなジャンルでもよいから『小説賞・新人賞』へ応募しまくって、どれかひとつでも『紙の書籍』化されたらいいな」とは考えないでください。

 さまざまなジャンルの『小説賞・新人賞』へ応募しまくるのは、小説の腕前を上げるためです。どれかが「紙の書籍」化されたらいいなではありません。

 あらゆるジャンルが書けるようになると、表現力がひじょうに高まります。

「恋愛」が書けるようになれば、「剣と魔法のファンタジー」の中に恋愛の機微を持ち込めるのです。「日常」が書ければ日常の賑わいを描けます。「ホラー」が書ければ読み手に恐怖させる「剣と魔法のファンタジー」が書けるのです。

 今の小説投稿サイトの「剣と魔法のファンタジー」は明るいものが多い。「日常」はよく書けているのです。しかし恐怖を感じません。「主人公最強」と言えば聞こえはよいのですが、「恐怖させる文章が書けない」とも言えます。また「悲恋」になることも少ない。「恋愛」も書けないのです。

 経験の浅い書き手が多くなったので「主人公最強」だけが突出するようになりました。

「剣と魔法のファンタジー」を「専門ジャンル」に選んだら、そこにさまざまなものを持ち込むようにしてください。多様性のある作品でなければ「小説賞・新人賞」は獲れません。

 一点突破は兵法の理に適っています。「小説賞・新人賞」を獲らなければ「紙の書籍」化が果たせない時代です。であれば「どんなジャンルでも書ける」よりも「このジャンルなら誰にも負けない」という「スペシャリスト」の高みを目指しましょう。

 世のライトノベルが「剣と魔法のファンタジー」ばかり、というのであれば「剣と魔法のファンタジー」を極めればよいのです。人気があるからと「異世界転生」「異世界転移」「悪役令嬢」などに逃げるのではなく、純粋な「剣と魔法のファンタジー」を書きましょう。

「正統派」と呼ばれる書き手は長く支持されます。

『ロードス島戦記』の水野良氏は『魔法戦士リウイ』『グランクレスト戦記』など「正統派」の「剣と魔法のファンタジー」を書いて安定したヒットを飛ばしているのです。

 今の「異世界転生」「異世界転移」「悪役令嬢」といった作品の書き手たちは、別作品をどれだけ書いているのでしょうか。ほとんどの書き手は生涯一作しか書けずに文壇を去ります。世間ウケだけを求めると、飽きられるのも早いのです。

「異世界転生の○○先生」では書ける小説が受賞作だけに限られてしまいます。「正統派ファンタジーの○○先生」ならさまざまな「正統派ファンタジー」を書かせてもらえるのです。

「異世界転生」の「スペシャリスト」ではなく、「正統派ファンタジー」の「スペシャリスト」を目指しましょう。





最後に

 今回は「書きたいジャンルに精通しているか」について述べました。

 ただ「書きたい」だけで小説が書けるのなら、誰も苦労しません。

「書ける」だけの知識を有しているかどうか。それが書きやすさとなって表れます。

「書きたいジャンル」を「専門ジャンル」にして、知識を集中させましょう。

 本文では「異世界転生の○○先生」は駄目と言いました。しかし「妹萌えの伏見つかさ先生」「VRMMOの川原礫先生」は立派に大成しています。

 違いがあるとすれば、それぞれのジャンルの先駆けである点でしょう。

 誰よりも先に「異世界転生」を書いたのなら「異世界転生の○○先生」でも需要はあるのです。ですが現在書店の棚は「異世界転生」であふれています。この状況で「異世界転生の○○先生」を目指しても、差別化が図れません。だから駄目なのです。

 文系の多い小説界に、理系や芸術の知識を活かした小説を書く。これも差別化です。

「プログラミング」や「CG」や「音楽」を軸にした小説なら、ある程度の差別化は果たせます。



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