対決篇〜村上春樹氏は目標たりえるか

1040.対決篇:村上春樹氏の長編タイトルから見えるもの

 今回から「対決篇」に入ります。

 日本で一番有名な小説家である村上春樹氏と私との対決の場です。

 ちくま文庫・ナカムラクニオ氏『村上春樹にならう「おいしい文章」のための47のルール』を底本にしていますので、気になった方は本書をぜひ購入なさってくださいませ。





村上春樹氏の長編タイトルから見えるもの


 ここで改めて宣言致します。

 私は「村上春樹氏の作品が嫌い」です。

 そんな私が「村上春樹氏の作品」と向かい合うべく「対決篇」という物騒な篇名にしました。

 まずは表面だけでわかること。『Wikipedia』で検索してわかることについて語りたいと思います。

 また要所でちくま文庫・ナカムラクニオ氏『村上春樹にならう「おいしい文章」のための47のルール』を引いていきます。私は村上春樹氏の小説を読まないため、考察にはこの文庫本に書かれているものが欠かせません。タイトルが長いので本コラムでは『47のルール』と呼びます。




村上春樹氏の長編タイトル

 初回は「村上春樹氏の長編タイトルから見えるもの」について考察したいと思います。

 まずはリストアップ致します。


  1979年 7月23日・講談社『風の歌を聴け』

  1980年 6月17日・講談社『1973年のピンボール』

  1982年10月13日・講談社『羊をめぐる冒険』

  1985年 6月15日・新潮社『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』

  1987年 9月 4日・講談社『ノルウェイの森』

  1988年10月13日・講談社『ダンス・ダンス・ダンス』

  1992年10月 5日・講談社『国境の南、太陽の西』

  1994年 4月12日・新潮社『ねじまき鳥クロニクル 第1部 泥棒かささぎ編』

  1994年 4月12日・新潮社『ねじまき鳥クロニクル 第2部 予言する鳥編』

  1995年 8月25日・新潮社『ねじまき鳥クロニクル 第3部 鳥刺し男編』

  1999年 4月20日・講談社『スプートニクの恋人』

  2002年 9月10日・新潮社『海辺のカフカ』

  2004年 9月 7日・講談社『アフターダーク』

  2009年 5月30日・新潮社『1Q84 BOOK 1』

  2009年 5月30日・新潮社『1Q84 BOOK 2』

  2010年 4月16日・新潮社『1Q84 BOOK 3』

  2013年 4月12日・文藝春秋『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

  2017年 2月24日・新潮社『騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編』

  2017年 2月24日・新潮社『騎士団長殺し 第2部 遷ろうメタファー編』


 とここまでなのですが、同一作品をまとめると、長編小説は14本しか書いていないのです。しかも新しい長編小説まではだいたい3年前後空いています。

 これで食べていけるのかと思いましたが『Wikipedia』を見て納得しました。

 短編小説が多いのです。

 中編小説は1本しか書いていません。

 それに引き換え短編小説は96本も書いているのです。

 本コラムで再三書いてきましたが、名前を憶えてもらうまでは短編小説を中心に活動するようにオススメしています。それを村上春樹氏も実践していたのです。

 嫌いなはずなのに、妙な親近感を覚えてしまいました。でも嫌いなのですが。




長文タイトルの意味

 長編小説14本のタイトルを検証してみましょう。

 まずデビュー作『風の歌を聴け』ですが、こちらは文になっていますよね。

 この「文になっているタイトル」の発端はおそらく村上龍氏『限りなく透明に近いブルー』にあると見ています。つまり芥川龍之介賞を狙いに行ったタイトルなのです。

 村上春樹氏の他の作品では『羊をめぐる冒険』『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『ねじまき鳥クロニクル』『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』『騎士団長殺し』が挙げられます。一見すると『ねじまき鳥クロニクル』『騎士団長殺し』は文になっていませんが、いずれも3部作・2部作であり、それぞれの部にサブタイトルが設定されているため「文になっている」と判断しました。この基準から『1Q84』は3部作ですが「BOOK 1」とサブタイトルがないので「文になっている」とは見なしませんでした。


