1037.面白篇:紙の書籍はオワコンなのか

 今回は「紙の書籍はオワコン」についてです。

 今はまだかろうじてオワコンではないのです。

 しかし文学小説は確実にオワコンへ向かっています。代わりにライトノベルがぐんと売上を伸ばしているのです。

 ライトノベルが牽引している間は「紙の書籍はオワコン」にはなりません。

 しかしスマートフォンで読める「電子書籍」が普及すれば、いずれ「紙の書籍はオワコン」になるはずです。





紙の書籍はオワコンなのか


 小説投稿サイトが乱立し全盛を迎えている中、「紙の書籍」はオワコン(終わったコンテンツ)となったのでしょうか。

 少なくとも「紙の雑誌」は売上を大幅に落としています。

 しかしお笑い芸人ピースの又吉直樹氏『火花』は累計三百万部を突破しており、「紙の書籍」もまだ捨てたものではないようです。




文学小説はオワコンか

『火花』は「紙の書籍」が売れなくなった時代に三百万部も売り上げた驚異の作品です。

 しかしそれ以降、文学小説は「百万部を突破した」とニュースにすらなりません。

 そもそも又吉直樹氏も二作目『劇場』、三作目『人間』がミリオンセールスになったとは聞かなかったですよね。

 文学小説は話題性がなければなかなか売れるものではありません。

 とくに芥川龍之介賞・直木三十五賞を獲れなければ、五千部売るのがやっとなのです。

 このふたつの賞はノミネートされるだけで書籍が一定数売れます。文学小説を扱い、芥川龍之介賞の主催である文藝春秋が発行する雑誌『文學界』は2019年3月期に9,300部しか売れていません。

 つまりよほどの話題作がなければ、『文學界』ですら月に三千部程度しか売れていないのです。

 文学小説が五千部を売りさばくのはとても厳しいことだとわかりますよね。

 文学小説は単行本こそ話題になりますが、掲載雑誌の売上にはほとんど寄与しません。

 ちなみに文学小説五大誌は、文藝春秋『文學界』、新潮社『新潮』、講談社『群像』、集英社『すばる』、河出書房新社『文藝』で、この中から芥川龍之介賞は選出されます。

 2019年1月〜3月期に『新潮』は7,217部、『群像』は6,000部、『すばる』は9,000部とやはり低調です。『文藝』はデータがまとまっていないのか、データベースサイトでは確認できませんでした。

 少なくとも文学小説はオワコンです。正確に言うなら「文学小説の掲載誌はオワコン」で間違いないでしょう。

 文芸誌の赤字を芥川龍之介賞・直木三十五賞で補填するのが、文学小説の現状と言えます。


 これはマンガ雑誌と単行本との関係そのものです。

 たとえば集英社『週刊少年ジャンプ』は2019年1月〜3月期に169万2000部、講談社『週刊少年マガジン』71万5417部、小学館『週刊少年サンデー』27万7500部となっています。

 部数を刷れば刷るほど赤字になる週刊少年マンガ雑誌はオワコンなのでしょうか。「週刊少年マンガ雑誌はオワコン」であることは確かです。しかし単行本の売上でその赤字を補填して経営を黒字化しています。

 たとえば『ジャンプ』の看板である尾田栄一郎氏『ONE PIECE』は2019年12月28日発売の最新95巻で国内累計発行部数3億9000万部、海外42の国と地域で7000万部合わせて4億6000万部を突破します。

 1部税抜400円として1兆8400億円になります。このうち30%ほどが流通管理費ですので、集英社に入ってくる収益は1兆2880億円。さらに尾田栄一郎氏に入る印税を税抜価格の10%とすれば1840億円となります。まさに左団扇で暮らせる夢の印税生活です。毎週連載する苦労を抜きにすればの話ですが。残りの1兆1040億円が集英社の儲けになります。ここから編集さんなどの社員やアルバイトなどに給与が支払われます。

『ONE PIECE』は二十二年前からの連載ですから、年平均だと501億8000万円ほどになるのです。毎年これだけコンスタントに稼いでくれれば、集英社としては手放したくないコンテンツだと思います。


