1041.対決篇:つながらない・わからない・ダジャレのタイトル

 今回も村上春樹氏と対決します。独り相撲ですが。

 村上春樹氏のタイトルは不思議なものが多い。

 その原因を『47のルール』で見つけました。





つながらない・わからない・ダジャレのタイトル


 村上春樹氏の小説のタイトルは「つながらない」「わからない」「ダジャレ」の作品が多いとされます。

『Wikipedia』で短編小説のタイトルを見ているとよくわかるでしょう。

 今回も要所でちくま文庫・ナカムラクニオ氏『村上春樹にならう「おいしい文章」のための47のルール』を引いていきます。タイトルが長いので『47のルール』と呼びます。




つながらないタイトル

「つながらないタイトル」をつけると村上春樹調になるようです。

『47のルール』では『飛行機――あるいは彼はいかにして詩を読むようにひとりごとを言ったのか』という短編小説に注目しています。

 なにを言いたいのかわからないのですが、「詩を読むみたいにひとりごとを言う二十歳の男」が主人公。「七歳上で既婚者の彼女がいて、ある日、彼女から自分が口にしているひとりごとについて指摘されます。記録されたメモ用紙を見せられると、飛行機にまつわる詩のようなひとりごとが書かれていた、というお話」だそうです。

 この中で私が引っかかったのが「七歳上で既婚者の彼女」という部分。いかにも村上春樹氏の小説世界を表すような「退廃的」な設定です。旦那にバレたらただではいられないような人物が彼女に設定されています。村上春樹氏は「後ろ暗い」「背徳感」というより「そのほうが面白そうだから」という理由でそうしているのでしょうか。

 これが「村上春樹氏の世界観」だとすれば、彼にノーベル文学賞は渡らないはずだと気づきます。

 この短編小説を成立させるためには、彼女が「七歳上で既婚者」である必要はありません。タイトルだけを見れば、同い年で普通に付き合っている女性が「彼女」であっても成立するのです。

 とくに「短編小説」ですよ。あえて「退廃的」な「七歳上で既婚者」の彼女にして、その伏線は回収されるのでしょうか。彼女の旦那が二十歳の主人公へ殴り込みに来るのでしょうか。

 短編小説でそこまでのドラマは見せられませんよね。

 この作品のキモは「詩を読むみたいにひとりごとを言う」主人公であり、「七歳上で既婚者」の彼女ではないはずです。

 もしこの短編小説が「七歳上で既婚者」の彼女から「飛行機にまつわるひとりごと」をメモで見せられた主人公の話であれば、彼女の旦那が殴り込みにくるなど考えられませんよね。それこそ「テーマ」がふたつになって散漫な短編小説でしかなくなります。とても「プロの書き手」による作品だとは思えません。


 また『47のルール』では「あるいは」を村上春樹氏の特殊な接続詞のひとつと解説しています。『飛行機――あるいは彼はいかにして詩を読むようにひとりごとを言ったのか』の他に『自己とは何か(あるいはおいしい牡蠣フライの食べ方)』というつながらないタイトルを挙げているのです。

「あるいは」は「AでなければB」を意味する接続詞。村上春樹氏はこれをまったくつながらない「AとB」を並べるためだけに使います。

『飛行機――あるいは彼はいかにして詩を読むようにひとりごとを言ったのか』は、「飛行機」という物体の名詞と「彼はいかにして詩を読むようにひとりごとを言ったのか」という一文のどちらかを選ぶというまったく「つながらない」用い方をしているのです。

『自己とは何か(あるいはおいしい牡蠣フライの食べ方)』は、「自己とは何か」という問いと、「おいしい牡蠣フライの食べ方」という行為のどちらかを選ぶというまったくつながらない用い方をしています。

 あなたが村上春樹氏を模倣したいなら、まったくつながらないものを「あるいは」でつなげてみましょう。いかにも村上春樹氏が書きそうなタイトルになるはずです。(あくまでも皮肉ですからね)。




わからないタイトル

『47のルール』ではいずれも短編小説で『土の中の彼女の小さな犬』『UFOが釧路に降りる』『どこであれそれが見つかりそうな場所で』『日々移動する腎臓のかたちをした石』を挙げて「謎が残り、続きが気になってしまいます。/ これは人を惹き付ける心理術として使われている「ザイガニック効果(中断効果)」というものです。」と書いてあります。

