鍛錬篇〜まったく書けない方が書けるようになる
1057.鍛錬篇:あなたの素の思考を書き出そう
今回から新篇「鍛錬篇」が始まります。
伝えたいことはこれまでにすべて書きましたが、それでも書けない方もいらっしゃると思います。
そんな方に「文章を書き慣れて」いただくのが本篇の目的です。
書けない方も、いつか必ず書けるようになります。それが単に早いか遅いかの差でしかありません。
あなたの素の思考を書き出そう
千回を超える連載をご覧になっても、なお小説が書けない方もおられるでしょう。
あれこれ考えて「根本的に何が足りないから書けないのか」を形にしていきます。
まずは「思いついたことや考えたことを書き出してみる」ことから始めましょう。
用意するのは紙のノートと筆記具
皆様に用意していただきたいものがあります。
ひとつが紙のノート。もうひとつが消せないボールペンか安物の万年筆です。
これから皆様にいろいろと書いてもらいます。
「それなら、シャープペンシルか鉛筆のほうがよくないですか?」という疑問も湧くでしょう。
私が用意してもらいたいのは「消せない」筆記具です。なぜ「消せない」筆記具をオススメするのか。その理由は後述します。
筆記具は、スラスラと滞りなく書けるものがよい。ボールペンは品質が商品によってまちまちなので、複数のボールペンを店頭で試して「思いどおりにスラスラと書ける」ものを選んでください。安物の万年筆はプラスチック製のカートリッジ式を選びましょう。けっこう安いですし、ボールペンのようにインクが詰まる心配もありません。お近くの文房具店に安物の万年筆が置いてあったら「物は試し」と買ってみましょう。インクが詰まらないというのは、想像以上に快適ですよ。
ノートは書き慣れているものでかまいません。罫線があろうとなかろうと方眼紙だろうと原稿用紙風だろうと、いろんなノートを試してもらい、いちばんしっくりきたものを使っていただきます。安いからといって、いきなり五冊セットは買わないでください。まずは一冊ずつ買ってきましょう。用途によって使えるノートも異なりますので、その意味でも初めてならたくさんの種類のノートを用意するのがオススメです。
今思っていること考えていることを一心不乱に書き込む
ノートと筆記具が揃ったら、椅子に座って机の上にノートを置き、筆記具を手にしましょう。
ここからが今回のポイントです。
あなたが「今思っていること考えていること」を「一心不乱」に「縦書き」で書き込んでください。
最初は五分も書けないと思いますが、慣れてくれば三十分でも一時間でも書いていられますのでご心配なく。
書いてもらいたいのは「あなたの素の思考」です。
人間は誰にでも迷いがあります。Aと思っていたとしても、BかもしれないCかもしれないと考え始めるのです。あれやこれやと考えだして、そのうち収拾がつかなくなります。
文章を書き慣れていない方は、そもそも書き始められないのです。書こうとしても「書く」という行為に慣れていない。人間、慣れていないことをやろうとしても、目的を達成できません。包丁を満足に扱えない方が、魚の三枚おろしや大根の桂剥きをやるのはほぼ不可能ですよね。
だからこそ「あなたの素の思考」をそのままノートに書き出していただきたいのです。
もし「今なにも思っていないし考えてもいない。迷いもないし希望もない」という状態であれば、それを書いてください。「私には迷いがない。」と書くのです。ほら、文章が書けたではないですか。次に「とくに希望もない。」と続けてみましょう。
これなら「書ける」はずです。文章を書くのは難しくないのです。あなたの頭の中に浮かんでいるものを、ただそのまま書き出しましょう。
「縦書き」するのは小説を書くためです。現在は小説投稿サイトが全盛で、そこでは主に横書きで小説を読みます。ですが、もし「紙の書籍」化の話が決まったなら、その作品は縦書きで印刷されるのです。「縦書き」で読んでも違和感を覚えないためには、文章を書くトレーニングの最初から「縦書き」するのが最も効率がよい。最初から頭に叩き込んでおけば「雀百まで踊り忘れず」、「縦書き」に苦しめられなくなりますよ。
読み返さない、書き直さない
あなたの頭の中を書き出しています。
このとき「ここまで書いてきたけど、どんなことを書いたのだろう」と読み返さないでください。読み返してしまうと、どうしても「あなたの頭の中」がそれに引きずられてしまいます。
書いていただきたいのは「あなたの素の思考」なのです。「論旨をまとめる」「首尾一貫させる」ではありません。物語として面白いかつまらないかでもありません。一文目の主張と、今書いていることが正反対でもかまわないのです。それが今の「あなたの素の思考」を表しています。
だから「あなたの素の思考」をノートに書き出しているときは、絶対に読み返さないでください。もし読み返してしまったら。そこで今回の執筆は終了です。
読み返さないで書いていられる時間を伸ばしていくように心がけましょう。
また誤字をしてしまっても、けっして二重線を引いて余白に正しく書き込もうとはしないでください。誤字もそのまま残しておきます。書きながら気づいて訂正したくなったら「そう思ったことをそのままノートに書き出し」ましょう。たとえば「結婚してから20週年を迎えた。」と書いて、すぐ誤字に気づいたら「あ、週じゃなくて周か。」と素直に書けばよいのです。