『47のルール』では『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は、アメリカの歌手スキータ・デイヴィス氏のヒット曲『世界の終り』を物語の下敷きにしていることと、ルイス・キャロル氏『不思議の国のアリス(アリス・イン・ワンダーランド)』をオマージュしているそうです。

 つまり村上春樹氏はふたつの作品に着想を得た作品を出版しました。これって「オマージュ」と言えば聞こえはよいですが、要は「アイデアの無断拝借」ですよね。自分の力で売れる作品が書けないから、すでに売れている作品で読み手を惹きつけよう。そんな邪推すらできます。しかもこれが世界的に大ヒットしたのだそうです。

 長編小説一の名前の長さを誇る『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』は「まるでライトノベルのようだ」という熱心なファンの声も紹介しています。そういう目で見ると、やはり「ライトノベルのよう」です。2013年の作品ですから、当時のライトノベルの長いタイトルを「無断拝借」したとも言えます。

『47のルール』では「これは、「主人公の名前」と「これから起きる内容」を暗示する典型的なタイトルの手法」として紹介されているのです。また「『ニルスのふしぎな旅』『ピッピの新しい冒険』『ジョジョの奇妙な冒険』などのようにベストセラー作品のタイトルは、しばしばこのかたちです。」とすら述べています。小説投稿サイトを利用する私たちは、村上春樹氏と荒木飛呂彦氏『ジョジョの奇妙な冒険』を同列に扱いたくはないところです。村上春樹氏は売れるためならなんでもするのかと憤ってしまいます。


 結局のところ村上春樹氏は「無断拝借」が好きなのです。「熱心なファンに気づかれなければ、どんなものをパクったって誰からも文句は来ない」とたかをくくっていますよね。

 ライトノベル風のタイトルだって、「あの村上春樹氏がライトノベルを書いたらしい」という憶測を呼ぶにはじゅうぶんです。そうなれば氏の熱心なファンは思わず買ってしまうのでしょう。『47のルール』によると『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』は「一週間で発行部数が一〇〇万部を超える大ベストセラーになった」と書かれています。憶測を売上につなげた「計算高さ」が窺い知れるのです。

 ノーベル文学賞の観点から見れば、このような「計算高さ」は「売るために狙っている商業主義の産物」にしか映りません。だからノーベル文学賞は村上春樹氏など眼中にないのではないでしょうか。




実在する名称を盛り込む

 他に多いものはちょっと不思議なフレーズになっているものが挙げられます。

『1973年のピンボール』『ノルウェイの森』『国境の南、太陽の西』『スプートニクの恋人』『海辺のカフカ』『1Q84』ですね。

「ピンボールはわかるが、それを1973年に設定したのはなぜか」「ノルウェイはわかるがなぜ森を取り上げたのか」「国境の南とはどこの国境なのか、自国領内なのか他国領内なのか。太陽の西とは太陽が西に傾いているのか、太陽が東から昇っている朝方から見て西側全体を指しているのか」「ソ連の人工衛星であるスプートニクの恋人とはなにか」「カフカと言えば二十世紀の文豪フランツ・カフカ氏が真っ先に思い浮かぶが、そのカフカが海辺とどんな関係があるのか」「ジョージ・オーウェル氏『1984』のタイトルをもじったようだが、関係はあるのか」

 内容がすぐには思いつかないようなタイトルが多いのです。そしてなにか疑問が生まれるタイトルになっています。

 それだけなら誰にだってできるのです。あなたも「内容がすぐには思いつかないようなタイトル」を作れます。

『47のルール』によると『1973年のピンボール』は「大江健三郎の長編小説『万延元年のフットボール』の影響だともいわれていますが」とあります。またしても「無断借用」ですか。