 私から見れば「ただ日本語がまともに書けない、哀れな書き手のくだらないタイトル」にしか映りません。

 まず『土の中の彼女の小さな犬』ですが、助詞「の」は二連続までという日本語の文章の基本が出来ていません。だから複数の意味が生じてしまうのです。それを意図してあえてこういう書き方をしたとも言えますが、短編小説で読み手をあえて混乱させる必要はないはずです。この場合「彼女」が土の中にいて、その彼女が飼っていた小さな犬と読むこともできます。彼女が飼っていた「小さな犬」が土の中にいるとも読めるのです。前者ならミステリー小説になりますし、後者なら日常小説になります。タイトルひとつでまったくの別物になってしまうのです。だから助詞「の」は二連続までと決められています。それを無視している村上春樹氏を私は端から評価できません。

『UFOが釧路に降りる』なんて「中断効果」というよりも「はい、そうですか」で終わりです。続きが気になるほどのものではありません。このタイトルはただの状況の説明文ですよね。

『どこであれそれが見つかりそうな場所で』は「それが」がなにを指しているのかわからない。それを「中断効果」と言うのでしょうか。これはただの「欠陥タイトル」です。「それが」がなにを指しているのかを書いていないタイトルに魅力なんてありません。ここで「想定外のものが見つかりそう」であれば「続きが気になる」かもしれない。『どこであれUFOが見つかりそうな場所で』ならどんな短編小説になりそうかわかりますよね。「なにが見つかりそうな」のかが書かれていないタイトルにしたいのなら長編小説向きです。とても短編小説に収まるはずがない。だから「欠陥タイトル」と呼ぶのです。

『日々移動する腎臓のかたちをした石』も「はい、そうですか」で終わります。まず「腎臓のかたち」を知っている読み手がどれほどいるのでしょうか。『47のルール』は「石が日々移動する」とはどういうことかだけを気にしているだけです。普通に読めば「腎臓結石」の話かな、で終わります。他になにがありますか。「石に意志はない」。村上春樹氏が好みそうなダジャレです。「石が移動する」のであれば、自発的に動いたのか他力で動いたのか。他力で動いたのなら「腎臓のかたちをした石」の指すものは。やはり腎臓結石になりませんか。これで腎臓結石の話でなかったら、やはりつながりませんしわかりませんよね。ただ単に「はい、そうですか」で流されてしまいます。

 村上春樹式「わからないタイトル」とは、欠陥のある文にしているだけです。狙っているのか天然なのか。




ダジャレのタイトル

『47のルール』では回文を五十音かるたとしてまとめた『またたび浴びたタマ』をダジャレのタイトルとして挙げています。ですが回文を得意とする方はけっこういるんですよね。なにも村上春樹氏だけにしかできないことでもない。回文のプロフェッショナルは、村上春樹氏をさらに上回るものが書けます。『またたび浴びたタマ』程度で「ダジャレ」とは片腹痛い。

 またダジャレ満載のかるたの本として『うさぎおいしーフランス人』を挙げています。この程度で「言葉あそびの才能を遺憾なく発揮しています。」と紹介しているのです。この程度『笑点』なら林家木久扇師匠が座布団をとられるだけですよ。

 エッセイ集『ランゲルハンス島の午後』も言葉あそびとしています。「ランゲルハンス島」とは膵臓すいぞう内にある島に似た部位のことを指します。『47のルール』では「学校の教科書を忘れて家に帰る途中、春の匂いに誘われて自分の臓器の一部であるランゲルハンス島の岸辺に触れたなど、ほっこりと和むエピソードが掲載されています。」と書いてあります。「ランゲルハンス島」を本当の島のように表現したと解釈していますが、言葉あそびやダジャレというよりも、村上春樹氏は「へぇ、そんな島みたいな名前の臓器があったのか」と知って一筆してみた、程度ではないですかね。高尚なダジャレでもなんでもなく。

 いずれにしてもノーベル文学賞の選考委員には伝わりませんよね。日本語のダジャレなんて。





最後に

 今回は「つながらない・わからない・ダジャレのタイトル」について述べました。

 いずれも村上春樹氏の才能を過大に評価しすぎのように思えます。

 ひとつずつ見ていくと、単に「日本語下手」なんじゃないかとさえ思えてしまうのです。

 村上春樹氏は翻訳家としての一面もあります。英語を和訳しすぎて「日本語下手」になる方もいます。英語のように、一文に必ず「主語」が出てくるというのも「日本語下手」に多い。村上春樹氏の作品はほとんど読みませんが、読もうと努力しても、文末がすべて「た。」で終わられると「駄目だ。この人日本語力が低すぎる」と感じてしまうのです。

 英訳するには都合がよいのでしょう。しかし日本語の小説としては残念としか言いようがありません。

 皆様は英訳を気にすることなく、「日本語」で小説を書いてください。



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