1067.鍛錬篇:ライトノベル原作アニメをたくさん観る
今回は「ライトノベル原作アニメ」についてです。
これまでに数多くのライトノベルがアニメ化されました。
それらをたくさん観て、原作を読むと違いに気づくはずです。
ライトノベル原作アニメをたくさん観る
小説を書く方にオススメしたいのは、「ライトノベルから生まれたアニメ」を観ることです。とにかくたくさん観てください。
アニメは「毎週一回三十分」で観られます。CMとOP・EDを省けば正味二一分半なので時間をあまりとられません。
ライトノベル原作のアニメは毎シーズン制作されているため、どれを観ればよいのか悩むほどです。
とりあえず今なら『とある科学の超電磁砲T』は観ておいたほうがよいと思います。
課題である「ライトノベル原作アニメ」とは少し異なりますが、鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』のスピンオフアニメですし、登場人物もだいたい同じです。しかもシリーズが続いていますので、連載の仕方も身につきますよ。
アニメになるほどの設定がわかる
「ライトノベル原作アニメ」は、アニメ化しても視聴率やグッズ販売などが見込めるだけの「魅力がある」と判断されています。
もちろんアニメ製作委員会の思惑とは異なり、視聴率もグッズ販売も惨憺たる結果の作品も数多くあるのです。
それでもアニメ製作委員会が「このライトノベルならアニメ化して勝負したい」と思う作品でなければ、そもそもアニメ化の話は出ません。
今期アニメで話題となっている「ライトノベル原作アニメ」に秋田禎信氏原作『魔術士オーフェンはぐれ旅』が挙げられます。
『魔術士オーフェンはぐれ旅』は一九九四年から二〇〇三年まで富士見ファンタジア文庫で刊行されたシリーズであり、シリーズ累計発行部数は一二〇〇万部を突破しています。まさに名作が時を超えてアニメ化されたのです。
ではなぜ今『魔術士オーフェンはぐれ旅』なのか。
これは現時点でアニメ化に適したライトノベルがあまり見当たらないからです。
存在しないわけではないのですが、前期までにあらかたアニメ化されてしまっています。
今期アニメでは他に、海道左近氏原作『〈Infinite Dendrogram〉インフィニット・デンドログラム』、夕蜜柑氏原作『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。』、城平京氏原作『虚構推理』、辻村七子氏原作『宝石商リチャード氏の謎鑑定』くらいしかありません。
前期は川原礫氏原作『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』、賀東招二氏原作『コップクラフト』、土日月氏原作『慎重勇者〜この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる』、天城ケイ氏原作『アサシンズプライド』、香月美夜氏原作『本好きの下剋上〜司書になるためには手段を選んでいられません〜』、駱駝氏原作『俺を好きなのはお前だけかよ』、FUNA氏原作『私、能力は平均値でって言ったよね!』、野崎まど氏原作『バビロン』と小説主にライトノベルがアニメ化されました。
「ライトノベル原作アニメ」のよいところは、受け手を惹き込む導入部や魅力的なキャラクターがひと目でわかる点です。
第一話はどうやって始まるのか。主人公を出して始まるのか、学園が先に出てそこへ主人公がやってくるのか。受け手を惹き込む導入部がどのようなものなのかを知るのです。
また主人公にはどんな特徴があるのか。脇を固めるキャラクターにはどんな魅力があるのか。それがわかると自身の小説にその要素を取り入れられます。
ただし今期アニメを今から観ても、第一話がどうなっているかわからないので「よい入り方」はわからないと思います。可能であれば動画配信サイトで第一話をチェックしましょう。
「ライトノベル原作アニメ」は古くから存在します。どれだけ昔のアニメであっても、ライトノベル原作なら参考になるのです。
理由を考えてみよう
あなたがそのアニメに惹きつけられたのはどのような理由でしょうか。
OP・EDがよかった。というのであれば、物語とはまったく関係がないので論外です。
酒場のシーンから始まって、突然躍り込んできた暴漢どもがマシンガンを乱射したとします。主人公が涼しい顔して暴漢どもを反撃不能に追い込むさまが描かれる。
たったこれだけでいろいろわかりますよね。
ガンアクションものだろうなとか、主人公はとても強いんだなとか。西部劇ふうの世界観なのかなとか。
そういったものの中で、なにが最もインパクトがありましたか。どんな「理由」でその作品に惹き込まれたのでしょうか。
それがわかれば、あなたの作品にも活かせます。
小鬼たちに村を襲われて逃げまわっていたが、行き止まりに追い込まれてあわや! というところで白馬の騎士が現れて小鬼たちを瞬時に壊滅させる。
これでわかるのは「いきなりピンチ!」な展開にすると、受け手はつい惹き込まれてしまうのです。
先ほどのガンアクションものの場合も、いきなり暴漢どもがマシンガンを乱射するという「いきなりピンチ!」な展開になりましたよね。
この「いきなりピンチ!」は受け手に強い印象を与えます。
