1029.面白篇:執筆が面白いと作品も面白くなる

 今回は「執筆が面白い」ことの重要性についてです。

 書き手が「面白く」執筆していると、読み手も作品を「面白く」感じます。

 言葉の使い方にも、必然的に偏りが生まれるからです。





執筆が面白いと作品も面白くなる


 書き手であるあなたが書いていて「楽しい」のなら、読み手も「楽しい」と感じます。書いていて「苦しい」のなら、読んでいて「苦しい」のです。

 なぜ「文豪」の書いた小説は読みづらい作品が多いのか。旧仮名遣いで書かれている、言葉が古い。そういう問題も確かにあります。

 しかし根本では「文豪」が「苦しみ悩み」ながら執筆していたから、読み手にもその「苦しみ悩み」が伝わって「読みづらい」と感じるのではないでしょうか。

「文豪」が活躍した当時は旅館やホテルに缶詰にされることがよくありました。そこで寝る間も惜しんで「苦しみ悩み」ながら書いていたのです。




書き手の意識は選ばれる言葉で読み手に伝わる

 では「楽しい」と思いながら書いた作品と、「苦しい」と思いながら書いた作品。どこが違うのでしょうか。

 具体的に「こうだ」と示せません。しかし言葉遣いにヒントが表れます。

「楽しみ」ながら書いた作品では、前向きな言葉がよく使われるのです。単純に言えば「楽しい」「嬉しい」「喜ばしい」といったポジティブな感情語の頻度が上がります。「笑う」「笑みを浮かべる」「微笑む」また「ウキウキ」「ワクワク」「きびきび」「明るい」「きらめく」「華やか」のような単語が書かれるのです。そんな文章を見れば、読み手の心の中も明るくなっていきます。

 逆に「苦しみ」ながら書いた作品では、後ろ向きな言葉がよく使われるのです。「苦しい」「つらい」「悲しい」「寂しい」などのネガティブな感情語の頻度が上がります。「泣く」「憤る」「怒る」また「ハラハラ」「ドキドキ」「イライラ」「しくしく」「暗い」「醜い」「厳しい」のような単語が書かれるのです。そんな文章を見れば、読み手の心の中も暗くなっていきます。

「文豪」の作品を読んでいると、ネガティブな単語が多く使われていることに気づくはずです。

 私小説の創始者でもある田山花袋氏『蒲団』なんて、それはもうネガティブな単語だらけ。なぜかと言えば、この作品が「自分のもとを去っていった女性の内弟子を想って彼女の使っていた蒲団に入る」という屈折した性癖を書いているからです。

 だから私は『蒲団』が大嫌い。逆に「好き」という人の顔が見たいくらい。


 このように「楽しい」と思いながら書いた文章は、読み手に「楽しさ」が伝わります。「悲しい」と思いながら書いた文章は「悲しさ」が伝わってしまうのです。

 ということは、読み手に「楽しい」と思わせたい場面シーンでは、「楽しくて仕方がない」心境で書きましょう。コミカルな部分はどんな小説であっても必要です。真面目一辺倒の作品であっても、コミカルな部分があるから真面目さが際立ちます。楽しい仲間が加わってパーティーが賑やかになったら、あなたも賑やかな心境で文章を書きましょう。

 たとえば戦闘が開始されそうな場面シーンで「敵は何人だ」と指揮官が聞きます。すると部下が「日本語を話しているから日本人でしょう」と答える。「なんにんだ」と聞いたんだ! という細かな笑いを工夫しましょう。

 読み手に「悲しい」と思わせたい場面シーンでは、「沈痛な」心境で書くのです。けっして笑いながらまた楽しみながら「悲しい」場面シーンを書かないでください。事態の深刻さを読み手に伝えられません。仲間のひとりが死んだのなら、丁重にお見送りするつもりで書くのです。「もうこの世界では生きられないけれども、あなたはじゅうぶんに役割を果たしました。お疲れさまでした」という気持ちが欲しい。


 書き手には大きく分けて二タイプあると思います。

「感情が豊か」な方と「感情がフラット」な方です。

「感情が豊か」な方は、上記したように「楽しい」場面シーンでは楽しい気持ちで臨み、「悲しい」場面シーンでは悲しい気持ちで書くとうまくいくタイプになります。

「感情がフラット」な方は、どんな場面シーンでも書き手としての感情は動かず、淡々と「楽しい」場面シーン、「悲しい」場面シーンを書き分けるのです。

 どちらがより読み手に伝わるか。「感情が豊か」な方の書いた小説のほうが、多くの読み手に伝わります。「感情がフラット」な方の書いた小説は、楽しい意図をもって書く、悲しい意図をもって書くという具合に意図が透けて見えるため、あまり深く感情移入できないのです。

 皆様もご自身がどちらのタイプかをよく見極めてから筆を執りましょう。




面白い作品だと信念をもって書く

 たとえ「悲しい」物語でも、「面白い」作品を書いていると信じながら書けば、読み手に先が読みたいと思わせられます。

 逆に言えば、書き手が「面白いのか?」と半信半疑な状態で書いていると、読み手も「これって面白いのか?」となって読む手が止まるのです。

 だから執筆する段階ではなるべく悩まないようにしてください。「面白い」作品を書いているんだと信じながら書けば、必ず「面白く」なります。

「面白い」か信じられない方は、私が提唱している「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」のうち、「プロット」を疎かにしていませんか。

「箱書き」ができればすぐにでも執筆できますが、どのように表現していこうか悩みながら書くことになります。「プロット」を書くようにすれば、物語の流れや登場人物のやりとりなどをいったん書き出しておけるので、「面白い」か「つまらない」かは「プロット」を見るだけでわかります。

「プロット」を書けば物語の流れは一目瞭然です。だから「面白い」と自信をもって執筆に臨めます。

 横着して「箱書き」から直接執筆しているから「面白さ」を感じない作品が完成してしまうのです。

 そうではなく、いったん「プロット」に書き出して流れを確定させ、あとは自信をもって執筆すれば、必ず「面白い」作品に仕上がります。

「面白い」作品だと信念をもって書くだけで、読み手を惹き込む小説になるのです。

 だから絶対に「プロット」を飛ばさないようにしてください。





最後に

 今回は「執筆が面白いと作品も面白くなる」ことについて述べました。

 書き手の執筆時の気持ちは、読み手に伝わります。

「面白い」と信念をもって書いていれば、読み手は必ず「面白い」と思ってくれるのです。

 しかし信念をもって書けない方もいます。そういう方はほとんどの場合「プロット」を書いていません。

「プロット」を経ることで物語の流れが明確になるのです。この物語が「面白い」のか「つまらない」のかは「プロット」を一読すれば判別できます。

「プロット」さえ書いてあれば、自信をもって「面白い」物語が書けるものなのです。

 根拠のない自信ほど脆いものはありません。

 私たちには「プロット」という根拠がついています。だから自信をもちましょう。



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