1046.対決篇:同じ人物が何度も出てくる

 今回は「同じ人物が複数の作品に登場する」ことについてです。

 要は「別の人物を思いつけない」発想の貧困さを物語っています。

 皆様は、必ず作品内で人物も物語も完結させてくださいませ。





同じ人物が何度も出てくる


 村上春樹氏の小説では、同じ人物が何回も登場するそうです。

 今回も要所でちくま文庫・ナカムラクニオ氏『村上春樹にならう「おいしい文章」のための47のルール』を引いていきます。タイトルが長いので『47のルール』と呼びます。




同じ登場人物が出てくる

『47のルール』によると「長編『ねじまき鳥クロニクル』に登場する高校生、笠原メイは、主人公、岡田亨の家の近所に住んでいます。かつらメーカーでアルバイトしており、学校へは行かずに、家の庭で日光浴をしたり、裏の路地を観察して過ごしています。」とあります。

 またしても弱者を揶揄やゆする設定です。高校生がアルバイトをしていて、学校へ行っていない。ある種の自由を表現したいのでしょうが、それなら「高校生」にする必要がないですよね。高校などやめさせてかつらメーカーに就職させればよいわけですから。

 また「しかし、この笠原メイという名前の人物は、『パン屋再襲撃』の「双子と沈んだ大陸」や『夜のくもざる――村上朝日堂短篇小説』の「うなぎ」にも登場する謎の人物です。ファンは「あれ? この人知ってる」と気づき、うれしくなるものです。/ おそらく、これはファンサービスだと思います。」とあります。

 異なる小説に同じ人物が登場する。これはファンサービスなのでしょうか。

 違います。ただの手抜きです。

 自身の作品の奥深さを演出したいがために、同じ人物を登場させるという手がないわけではありません。

 ただあれにもこれにも出てくるようでは世界観が画一化してしまい、読んでいて刺激を受けないのです。


 また「『TVピープル』の「加納クレタ」に登場する人物、加納クレタは、山の中の古い一軒家で、姉の加納マルタと暮らしています。一級建築士の資格を持った謎の美女ですが、その後、『ねじまき鳥クロニクル』にも、同じ名前の姉妹が登場します。」とあります。架空の人物さえ思い浮かばないのですね、村上春樹氏という男は。

 小説を書こうという人間であれば、架空の名前のひとつやふたつ、ポンと出てこなければなりません。使い捨ての名前などいくらでも思い浮かぶものです。しかし村上春樹氏は横着してなのか、同じ名前の人物が複数の作品に登場します。

 たとえ同じ雰囲気を持っているからといって、同じ名前の人物にしてしまうと、そこが他の作品とリンクしてしまう。そうなると、その作品を読んでいない方にとってはなんのことだかわからない状態に置かれます。つまり「読み手の側に立っていない」のです。

 この名前の人物はこの作品にも出しました。ということを「あとがき」にでも書けば別ですが、書かずに掲載しているのですからたちが悪い。

「不思議な直感を持ち、水を媒体に使う占い師マルタは、いつも赤いビニールの帽子をかぶっていて、報酬は受け取りません。地中海のマルタ島で修行していた経験があり、彼の地における水との相性がよかったために「マルタ」と名乗るようになったという設定です。この場合も、人気のある短編の登場人物が長編小説でも活躍することで、ファンは大喜びです。/ 同じ登場人物が何度もくり返し登場するとうれしいという、マニアックなファン心理をつかんだ仕掛けです。」としています。

「人気のある短編の登場人物が長編小説でも活躍することで、ファンは大喜びです。」は明らかに読み手をバカにしているのです。

 たとえば「小説賞・新人賞」への応募作で、毎回「同じ人物が登場」したら、選考さんはどう思いますかね。私なら「この書き手、またこの人物を使っているよ。よっぽど気に入っているのだろう。でも他に思いつかなくてこの人物を再利用しているだけではないのか」と穿うがった見方をしてしまいます。

 プロの書き手であれば、同じ名前の人物が登場しても許されるのでしょうか。

 私は駄目だと思います。

 作品はシリーズものでないかぎり、ひとつの世界観で完結しているべきなのです。村上春樹氏は多くの物語をひとつの世界観にまとめてしまっています。これではどこからどこまでが今回の物語なのか、読み手はわからなくなるのです。

 それがよい方向へ転べば「世界が広がる」のでしょうが、村上春樹氏のように頻出する場合は「他に登場人物が思い浮かばなかったんだな」としか思えません。

「同じ登場人物が何度もくり返し登場するとうれしいという、マニアックなファン心理をつかんだ仕掛け」でもなんでもなく、村上春樹氏にはひとつの作品世界しか作れないのです。だから「同じ世界観」である別の作品の登場人物をためらいもなく登場させているだけでしょう。