 文学小説に戻れば、これほどの大ヒット作はまず見られません。1976年に芥川龍之介賞を授かった村上龍氏『限りなく透明に近いブルー』が2015年時点で単行本と文庫本の合計で367万部と史上1位の記録を持っています。単行本は131万部ですし、発売されてから40年近くかかっての数字ですから、年平均で9万部程度しか売れていないのです。これで群像新人文学賞を授かった講談社『群像』の赤字が吹き飛ばすほどの勢いは今ではありません。

 単行本歴代1位の記録は又吉直樹氏『火花』で、2017年時点では253万部、文庫本と合わせて300万部を突破しています。掲載誌でありインタビューや選評の掲載された『文藝春秋』は110万3000部と異例の発行部数を記録しました。これほどの発行部数であれば『文藝春秋』だけでも収益がプラスになります。久しぶりにやってきた好循環だったのですが、以降の受賞作でここまで収益がプラスにはなっていません。

 よほど名の通った書き手でもないかぎり、収益が見込めない。逆に言えば「話題性がない書き手に賞を授けても回収できない」のです。

 やはり文学小説はオワコンになりつつあります。




ライトノベルはオワコンなのか

 ではライトノベルを見てみましょう。

 ライトノベルは現在「ライトノベル雑誌」がほとんど発行されていません。KADOKAWAから季刊『電撃文庫Magazine』、隔月刊『ドラゴンマガジン』が発行されているのを見たことがありますが、他の「ライトノベル雑誌」はあるのでしょうか。

 Wikipediaで確認したところ、他に『ドラゴンマガジン』と同世代の季刊・新書館『小説ウィングス』があるようですが、書店で見たためしがありません。

 もはや「ライトノベル雑誌」に魅力はないのでしょうか。

 魅力がないから雑誌も少ないと考えられますよね。KADOKAWAなら『ザ・スニーカー』があったのに休刊してしまいましたから。スニーカー文庫レーベルの総本山だったので、スニーカー文庫ですら売れなくなってきたのです。

 今では「ライトノベル雑誌」は、「紙の書籍」になった作品の外伝やスピンオフなどを連載しています。ただしほとんどの場合は「紙の書籍」にまとめられて販売されるので、「ライトノベル雑誌」を買う動機にはならないのです。

 また現在のライトノベル界は、登龍門も小説投稿サイトに移行しており、「ライトノベル雑誌」が企画する「小説賞・新人賞」への応募数も減ってきています。

 つまり「ライトノベル雑誌」はもはや時代後れとなったのです。

 そうでなければ隔月刊や季刊にはならず、月刊でじゅうぶん利益が出せますからね。


 ではライトノベルそのものがオワコンなのでしょうか。

 こちらは衰えるどころか、これからが発展期です。

 小説が軒並み販売部数を落とす中、ライトノベルだけが右肩上がりで成長しています。


 2019年11月の数字ですが、川原礫氏『ソードアート・オンライン』は原作小説の累計発行部数2200万部、鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』は原作小説の累計発行部数1800万部でコミックスなども含めたシリーズ累計3100万部。

 谷川流氏『涼宮ハルヒ』シリーズはシリーズ累計2000万部、神坂一氏『スレイヤーズ』シリーズはシリーズ累計2000万部、伏瀬氏『転生したらスライムだった件』はシリーズ累計1500万部、大森藤ノ氏『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』はシリーズ累計1200万部、秋田禎信氏『魔術士オーフェン』シリーズはシリーズ累計1200万部、賀東招二氏『フルメタル・パニック!』はシリーズ累計1100万部、高橋弥七郎氏『灼眼のシャナ』はシリーズ累計1080万部、佐島勤氏『魔法科高校の劣等生』はシリーズ累計1000万部、水野良氏『ロードス島戦記』シリーズはシリーズ累計1000万部、深沢美潮氏『フォーチュン・クエスト』シリーズはシリーズ累計1000万部。とここまでが1000万部超えしているシリーズです。十二作ありますね。

