1027.面白篇:なぜ今かでなく今を変えるために書く
今回は「流行りの後追いをしない」ことについてです。
手っ取り早く人気を集めたいから「テンプレート」を使う。その意図があれば使ってかまいません。
ただし「小説賞・新人賞」へ応募したいのなら「テンプレート」は避けましょう。
なぜ今かでなく今を変えるために書く
小説の面白さには「この時代にふさわしい」ものがあります。
「紙の書籍」は今なら「異世界転生」が全盛です。しかし『小説家になろう』ではすでに下火となっています。
つまり需要が少なくなっているのに、「紙の書籍」の企画はそのとき出版界で最も売れているものを売ろうとするのです。
需要もないのに供給過多。これで出版不況にならないほうがおかしい。
なぜ「紙の書籍」では時代後れの企画がまかり通っているのでしょうか。
なぜ今かは流行りの後追いでしかない
あらゆる企画は会議に提出されると責任者から「なぜ今か」を問われます。
そのとき責任者を納得させるためには「現在の流行りだから」と言うのがいちばん手っ取り早いのです。
それが流行りの端緒を捉えていれば、予測どおり企画は大成功するでしょう。
しかしすでに終わりに向かっていれば、予測は外れて企画は大失敗します。
現在の「異世界転生」はすでにピークを越えているのです。それでも「直近の売上データ」を元にして「今これが流行っているんです」とばかりに「紙の書籍」化をしています。
それが本当に売れればよいのですが、現在はたいてい失速しているのです。
発信源だった『小説家になろう』ですら、「異世界転生」は勢力を失っています。それなのに「直近の売上データ」がよいという理由だけで企画が通ってしまうのです。
果たして今は「異世界転生」が求められているのでしょうか。
責任者の言う「なぜ今か」の問いを満足させるためだけに「直近のデータ」しか用いないから需要を見誤るのです。
編集さんは編集長を、編集長は出版事業部長を満足させる回答を用意しなければなりません。だから「先例踏襲主義」に陥ります。
優秀な人物ほど、流行りの最先端から情報を拾ってきます。
今なら「主人公最強」の企画を持ってくるはずです。
主人公最強の真実
「主人公最強」の企画は「異世界ファンタジー」でなくてもよいところに魅力があります。どんなジャンルであろうとも「主人公最強」であれば必ずウケる時代なのです。
たとえば推理小説で「主人公最強」とすればサー・アーサー・コナン・ドイル氏『シャーロック・ホームズの冒険』の主人公シャーロック・ホームズと比肩するような名探偵が出てくるかもしれません。ホラー小説で「主人公最強」ならジェイソンも切り裂きジャックも貞子も一撃で撃退するかもしれません。
作品のバランスをとるのに多少の慣れは必要です。それでもあらゆるジャンルで「主人公最強」は使えます。
と、ここまで書いてきて、私は恐ろしい真実に気づきました。
よくよく考えればわかるのですが、基本的にハッピーエンドで物語が終わるのなら「主人公最強」である可能性が高い。主人公が途中で死んで、新しい主人公にバトンタッチすることも時にはあります。しかしその新しい主人公が「主人公最強」を体現するのかもしれません。
先ほど出した推理小説の「主人公最強」なら、どんな難事件も主人公の推理が冴えわたって真犯人を突き止めます。ホラー小説の「主人公最強」なら、どんな化け物も主人公が撃退して安息を得るのです。
恋愛小説ならどんな玉の輿であってもトントン拍子に結婚して終われば「主人公最強」を名乗ってもよいでしょう。
歴史小説だって、徳川家康氏や宮本武蔵氏なら「主人公最強」がふさわしい。時代ものならマンガの和月伸宏氏『るろうに剣心 −明治剣客浪漫譚−』の緋村剣心が「主人公最強」になりますよね。戦争したり殺し合ったりする物語の場合、最終的に寿命で死ねれば「主人公最強」です。戦争や殺し合いに敗れて死ねば「主人公最強」にはなれません。
だからハッピーエンドで物語が終わるのなら、その物語は多くの場合「主人公最強」が成立するのです。
現状を変革して新しい世界を作る
あらゆる物語は「なぜ今か」を問われて書かれたわけではありません。
時流に挑み続けた「文豪」や「マンガ家」も数多い。
「文豪」はあらゆるジャンルを開拓していきました。現在小説のジャンルとして区分されているものは、すべて「文豪」が切り拓いてきた足跡なのです。
芥川龍之介氏や直木三十五氏、菊池寛氏らが「純文学」を確立します。
中でも芥川龍之介氏の作品には今で言う「ファンタジー小説」が多い。代表作である『蜘蛛の糸』は天国と地獄を舞台にしたファンタジーものです。『羅生門』も京都を舞台にしたファンタジーものと言えます。
人間の本質を切り出すには、
童話や寓話のほとんどがフィクションでありファンタジーであるのも、受け手である幼児児童がわかりやすいからではないでしょうか。
だから絵本には「トラウマ絵本」のような衝撃的な物語も存在するのです。
芥川龍之介氏も「トラウマ絵本」も、狙いは「現状を変革する」ことにあります。
今までどおりではこんな悲惨なことになるぞ。今すぐ変わらなければならないぞ。ぼやぼやするな。
そう煽り立てているのです。
現在「主人公最強」が流行りなら、この流れをぶち壊すような作品が求められます。
そのためには「主人公最強じゃない」わけですから、基本的にはバッドエンドになるだろうことは、ハッピーエンドの多くが「主人公最強」である裏返しからわかるでしょう。
しかしバッドエンドは読み手になかなか好まれません。
暗い気分になって読み終わるとバツが悪いのです。
そこでハッピーエンドでも「主人公最強じゃない」作品を目指しましょう。
たとえば「主人公は最強ではない」という前提にして、仲間たちの力を合わせて「最強の敵」を倒すのです。つまり「チームプレイで最強を凌駕」します。
あれっ? これってどこかで見たような、聞いたような?
