1036.面白篇:なぜクオリティーが高いと面白いのか

 今回は「クオリティーと面白さ」についてです。

 クオリティーが高いとなぜ「面白い」のか。

 クオリティーには精緻さと多層化の二種類があります。





なぜクオリティーが高いと面白いのか


「面白さ」を語るうえで欠かせないのが「クオリティー(質)」です。

「クオリティー」の高い作品は「面白い」。低い作品は「つまらない」。

 至極当たり前ですが、小説を書いているときに「クオリティー」を気にする方は少ないと思います。

「面白い」かどうかを気にするくせに、「クオリティー」には無関心というのでは筋が通らないのです。




精緻さがクオリティーを高める

 一言で「クオリティー」と表していますが、主に二つの要素に分けられます。


 まず「精緻さ」です。細かな点まで配慮が行き届いていることを指します。

 小説の文章に詰められた「情報量」がたくさんあればあるほど、細かな点まで書き及べるのです。

 ただ「情報量」があればよいというものでもありません。

 主人公の一人称視点なら、主人公が見たもの聞いたもの感じたもの思ったもの考えたものを中心とした「情報」が多いほどよいのです。主人公の語りではない説明に「情報量」を割り振っても「クオリティー」の高い小説にはなりません。

 主人公が知っているものは読み手も知っているべきです。それを説明ではなく「雑学」として読み手に示します。

 たとえば「レッドドラゴンがいる。」と書きたい場面。それを「コウモリのような大きな翼を持つ赤い鱗の巨大なオオトカゲがいる。レッドドラゴンだ。」と書くのです。比喩を用いて「雑学」として読ませているので、すんなり読めたしどんな外見をしたものが「レッドドラゴン」なのかも理解できたはずです。

 小説投稿サイトでは「剣と魔法のファンタジー」が主な舞台となるため、今さらドラゴンの説明なんてする必要はない。そうお思いの方もおられるでしょう。

 しかしどんな外見をするものが、あなたの異世界におけるドラゴンなのか記さなければ、読み手は明確に思い浮かべられないのです。

「いや、異世界のドラゴンなんて皆同じだろう」というのであれば、それは他人の創った世界観を借りた二次創作に類します。オリジナル小説を名乗るのであれば、他人の作った「剣と魔法のファンタジー」のドラゴンをそのまま用いてはなりません。必ずあなた自身が定義するのです。結果、他人の創ったドラゴンと同じものになっても、あなたの作品であなた自身が定義したのですからオリジナル創作を名乗れます。

 ただし、他の作品にしか存在しないものを用いると著作権に触れるおそれがあるのです。たとえばTRPGテーブルトーク・ロールプレイングゲーム『Dungeons & Dragons』固有の「ビホルダー」というクリーチャーを用いてはなりません。名称や形態には著作権法の意匠権が適用されるため、裁判で争ったら有罪は確定です。「ビホルダー」のようなクリーチャーを用いたい場合は、名称を変えるだけでは足りません。形態や特徴も変えなければならないのです。一次創作者から「似ている」と思われるだけでも損をします。

 ドラゴンやゴブリンといったさまざまな小説やTRPGに登場するクリーチャーは、伝承や神話などに登場するため著作権者が特定できないのです。このようなクリーチャーを登場させるのは著作権法違反とはなりません。

 こういった著作権フリーのクリーチャーだけでなく、あなたのオリジナルのクリーチャーであっても、先ほどの「レッドドラゴン」のように丁寧に描写していくのです。そうすれば「情報量」は確実に増えて、読み手が作品に没入しやすくなります。

 没入するほどの「精緻」な「情報量」があれば、読み手は「面白い」と感じるのです。




多層化がクオリティーを高める

「物語の奥深さ」も「クオリティー」を形作ります。

 どんなに「情報量」を高めても、物語の底が浅いと質も低下するのです。

 物語は「何層にも分けて」作ります。

 これは読み手の感受性によってどのレベルまで理解できるかを操作するためです。

 たとえば物語の表面しか読めない方にも楽しんでもらえるよう、表面上はドタバタコメディーにする。その下層に主人公が抱える問題を提起する。さらなる下層で人間の業について書く。

 これで三層構造となり、読み手の受け取り方が三通りになります。

 若いときは表面のドタバタコメディーにしか関心がなくてもじゅうぶん楽しめるのです。少しお歳を召すと中層にある主人公が抱える問題に気づいてキャラクターに魅力を感じるようになります。そして人生経験を重ねてから読み返すと、ドタバタコメディーに隠されていた潜在的なテーマ「人間の業」が見えてきて、作品の評価が弥増いやますのです。

 小説を企画するときも、「層」を意識しておくだけでじゅうぶん「奥深い物語」に仕上がります。

 アニメになりますが、スタジオジブリ・宮崎駿氏の作品はいつ観ても「面白い」。それは物語が「何層にも分けて」あるからです。『風の谷のナウシカ』の表層は主人公ナウシカのやさしさが描かれています。中層は帝国と風の谷との対立によって戦乱を描いています。下層では「なぜ腐海や王蟲が生まれたのか」といった物語の成り立ち・設定について描かれているのです。

 だから歳を重ねるほど『風の谷のナウシカ』の本当の「面白さ」がわかってきます。

『風の谷のナウシカ』だけでなく『天空の城ラピュタ』も『となりのトトロ』も『魔女の宅急便』も、複数の層から出来ているのです。

 スタジオジブリ作品の大ヒットは、そういった「何層にも重ねて作る物語」に秘密があります。

 最近では『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明氏や、『君の名は。』の新海誠氏が、物語を「多層化」して奥深さを出しているのです。一度観ただけでは物語の底までたどり着けません。だから何度でも劇場へ足を運んでしまうのです。

 よい小説も「多層化」から生まれます。表層が面白いから何度でも読み返したくなる。何度も読んでいるうちに中層の「テーマ」に気づくのです。すると今までと違った作品に見えてきます。味わいが変わるのです。しかもまだ底までたどり着けません。たくさん経験を積んでから再び読み返してようやく底にたどり着ける。それがよい小説を形作ります。





最後に

 今回は「なぜクオリティーが高いと面白いのか」について述べました。

 精緻な描写で「情報量」を増やします。ただ増やせばよいのではなく、読み手が欲する主人公に関する情報を増やすのです。

 そして物語の層を重ねて「多層化」します。何度も読み返したくなる小説は、いくつもの層によって形作られているのです。読み手によって感想が異なるけれども、誰が読んでも「面白い」作品は、例外なく「多層化」しています。後は受け手にどれだけの感受性があるかです。

「情報量」と「多層化」を意識して物語を構成してください。



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