だからといって、すべての物語を「いきなりピンチ!」にするわけにもいきません。
日常もの・青春ものの場合、始まりは「スロースタート」のほうが作風に合います。
ゆっくりと丁寧に登場人物の感情の機微を書き分けて、「これは青春ものだなぁ」と思わせるのです。
もちろん「スロースタート」に見せかけて「いきなりピンチ!」に陥るパターンもあります。
賀東招二氏『フルメタル・パニック!』であったり川原礫氏『ソードアート・オンライン』であったり。
「スロースタート」のように見せかけて、その後「いきなりピンチ!」を起こしてしまうのです。落差があるぶん「いきなりピンチ!」を強調する効果があります。
このあたりは実際にアニメを観て、「こんな始め方もあるんだ」「こんな展開の仕方もあるんだ」と気づきましょう。
「ライトノベル原作アニメ」は、原作のライトノベルとまったく同じ始まり方をまずしません。多くは構成と脚本を担当する方が、その作品にふさわしい始まり方を決めます。
原作のライトノベルがとても人気だったとしても、アニメにすると構成や展開に粗さが見られるものです。
それをアニメのプロである脚本さんが、作品にふさわしい始まり方へ改めます。
そして私たち「ライトノベル原作アニメ」の視聴者は、その始まり方を観て「この作品は面白そうだ」と感じるわけです。
アニメ初回を観て「この作品は面白そうだ」と思えば、次週が気になります。そうしてリピーターが増え、今クールの放送が終わると「この続きはどうなっているのだろう」とか「原作ではどんな展開になっているんだろう」と確認したくなるのです。
だからアニメ化された原作ライトノベルの多くは、アニメ放送後に売上を伸ばします。
卵が先か鶏が先か
ライトノベルが原作のアニメは、ライトノベルの連載が始まって三巻から五巻くらいでアニメ化の話が来ると言われています。
つまり連載が軌道に乗るとすぐに要請が来るわけです。
なぜこんなことが可能なのでしょうか。
それはアニメのプロデューサーや監督から「この作品は先々の展開次第で面白くなりそうだ」と、設定が出揃った段階で見極められるからです。
それならプロデューサーや監督が自らライトノベルを書けば大ヒットしそうに思えますよね。しかし彼らはアニメのプロであって、小説のプロではありません。アニメの需給は見極められても、小説としてウケるかどうかはわからないのです。
その小説が売れるかどうかを見極められるのは、出版社レーベルの編集者です。
彼らはとても多くの小説に接してきています。だからどんな小説がヒットし、どん詰まりになるかを経験で理解しているのです。
小説投稿サイトでたまに開催される「アニメ化権付き小説賞」では、出版社レーベルとアニメ製作会社の方々が集まって大賞作品を決定しています。基本的にアニメ製作会社の意見が通りやすい。それは「紙の書籍」の売上ベースよりも、「アニメ」の売上ベースのほうが桁違いに高いからです。アニメのほうが利益が見込めます。だからわざわざ「アニメ化権付き小説賞」を企画してまで作品を集めているのです。
とくにライトノベルの場合「紙の書籍」の見込みが先か、「アニメ化」しそうかの見込みが先かは境界線があいまいになっています。
「アニメ化」されずに連載が終わる作品のほうが多いのも事実です。
しかし社会現象になるほどの作品は「紙の書籍」もヒットしますし、「アニメ化」しても関連グッズの販売が好調になります。たとえ一クール契約の「アニメ化」でも、結果として次の「アニメ化」契約が締結されるのです。
丸戸史明氏『冴えない彼女の育て方』や川原礫氏『ソードアート・オンライン』がこのパターンで、今はとりあえず一クールやってみて、反響次第で次の一クールを作るパターンになっています。
「紙の書籍」が先か「アニメ化」が先か。
基本的に「アニメ化権付き小説賞」でないかぎりは「紙の書籍」が優先されます。
「アニメ化権付き小説賞」の場合は「アニメ化」が優先されて、そのアニメのノベライズの形で「紙の書籍」化されるのです。
今回のコラムでは「ライトノベル原作アニメ」を例に挙げていますので、「紙の書籍」が先という前提になっています。
最後に
今回は「ライトノベル原作アニメをたくさん観る」ことについて述べました。
ライトノベルのひとつの目標が「アニメ化」です。
自分の書いた文字が映像になって音声が付く。これだけでもテンションが上がりますよね。
「アニメ化」を見据えた小説を書くには、「ライトノベル原作アニメ」をたくさん観ましょう。
「アニメ」と「紙の書籍」とでは始まり方が異なる作品がかなりあります。
多くは「アニメ」のほうが受け手を惹きつける出だしになっているものです。
それは、第一話の始まり方次第で数千万円から数億円が左右されるアニメ業界のシビアな価値判断にあります。
「紙の書籍」は数百万円で初版初刷三千部ほどから始められますが、「アニメ」は一度始めてしまうと一クール終えるまでに数千万円から数億円かかるのです。
だから「アニメ」は早々失敗できません。
徹底的に第一話の始まり方で、多くの受け手を惹きつけられるように工夫を凝らします。
小説がアニメから学べるものはとても多いのです。
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