「羊男や羊もたびたび登場します。羊男が村上さんの分身的存在であるように、羊は村上ワールドを代表する動物と言えるのです。『羊をめぐる冒険』の執筆時に北海道を旅してまわったという村上さんは、羊についてかなり詳しく調べています。そのとき取材を受けた緬羊研究の第一人者、平山秀介さんは、東京からやって来たヒッピー風の夫妻から熱心な質問を受けたため、てっきり羊飼いになりたいのだと思っていたら、その後、サイン入りの『羊をめぐる冒険』が送られてきた、というエピソードを明かしています。」

 これは相当胡散うさんくさい取材のやり方ですね。

 取材はきちんとこちらの身分を名乗ったうえで行なわなければなりません。

 たとえば報道員が取材をするときは、どこの放送局のどの番組を担当している○○というものです、と示してからでなければ取材できないのです。

 雑談して勝手にその内容を使うのは、「取材」におけるルール違反でしかありません。しかも内緒で聞いただけでなく、完成した書籍にサインを入れて勝手に送りつけるなんて、アンフェアもよいところです。

 想像するに村上春樹氏は、取材して書いているだなんて思われたくないのでしょう。すべて彼の才能で書いているのだと思われたい。だから取材対象にすら身分を明かさないのです。

 皆様が取材する際には、必ず身分を明らかにして「小説を書いていて、こういうことを知りたいのですが、おわかりになりますか。」くらいの姿勢で対応してください。

「羊男は、『羊をめぐる冒険』と『ダンス・ダンス・ダンス』に登場した羊の格好をした人間で、羊の毛皮を頭からすっぽりかぶっています。主人公のインナーチャイルドのような、異界の隠者的存在です。「僕にとっての永遠のヒーロー」だと作者自身も認める村上さんの分身的キャラクターです。」とあります。他にも「『羊男のクリスマス』、『不思議な図書館』、短編「シドニーーのグリーン・ストリート」、超短編「スパゲティー工場の秘密」(『象工場のハッピーエンド』)など、さまざまな作品に登場しています。」と書かれています。


 作者の代理として、ある人物が登場する作品は村上春樹氏以外にもけっこうあるのです。しかし、ここまで頻出すると正直「村上春樹氏は主人公を書きたいのではなく、羊男を書きたいのではないか」と思ってしまいます。

 作者は自己を主張してはなりません。しかし「羊男」はその格好からして主張しまくっていますよね。これでは「自己顕示欲」「承認欲求」の顕れとしか思えません。よほど自分の書いた小説に自信がないのでしょう。自信がないから作者の代理である「羊男」を登場させて心の安定を図っているのです。

 前回「村上春樹氏の差別意識」について取り上げましたが、そんな村上春樹氏自身がある種の被害者意識を持っているのではないでしょうか。そのはけ口として、自分よりも弱者である障害者をことさら奇妙に登場させて「差別」しているようにすら感じます。

 村上春樹氏を神のように思っている書き手の方、本コラムをお読みの方からお叱りを受けるでしょう。

 しかし本コラムは、書き手である私がそれをどう感じるのか、どう考えるのかを書く場でもあります。私は自分に「障害」があると感じていますし、だからこそ「差別」はけっして許されないとの立場です。

 人間であれば誰だって、どこかに「障害」を抱えています。「障害」を持たない方のほうが少ないくらいです。

 だからこそ「差別」をしてはならない。自分の弱さをさらなる弱者への「差別」で隠そうとする姿勢も許されません。

 私の精神性メンタリティーが村上春樹氏とはまったく異なるのだと実感しました。

 だから私は村上春樹氏が嫌いなのだと自覚したのです。

 自分の弱さを「永遠のヒーロー」である「羊男」に託している村上春樹氏に「差別」されるほど、私は弱い人物ではありません。むしろ村上春樹氏こそが「障害」を持つ弱者であると見なせるほどです。

 真に健常者で心やさしい書き手なら、弱者を「差別」しませんし、己に助け舟など出しません。普通に物語を紡ぎ、普通に結末を迎えればよいのです。なにも弱者への「差別」や永遠のヒーローへの「逃げ」を打つ必要などないのです。





最後に

 今回は「同じ人物が何度も出てくる」ことについて述べました。

 回を重ねるごとに、村上春樹氏という虚像が化けの皮を剥がされていくように思えます。

 同じ人物を別の作品にまたがって登場させる必要などどこにもありません。

 それが村上春樹氏流だというのなら、それは発想の貧困さを読み手に植え付けているだけです。

 この手法を使って「小説賞・新人賞」へ作品を応募しても、大賞を射止められないでしょう。

 ひとつの作品内で人物も世界観も完結している、パッケージされている小説を書きましょう。



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