1059.鍛錬篇:コントロールしない

 今回は「コントロール」についてです。

「あなたの素の思考」を紙のノートへ書き出すとき、ついコントロールしようとしてしまいます。

 それは理性が本性を暴かれたくないと訴えているからです。





コントロールしない


 ノートに「あなたの素の思考」を書き出すトレーニングをするとき、絶対に書く内容をコントロールしようとしないでください。

 野性や本能を無制限に解き放つのです。

 限界を作らないためには、理性でコントロールしない「根源的な意識」を手に入れなければなりません。




理性のコントロールが駄作を生む

 物語をつくるまた文章を執筆している際、内容を無意識にコントロールしてしまう方が殊のほか多いのです。

 たとえば「障害者を出したい」とか「性的マイノリティーにウケる小説が書きたい」とか「ランキング一位になりたいとか。そういう欲が無意識のコントロールを生み出します。

 そして無意識のコントロールが働いた小説は、読んでいてまったく面白くないのです。つまり箸にも棒にもかからない「駄作」になります。

 物語づくりや小説の執筆時に、内容を無意識にコントロールしてしまうと、「意表を突くアイデア」は浮かんできません。

 作品の「面白さ」は「意表を突くアイデア」が盛り込まれているかどうかにかかっています。

 だからこそ、ノートに「あなたの素の思考」を書き出すトレーニングのときから、無意識にコントロールが働かないよう無心になって没頭してほしいのです。

 無意識のコントロールは、理性が生み出しています。




独自の哲学を持つ

 無意識でコントロールしようとしない。しかしそれを意識すると、それは無意識ではなくなる。

 なにか哲学めいてきましたね。

 実は小説を書く技能スキルは、書き手の哲学に大きく左右されます。

 たとえば「生きる」というテーマで小説を作ろうとするとき、「生きる」に関する哲学が書き手にないと表現しようがないのです。

 あなたは「生きる」というテーマに一家言いっかげんありますか。

 よくあるのは「死ぬまでの暇つぶし」です。

 ではその哲学で『ソードアート・オンライン』と同じVRMMORPG世界での「デスゲーム」の小説を書いてみたらどうなるでしょうか。

 主人公は「死」を怖がらないと思いませんか。「デスゲーム」を攻略しようとも思わないかもしれません。いつまでも暇つぶしできますからね。

 人気のある『ソードアート・オンライン』も、川原礫氏の哲学でなければ書けなかった作品です。同じ哲学を内包しているから『アクセル・ワールド』も多くの読み手を惹きつけました。

 また「なぜ戦うのか」にも一家言あるとよいですね。

 異世界ファンタジーでの王道勇者ものを書くときにも「なぜ戦うのか」という哲学の背骨バックボーンがなければ、物語がとても薄っぺらくなります。

「困った人たちを放っておけないから戦う」という鉄板の哲学であっても、それがあるだけで物語は分厚くなるのです。

「面白い」小説を書けるかどうかは、あなたに哲学があるかないかにかかっています。




あなたの素の思考の奥底へ

「あなたの素の思考」を無意識でコントロールしないためには、なにも考えずに没頭するのです。

 ノートに書き出すときは、つねに「あなたの素の思考」だけを見つめてください。

 脇目も振らず、一心に「あなたの素の思考」の奥底へと潜っていくのです。

 小説の書き手は全員「ナルシシスト」ではありません。ですが、自分の深層心理、潜在意識を見つめてきた方ばかりです。

 それは「己の素の思考」を的確に取り出すための、通過儀礼とも呼べます。

 自分の深層心理、潜在意識を正しく理解すること。

 どんなものが「好き」で「嫌い」なのか。「生きる」とはなにか。「死ぬ」とはなにか。「愛」とはなにか。「学ぶ」とはなにか。

 あなたが本質的にどう理解しているのかを見つけ出さなければなりません。

 それがあなたの哲学です。

 前述しましたが、己の哲学をきちんと理解している方が書いた物語は分厚くて底が深い。含蓄があるのです。

 たとえあなたと違う哲学を持つ読み手であっても、「へぇ、こんな捉え方もあるんだ」と興味深く読み進めてもらえます。

 あなたの哲学とは異なり、多くの方が好むであろう哲学をうわべだけなぞって小説を書けば、閲覧数(PV)だけは増えるでしょう。しかし物語が薄っぺらく感じて、ブックマークや評価はつかないのです。

 だから流行りを追うのではなく、「あなたの素の思考」から見出だした哲学を元にした小説を書いてください。

「あなたの素の思考」へたどり着くために、深く、より深く没入していきましょう。

 奥底にある「あなたの素の思考」の根源にたどり着くまで没入できたら、その日の物語づくりを始められます。

 ノートに「あなたの素の思考」を書き出すのはトレーニングであり、また物語づくりの準備運動で行なうストレッチなのです。

 慣れれば一瞬で「あなたの素の思考」へたどり着けるようになります。

 そうなれば「小説が書けない」事態にはけっして陥りません。

 自分自身の頭の中、心の中をなにものにも邪魔されず紙のノートへ書き出せる技能スキルを手に入れましょう。





最後に

 今回は「コントロールしない」ことについて述べました。

「あなたの素の思考」を紙のノートへ書き出す際、無意識にコントロールしてしまいがちです。つい理性が働いてしまいます。

 しかしその状態では小説を書けません。

 小説は「コントロール」して書けるものではないのです。

 なにものにも、とくに理性にも束縛されない「自由なイメージ」こそ、魅力的な物語へとあなたを導きます。

「あなたの素の思考」へたどり着けば、ときに自分で思いもつかなかった展開が引き出せるのです。



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