はい、そのとおりです。
童話『桃太郎』『さるかに合戦』そのものなのです。
桃太郎自身はさして強くない。そこに犬・猿・雉が加わることで「チームプレイで鬼が島の鬼たちを凌駕」していますよね。
子ガニたちはさほど強くない。そこに栗・蜂・牛糞・臼が加わることで「チームプレイで猿を凌駕」しているのです。
元来、人間は「自分が最強だ」と思い込んでいます。自我を持ち始めたときから、自分で考えられるのです。だから自我の世界では「自分が最強」である。
そう考えれば、今「主人公最強」が最も人気がある理由もわかるでしょう。
人間の自我に根ざした願望が、そのまま物語の形になっているからです。
その先へ読み手を誘いたければ、読み手の自我を健全に成長させてやる必要があります。
つまり『桃太郎』『さるかに合戦』のように、弱い存在でも力を合わせれば最強にも勝てる。そういう教訓を垂れるべきなのです。
2019年の「ユーキャン新語・流行語大賞」を獲得したのは、日本開催のラグビーワールドカップでベスト8に入った、ラグビー日本代表が掲げていたテーマ「ONE TEAM」です。そう「ひとりひとりは強くなくても、力を合わせれば最強にも勝てる」という『桃太郎』『さるかに合戦』の精神がそのまま示されています。
そう考えると「主人公最強」の次は「ワンチーム」が最強のキーワードになるときがやってくる可能性があります。
物語を考えるとき「主人公最強」は簡単なのです。さまざまな
その点「ワンチーム」は、チーム(パーティー)のバランスを調整する必要があります。腕力だけのチームでは駄目で、足の速いキャラ、頭のよいキャラ、手先が器用なキャラ、傷を治すキャラ、魔法を繰り出すキャラ、情報に精通しているキャラなど、物語の進行に必要なバランスがとれているのが、よい「ワンチーム」なのです。
都合のよいことに、私がたびたび挙げている企画『秋暁の霧、地を治む』は大枠で「ワンチーム」がテーマとなっています。帝国軍の英傑クレイドに勝つために、力の劣る王国軍の主人公たちがひとつにまとまって凌駕する筋書きです。
どうやら時代は私のターンなのかもしれません。
本コラムは「毎日連載千日」が達成されたら、いったん不定期連載にする予定でいます。そして本格的に『秋暁の霧、地を治む』を連載するべくプロットを仕上げていく予定です。本コラムのためにさまざまな情報を集めた人間が、どれほどの作品を書けるものなのか。試金石にもなると思います。
まぁ今の流行りである「主人公最強」ではないので、ランキングには載らないでしょうね。なので応募可能な「小説賞」を探して連載します。今なら『カクヨム』の「第5回カクヨムWeb小説コンテスト」が最適だと思うので、間に合えばそちらへ応募致します。
最後に
今回は「なぜ今かでなく今を変えるために書く」ことについて述べました。
今流行りのテンプレートで書けば、必ず人気が出る。というほど小説界は甘くありません。とくに「紙の書籍」化する場合、インターネットで連載していた頃とは流行りが変わっている可能性もあるのです。
であれば、流行りを打破するような作品を書くべきでしょう。
もちろん小説投稿サイトのランキングに載るのは厳しいと思います。そこで「小説賞・新人賞」へ応募してください。こちらなら目の肥えた選考さんが拾い上げてくれる可能性が高まります。
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