1039.面白篇:書きたいものだけ書けばよい

 今回は「書きたいものだけ書こう」についてです。

「面白篇」も今回で終わります。

 短くするつもりでしたが想定以上に長続きしてしまいました。

 次篇はできるだけ短くする予定です。





書きたいものだけ書けばよい


 本コラムでは以前から「自分の書きたい小説を書けないのがプロ」と言ってきました。

 この考えは揺るがしようのない事実です。

 しかし「小説賞・新人賞」を授かりたければ「自分の書きたいものを書いたほうがよい」と思います。

 応募作すら「選考さんに選んでもらえるような作品を書こう」と考えてしまうと、どこにも引っかからない無難な「丸い作品」しか生まれません。

「丸い作品」は選考さんの心に引っかからないのです。




選考ウケを狙わない

 まずこれだけは主張しておく必要があります。

「小説賞・新人賞」はウケ狙いの場ではありません。


 より高い賞を目指して切磋琢磨する書き手たちがいます。

 あなたも、そして私もです。同じ軍に所属する戦友であり功績を争うライバルとも言えますね。

 そのとき、軍功を評価する審査員である選考さんへ媚びへつらう輩が近寄っていったとしたら。

 あなたは平常心でいられますか。

 私はなにをおいても、ぶん殴りに行くでしょう。根が武闘派ですからね。

「小説賞・新人賞」で選考ウケを狙うのは、媚びへつらう輩と同じです。

 たとえば「テンプレート」を踏襲した作品を、これ見よがしに書いてくる方。明らかに選考ウケを狙っています。

「テンプレート」は過去に「紙の書籍」化されて大ヒットを記録した作品から取り出した定番パターンです。だからこそ「テンプレート」として多くの書き手が小説投稿サイトで用いています。

 しかし「テンプレート」を踏襲した作品は、雨後のたけのこのように次から次へと応募されているのです。「小説賞・新人賞」の選考さんも正直飽き飽きしているのではないでしょうか。

「今回の作品も◯◯のテンプレートか」と第一印象を持たれただけで選考には不利です。

 ですが物語の導入部のパターンはすでに出尽くしていると見てよい。導入部が「テンプレート」と同じであっても致し方ないところではあります。

 しかしできるだけ早く「テンプレート」から脱線してください。「テンプレート」の導入部でも、本編が「オリジナル」展開であれば、選考さんもガッツリと食いついてきます。

「またこのテンプレートか」と思わせて、読み進めると「テンプレート」を微塵も感じさせない。定番の出だしだけを用いて、まったく独自の物語が書ける。これが読み手にウケるか切られるかの分水嶺です。

 できれば初回投稿の導入部だけ「テンプレート」の型で入り、すぐに「オリジナル」展開させてください。「異世界転生」なら主人公は現実世界で死んで異世界へ転生するわけですが、現実世界での職業や部活などで差異を出す。将棋部員が「異世界転生」したらどうなるのか。そして異世界ではなにに転生するのかでも差異は出せます。「紙の書籍」化されたスライムであったり剣であったりと、見事に差別化していますよね。

 今ならプロゲーマーが「異世界転生」して、試行錯誤の頭脳プレイで無双するなんて面白いのでしょうか。藤井聡太氏のように異世界将棋を破竹の勢いで連勝するのでしょうか。YouTuberが「異世界転生」して、大道芸人にでもなったら面白いのでしょうか。そもそも異世界で活かせるような特技を持ち合わせているのでしょうか。

 そういった点をじゅうぶん考えて「テンプレート」を用いなければならないのです。

 これができる方は「テンプレート」で選考さんに媚を売ろうとしている輩に見えて、ひじょうにセールストークのうまい書き手なのかもしれません。営業職に就けば成績はきわめて高いと思われます。

 私たちが嫌うべきなのは「テンプレート」をそのまま利用する輩です。

「テンプレート」に見せかけた斬新な切り口を持つ作品は、ひじょうにさかしいやり方と言えます。




書きたいように書いてみる

 いったん「テンプレート」をまったく考えずに、自分が書きたいように書いてみてください。その結果として「テンプレート」作品になってしまうようなら、その事実を受け入れましょう。

 あなたの書いた小説が「テンプレート」なものになったのなら、今のあなたには「テンプレート」しか書けません。「テンプレート」以外の小説や物語を読んでいないから、頭の中に思い浮かぶストーリーも「テンプレート」に沿ったものとなってしまうのです。