誤字の訂正は編集作業であって、執筆作業ではありません。
「とりとめのない内容しか書いていないのでは」との考えが持ち上がっても、話をまとめようとしないでください。それも編集作業です。この場合も「とりとめのない内容しか書いていないのでは。」とそのまま素直にノートに書きましょう。
あえて「消せない」筆記具を用意してもらったのは、編集作業ができないようにしたかったからです。
頭の中にある「あなたの素の思考」を文章として書くとき、読み返しも書き直しもしないでください。
それは編集作業であって、執筆作業ではないのです。
これは小説の執筆時でも当てはまります。
いちいち一文を書いては「いや、ここはこう書いたほうがより伝わるのではないか」とか「もう少しパンチの効いた比喩を書きたいな」とか考えないでください。これらも編集作業であって執筆作業ではないのです。
あなたにまずやってもらいたいのは「執筆作業に慣れる」であって「編集作業に慣れる」ではありません。
「編集作業に慣れる」のは後からいくらでも経験できます。
しかし「執筆作業に慣れる」のは、文章を書き続けなければ伸ばせません。しかもできるだけ長い時間書き続けられるようになっていただきたいのです。私は本コラムを約千日間で三百八十万余字書き続けました。「継続は力なり」。これは真実です。
だから読み返しも書き直しも厳禁としました。
読み返してしまったらその場で終了です。書き直してしまっても即終了。
そのくらい、自分の思ったこと考えたこと感じたことに没入していただきたいのです。
ノートに書く材料はすべてあなたの頭の中、心の中にあります。
これは、それを拾ってノートに書き出すトレーニングなのです。
小説の物語も、あなたの頭の中、心の中で繰り広げられているドラマを体外へ取り出すもの。つまり今回のトレーニングと共通しています。
「あなたの素の思考」をノートに書き出すトレーニングは、そのまま「ドラマを体外へ取り出す」トレーニングでもあるのです。
PCもスマホも使わない
ここまでお読みになって「そんなことなら、PCでもスマホでもできるよね。だったらそれで同じことをするわ」と思った方もいらっしゃるでしょう。
ですが、PCもスマホも禁止です。
なぜなら双方とも「編集作業」をしながら文字を入力しなければなりませんから。
「ですが、PCもスマホも禁止です。」という文を、それらの機器へ入力すると考えてください。
まず読みを「ひらがな」で入力します。そして「変換」して希望の「候補」を選択して「確定」させなければなりません。英数字を入力するモードに変更して入力し、また日本語を入力するモードへ変更します。とくに英数字は全角文字を入力する必要がありますから、なおさら「変換」がたいへんです。どの字が全角文字かを判断するのも難しい。
ここまで書いてお気づきの方もいらっしゃるはずです。
この「変換」して「候補」から漢字を「確定」すること、入力モードを変更すること。これは「編集作業」であって「執筆作業」ではないのです。
紙のノートに「消せない」筆記具で縦書きすれば、そんな「編集作業」は最小化できます。
もしあなたが英語で小説や文章を書きたいのであれば、PCやスマホを使うのも悪くありません。入力モードを変更することもないですし、複数の「候補」から漢字を「確定」させる必要もないからです。
しかしPCやスマホに日本語を入力するのは、厄介な「編集作業」が必ず付きまといます。「すべてひらがなで書く」という手もありますが、日本語には同音異義語が多いので、これだと書いた本人でも後から読み返してもわからなくなるのです。
だから日本語で小説や文章を書くトレーニングは、紙のノートに「消せない」筆記具で「縦書き」します。
それが最も効率がよいからです。
最後に
今回は「あなたの素の思考を書き出そう」について述べました。
小説を書きたいんだけど、一文すら決まらない。
それ、当たり前です。
文章を書くトレーニングをしていない方は、一文すら書けません。
そのトレーニングこそ「あなたの素の思考」を「紙のノートに消せない筆記具で縦書きする」です。
どんなにとりとめのない文でもかまいません。とにかく頭の中に、心の中に浮かんだものをノートに書き綴ってください。
最初は五分でもよいのです。慣れてくれば十分、三十分、一時間と、どんどん伸ばしていけます。
「あなたの素の思考」には、あなたが書ける物語の根源が眠っているのです。
将来小説を書くようになったら、そのときノートを広げて過去の自分と対面しましょう。きっと驚くようなネタに出会えますよ。
実は、本コラムもこの手法を取り入れています。
まず「コラムのお題」を決め、そこから私の思考が動いて文章の大筋を決めるのです。長さが確保できたらケリをつけ、冒頭に戻って推敲作業を始めます。
これを千回以上繰り返してきました。
少しはまともな文章が書けるようになったでしょうか。
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