 20位まで挙げると、赤川次郎氏『吸血鬼はお年ごろ』が累計発行部数971万部、渡航氏『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』は累計発行部数900万部、じん(自然の敵P)氏『カゲロウデイズ』は累計発行部数900万部、暁なつめ氏『この素晴らしい世界に祝福を!』はシリーズ累計900万部、赤松中学氏『緋弾のアリア』はシリーズ累計発行部数850万部、時雨沢恵一氏『キノの旅』はシリーズ累計発行部数820万部、丸山くがね氏『オーバーロード』はシリーズ累計発行部数800万部、氷上冴子氏『なんて素敵にジャパネスク』はシリーズ累計発行部数800万部です。


 どうでしょう。

 古の名作も挙がっていますが、最近の作品のほうがよりシリーズ累計発行部数が高い傾向が見て取れます。

 つまり「ライトノベルは年々売上を伸ばしている」のです。

「オワコン」どころか、これからますます成長が期待されるジャンルだと言えます。

 だから出版社がこぞってライトノベルレーベルを立ち上げているのです。そして、その出版社レーベルへ作品を供給するために、小説投稿サイトが勃興しています。近いところではホビージャパンの『ノベルアッププラス』、講談社の『セルバンテス』が立ち上がりましたよね。それだけ出版社はライトノベルに将来を託しているのです。

 文学小説が売れなくなった時代。ライトノベルが売上を伸ばしている時代です。ライトノベルに期待しないで、没落していく出版社も出てくるでしょう。没落してから慌ててライトノベルレーベルを立ち上げるのかもしれません。このあたりは出版社上層部の先読み力が大きくかかわってきます。

 探りを入れてみるために、小説投稿サイトで「小説賞・新人賞」を共催して販売してみる出版社も出てくるはずです。


 幻冬舎は『ピクシブ文芸』様と組んで「ピクシブ文芸大賞」を開催しました。ですが募集したのは文芸小説。つまり「オワコン」を募集するという無謀さです。大賞を得た小林大輝氏『Q&A』は幻冬舎の思惑とは異なり、商業的に大失敗しました。それもそのはず。すでに「オワコン」となっている文学小説のマルチメディア戦略なんて、失敗するのが目に見えていますからね。事実、小説投稿サイトとしての『ピクシブ文芸』はほとんど機能していません。システムの追加も行なわず、新規イベントも行なわず、第二回「ピクシブ文芸大賞」すら開催しないのです。「オワコン」でなくてなんと言うのでしょうか。

 私は多くの方に小説を書いてほしくて、アカウントを保持していた『pixiv』様の小説機能の拡張としての『ピクシブ文芸』様に本コラムを連載投稿し始めました。その頃からシステムがまったく変わっていないのです。

 だから『小説家になろう』様に活路を求めて二重投稿を始め、さらに『カクヨム』様に重複投稿しています。近いうちに『カクヨム』様への投稿も先行2サイトに追いつきますので、その際は改めてご挨拶致したいと存じます。

『カクヨム』ユーザーの皆様は今しばらくお待ちくださいませ。





最後に

 今回は「紙の書籍はオワコンなのか」について述べました。

「紙の書籍」の中で文学小説はオワコンとなりました。

 それと入れ替わる形でライトノベルが急速に売上を伸ばしているのです。

「紙の書籍」は今後ライトノベルの売上で維持されるでしょう。

 しかし今のライトノベルの多くが「小説投稿サイト」で開催される「小説賞・新人賞」から「紙の書籍」化されています。そのため遠からず「紙の書籍」としてのライトノベルも売上が落ち込んでくるでしょう。

 今のところは「紙の書籍」に強みがあります。しかし在庫を持つ危険を考えれば、スマートフォンの普及に伴って「電子書籍」へとシフトしていくはずです。

 つまり「紙の書籍」は今のところオワコンではありませんが、遠くない未来では「電子書籍」にシェアを奪われてオワコンとなります。

 今はまだ慌てる局面ではありません。

『ソードアート・オンライン』や『とある魔術の禁書目録』などが売れ続けているかぎり、「紙の書籍」は突然オワコンにはなりません。

 現時点では「時代の変化に留意する」だけでよいでしょう。



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