1028.面白篇:制約があるほど面白くなる

 今回は「制約」「縛り」のある物語が面白くなることについてです。

「制約」があると工夫するようになるので、ないよりはあったほうが面白くなりやすい。

「お題」のある「小説賞・新人賞」があれば、積極的に参加してみましょう。

「制約」があなたの執筆にどのような影響を与えるのかがわかりますよ。





制約があるほど面白くなる


 不思議なもので、時間も資金も潤沢にある状況では平凡なアイデアしか出てきません。

 しかし時間や資金に制約があると、面白いアイデアが次々と思い浮かぶのです。

 なぜ制約があると面白くなるのでしょうか。




今できる範囲内で最高のアイデアを考える

 まず考えられるのは、使える時間と資金をやりくりして、最大の投資効果を出そうとします。

 たとえば時間はあるけど資金がないのなら、時間をかけて低予算でできるアイデアはないかを探し始めるのです。時間も資金も潤沢なら、低予算のアイデアを考えなくてもアイデアは形になります。しかし資金がなければ、なけなしの予算で最大の効果が得られる工夫をしなければなりません。

 こうして生まれたのが映画の上田慎一郎監督『カメラを止めるな!』です。ノンカットでゾンビ映画を撮るという「時間はあるけど資金がない」状況の中でアイデアが生まれました。ミニシアターで上映して好評を博し、全国の映画館やシネコンなどへ波及し、低予算で二百万人以上の観客動員を記録したのです。もし上田慎一郎監督に潤沢な資金があったら、「ノンカットでゾンビ映画を撮る」というアイデアは生まれたのでしょうか。

 もし資金はあるけど時間がない場合はどうするべきでしょうか。とりあえず集められるだけの英才をブッキングして、即興で最高の演技をリテイク(撮り直し)なしに作るでしょう。リテイクなしの一発勝負は「生放送」で観られます。昔はテレビでも放送局に録画手段がなくてドラマも「生放送」で放映していました。小林亜星氏主演『寺内貫太郎一家』のように。劇場で芝居を観るのと同じ感覚で皆がテレビドラマを観ていたのです。そして空前の視聴率を誇りました。録画機器が普及するにつれ視聴率はどんどん下がっていき、現在ではドラマだと十二%以上なら「大ヒット」と言えるのです。白黒時代のドラマは五十%を超えていた作品であふれていました。時間があっても視聴率には結びつかないのです。

 では時間も資金もなかったら。もう玉砕覚悟で勝負に打って出るか、潔く降参してあきらめるか。究極の二者択一です。




お題を設定されている小説賞

 小説投稿サイトで開催されている「小説賞・新人賞」は、おおかた「お題」が設定されています。

「春夏秋冬」「ホラー」「青春」といった「お題」が多いですね。

「お題」が設定されているとき、スラスラと筆が進む方とまったく書けなくなる方がいらっしゃいます。

「お題」が設定されているとスラスラと筆が進む方は、書きたい物語に執着しないタイプです。「こんなお題だから、今回はこんな切り口で書いてみよう」と意欲的になります。けっしてマイナス思考にはなりません。こんな方のほうがプロに向いています。

 自分が一から考えた作品を得意とする方は、「お題」が設定されると往々にしてまったく書けなくなります。どうしても「お題」に縛られて、発想の自由度が減るからです。自分の書きたいように書けるのなら実力を発揮するのに、「お題」があるだけで身動きがとれなくなる。


 実は「小説賞・新人賞」で「お題」が設定されているのにはわけがあります。

 それは「編集さんと企画を合作しても小説が書けるのか」を試したいのです。

 出版社レーベルは、基本的に「小説賞・新人賞」へ応募した作品をそのまま「紙の書籍」化しません。必ず担当編集さんが付いて、書き手と一緒に受賞作を検討します。「ある設定を変える」「ある展開を変える」などのリテイク作業が始まるのです。

 このとき「お題」が設定されていた「小説賞・新人賞」の受賞作なら、書き手は柔軟に対応できます。

 しかし「お題」を苦労して書いた場合、リテイク作業に嫌けが差してくるのです。「この作品は自分のものだ。なのに赤の他人が書き直せとはなにごとか」という意識が強く出ます。しかし担当編集さんの言うとおりに書き直さないかぎり「紙の書籍」にはなりませんから、嫌でも書かなければなりません。

 そんな気配が漂っていたら、担当編集さんも「この人はプロには向いていないな」とすぐに気づいて、受賞作以降の原稿依頼をしてこなくなります。

 だから「お題」付きの「小説賞・新人賞」を勝ち残った書き手は、そのままプロへと転向しやすいのです。

 ただし「自分で一から考えた作品」が創れるかは話が別です。

 いくら企画を担当編集さんと共同で創るといっても、ベースとなる企画書は書き手であるあなたが考えなければなりません。

 次回作の打ち合わせをしているとき「まったく企画が思いつきません」では、担当編集さんも「この人は提案されないと書けないのか」と見なします。

 だから「お題」なしの作品と、「お題」ありの作品の両方がそつなく書ける人はプロとして長く活躍できるのです。たとえ受賞作の連載が終わっても、次回作を切れ目なく投入できます。


 もしひとつの小説投稿サイトで「お題」が設定されている「小説賞・新人賞」と、「お題」なしの「小説賞・新人賞」の両方が開催されているなら、同時に応募するのも一手です。

「お題」ありで編集さんとの共同作業もできて、自分の力だけでも面白い物語が作れる。そう認識されれば、出版社レーベル側としても安心して仕事を依頼できます。

 同時開催でなくても、過去に「お題」ありの「小説賞・新人賞」に投稿していて、今回「お題」なしの「小説賞・新人賞」へ作品を応募したら。出版社レーベルは間違いなく過去に書いた「お題」ありの「小説賞・新人賞」応募作を読みにくるはずです。

 とくに『小説家になろう』の場合、キーワードに「小説賞・新人賞」専用タグがありますから、簡単にチェックできます。『小説家になろう』で「紙の書籍」化を狙っている方は、難しくても「お題」の設定された「小説賞・新人賞」へ応募しておくべきです。

『カクヨム』だとタグからはたどれないので、過去に投稿された作品を出版社レーベルにチェックされるだろうと想定してください。だからといって反響の悪かった作品を消せというわけではありません。成長の過程を見てもらうためにも、反響の悪かった作品は残しておきましょう。「この人はよい作品も悪い作品も書くね。編集さんと一緒ならよい作品が作れるはず」という計算が働けば、選考でも有利に働きます。

 だから本命の「小説賞・新人賞」を狙う前に、短編賞や「お題」ありの「小説賞・新人賞」に応募しておくべきなのです。

 以前からお話ししていますが、知名度ネームバリューのない書き手の作品はなかなか評価されません。短編小説や「お題」ありの「小説賞・新人賞」で名前を憶えてもらうことを第一に執筆活動をしてください。たとえ駄作でも、進化の過程をたどれるので、出版社レーベルは安心して仕事を依頼してくれるようになりますよ。





最後に

 今回は「制約があるほど面白くなる」ことについて述べました。

 制約があると工夫するようになります。工夫できる方は「お題」ありの「小説賞・新人賞」へ応募しましょう。工夫できない方は「お題」なしの「小説賞・新人賞」を狙うしかありません。

 しかし「紙の書籍」化される際、担当編集さんが作った制約の中で執筆するので、「お題」ありの「小説賞・新人賞」も可能なかぎり狙いにいきましょう。

 複数の小説投稿サイトを使い分けて、開催中の「小説賞・新人賞」へ応募すれば、筆力もつきますのでオススメです。



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