 ここでふたつの選択肢があります。

「テンプレート」を書き続けることと、「テンプレート」以外の小説や物語をたくさん読むことです。


「テンプレート」を書き続けると決めたなら、「プロの書き手」はいったんあきらめてください。一生あきらめる心配はありません。「テンプレート」を極めた、という評価がついて「紙の書籍」化の話が来ることもあるからです。

 各小説投稿サイトで開催されている「小説賞・新人賞」でも、「テンプレート」と思しきタイトルの作品が佳作に残っているのをよく見ませんか。「テンプレート」はその時々で安定した売上が見込めます。だから「テンプレート」でも佳作くらいなら獲れるのです。

「紙の書籍」になるためには「テンプレート」を極めている必要があります。極めるまでは「プロの書き手」への道につながらないのです。


「テンプレート」以外の小説や物語をたくさん読むと決めたなら、今からでも図書館で「テンプレート」ではない作品、とくに十年から二十年くらい前の「名作」を読んでください。

「テンプレート」でなくても面白い作品はたくさんあるんだな。そうわかれば、自分の書きたい小説に気づけるかもしれません。




人は必ずなにかが欠けている

 自分の書きたい小説は、あなたの心の奥にある「原体験」に由来することが多いのです。

 虐待や差別を受けてきた方の心の奥には「虐待や差別は駄目だ」という「原体験」があります。だから「虐待や差別に立ち向かう主人公」の話が書けるのです。

 体験はなにものにもまさる物語の「コア」であり、作品の差別化につながります。

 実は人類の半数近くはなにがしかの「障害」を抱えているのです。それに気づけるかどうかというだけ。わずかなものも含めれば、ほとんどの方が「障害」を持っているとも言えます。

 そもそも男性は染色体の一本が半分欠落している「Y染色体」を持っているのです。なにかが欠けているのは当たり前。では女性が完璧かというと、単生殖できないのでやはり不完全な存在です。

 つまり男性だろうと女性だろうと、なにかが欠けている存在なのだと気づきましょう。

 その気づきが、肉体的・精神的に欠けているものへの理解を促進します。

 登場する人物がすべて肉体的にも精神的にも完成されていたら、それはとてもつまらない小説にしかなりません。

 全知全能な人物がひとりはいてもかまいません。ですが二人も要りません。

「全知全能同士の戦い」の結果はどうなると思いますか。

 ちょっと考えてみてください。


 そもそも「戦わない」のです。

 なぜなら「相手も全知全能なら、永遠に決着しない」とわかりますから。

 マンガの車田正美氏『聖闘士星矢』において最強の黄金聖闘士ゴールドセイントであるアイオリアとシャカが「千日戦争」と呼ばれる長時間の膠着状態に陥りました。

「全知全能同士の戦い」は早々に決着しませんから、そもそも「戦わない」のです。

 全知全能の人物がある程度強い相手と戦えば、相手の弱点を突いて勝利します。そうすれば、それ以外の手段を用いるよりも容易に勝てると知っているからです。

 戦いはつねに「自身の充実」と「相手の弱点を突く」ことで勝敗が決まります。





最後に

 今回は「書きたいものだけ書けばよい」について述べました。

 面白篇を総括すると「書きたいものだけ書けばよい」ということです。

 成功に向いているその道が容易たやすいものなのか険しいものなのかの違いしかありません。

 たとえ険しくても、自分の「書きたいものを書け」ば苦労を感じないはずです。

 苦労を感じるのは本当に「書きたいもの」ではないから。

 あなたが本当に「書きたいもの」を見つけるために、自分が好きそうなものを手当たり次第に書いてみてください。

 きっと書いていて「苦労を感じない」ジャンルや作風に気づけるはずです。

 それが見つかったら、その道一本に絞って「小説賞・新人賞」へ応募しまくってください。


 今回で「面白篇」は終わりです。

 五回くらいの短期連載を考えていたのですが、意外なほど長続きしてしまいました。

 次回からは、ちくま文庫・ナカムラクニオ氏『村上春樹にならう「おいしい文章」のための47のルール』を読んで、「なぜ私は村上春樹氏が嫌いなのか」を見つめ直し、村上春樹氏を皮肉る篇にしたいと思います。

 だからといって47も連載しませんのであしからず。

 書籍を素にするのは「孫子篇」「事典篇」「構成篇」以来となります。



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