 また「無断拝借」の話に戻りますが、「スプートニク」「カフカ」「1984」はいずれも村上春樹氏が創造したものではありません。すでにある名称をそのまま「無断拝借」しています。とくに『1Q84』は日本人が見ればどうしたってジョージ・オーウェル氏『1984』を連想せざるをえません。パクリのそしりは免れないでしょう。


 ここで私たちに教訓が見いだせます。

「商標権のある、また特定個人の名称をタイトルに使ってはならない」


 村上春樹氏の短編小説に『BMWの窓ガラスの形をした純粋な意味での消耗についての考察』があります。「BMW」という商標権のある名称をタイトルに使っているのです。しかも『47のルール』によると「短編『レキシントンの幽霊』でも古い屋敷の玄関前に止まっている青いBMWのワゴンが登場します。『国境の南、太陽の西』でも主人公のハジメくんが乗っている車は、BMWでした。こうやって重要な「BMW」というキーワードを配置することで、バブル時代のけだるい空気感を醸し出すことに成功しています。」とさえ書かれています。

「BMW」社から訴えられないのでしょうか。

 その昔、サンライズ&富野由悠季氏『機動戦士ガンダム』に「エルメス」というMAモビルアーマーが登場しました。当初プラモデルも「エルメス」の名称で売られていましたが、程なくしてファッション・ブランドの「エルメス」から指摘され、以後「ララァ・スン専用モビルアーマー」の名称で同キットが売られることとなったのです。

 またマンガの萩原一至氏『BASTARD!! −暗黒の破壊神−』に「ビホルダー」というTRPG『Dungeons & Dragons』に由来するクリーチャーを登場させて大問題に発展しました。結局「ビホルダー」は絵が差し替えられ、名称も「鈴木土下座ェ門」に改められました。

 富野由悠季氏や萩原一至氏が駄目で、村上春樹氏が許諾されるとでも言うのでしょうか。私には合点がいきません。


 商標権のある会社や商品の名称は、ノンフィクションでもないかぎりそのまま書かないようにしてください。ただしその名称でなければならない重要な理由がある場合はその限りではないようです。

 たとえばマンガの北条司氏『CITY HUNTER』ではコルト社や「パイソン」、S&W社や「M29」などの名称をそのまま用いています。これは銃撃戦が主体である同作で現実味リアリティーを出すためには不可欠だったのです。

 また文学小説では、とくに商標権のある会社や商品の名称をそのまま用いている場合があります。これも現実味リアリティーを出したいからなのでしょうが、本来であれば回避するべきです。文学小説の場合「プロの書き手」に担当編集さんが付いているため、商標権に及ぶ部分の是非を判断してもらえます。しかし私たちアマチュアの書き手には、商標権をチェックしてくれる編集さんが付いていません。だからこそ、アマチュアのうちはできるだけ実名は避けてください。場合によっては、物語自体は面白いのに商標権のある名称を使っているという理由で「小説賞・新人賞」に落選することさえありえます。

 しかし戦争小説で銃や戦車、戦闘機、攻撃機、爆撃機、ミサイルに至るまで、実際の名称を用いないと現実味リアリティーがなくなってしまうのです。だからこの場合は意図的に実名を書いて、作品のヘッダーかフッターに「この作品はフィクションです。実在する企業・商品・人物などとは関係ありません。」のような注意書きはしておきましょう。注意書きがあればある程度は大目に見てもらえるのも、小説界隈のよいところです。





最後に

 今回は「村上春樹氏の長編タイトルから見えるもの」について述べました。

 村上春樹氏のタイトルは「ライトノベルのように長いもの」「実在する名称を用いたもの」の大きくふたつに分けられます。「単語ひとつ」のタイトルが少ないのも村上春樹氏の作品の特徴です。当人としては、「単語ひとつ」で世界観を表す才能がないのかもしれません。だから十全に表現したくて、つい長くなったり実在する名称を用いたりするのではないでしょうか。

 皆様は少なくともタイトルでは「実在する名称」は用いないでください。要らぬクレームがつくおそれがあります。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る