1023.面白篇:面白さは出尽くしている

 今回は「面白さは出尽くしている」ことについてです。

 これまでのあらゆる事象は、すでに小説化されていると見て間違いないでしょう。

 であれば「面白さ」はもう作れないのでしょうか。

「面白さ」を作り出すには「新しさ」と「ちょっと変だな」を活用してください。





面白さは出尽くしている


「面白さ」を追求してきましたが、ここで重要なお知らせがあります。

 サブタイトルに書いたとおり、「面白さは出尽くしている」のです。

 それでも私たちは「面白い」小説を書かなければなりません。




面白さとは新しさである

「面白さ」を突き詰めて考えると「新しさ」に行き着きます。

「小説賞・新人賞」で求められるのも「新しい」作品です。

 ですが、すでに億単位で小説が発表されています。この中に入っても「新しい」小説なんて作れるものでしょうか。

 以前にも少し触れたのですが「新しい技術」や「新しい理論」などを取り込めば「新しい」作品は作れます。

 すでに書かれている方も多いだろう「iPS細胞」も、ノーベル賞を授かるまでは世の中ではそれほど名の知れない技術でした。だから周知されたときに逸早く「iPS細胞」を使った作品を書けば「新しい」と見なされます。

 でも「異世界ファンタジー」に「iPS細胞」を持ち込むのは難しいですよね。

 そこで「応用力」が必要になります。

「iPS細胞」は体細胞から取り出した遺伝子の特定された部分を編集することで、幹細胞へと戻す技術で成り立っているのです。

 であれば「どんなものにも変化できる魔法のアイテム」だったり「どんなものにも変化できるラスボス」だったり。そういった方向からアイデアを出してみましょう。

 最近の話題だと「リチウムイオンバッテリー」がありますね。昔から使われていたものなので、それだけではただの陳腐な作品にしかなりません。

 そこで「繰り返しなにかができるもの」を新しく考えてみましょう。

「倒したのに何度でも蘇ってくるゾンビ」だとよくある設定でまったく「面白くない」ですよね。

「繰り返し魔力を溜められる首飾り」なら少し「面白い」展開になるかもしれません。

「繰り返し疲労を回復してくれる魔法の薬」にすると、違法薬物っぽくて「危ない」感じがしますよね。前々回でも書きましたが「危ない」ものを取り除くと「面白くなく」なるので、批判を承知で狙うのならこんな発想でも「面白い」作品になるかもしれません。

「繰り返し敵を斬る魔法の剣」ならばどうでしょう。敵が倒れるまで自動的に斬りつけてくれる魔剣というのも「面白い」話になりそうです。魔剣がどんな活躍をしてくれるのか。魔剣の所有者がどんな結末を迎えそうなのか。話が広がっていきます。

 このように「面白さ」は「新しさ」から生み出されるのです。

「新しい技術」「新しい理論」はそれだけでもじゅうぶんな物語のタネになります。形を少し変えれば「異世界」でも使えるのです。

「面白さ」につながる「新しさ」といえば「STAP細胞」もありましたね。

 世界を巻き込んだ壮大なウソがとても「新しく」、ウソが証明されたときにある種の「滑稽さ」を生み出したのです。「○○はありま〜す」もネタとして今でもじゅうぶん使えます。




ちょっと変だなを生み出す

「面白さ」をさらに追求するとなかなか極まりません。

 そんな「面白さ」の一面が「ちょっと変だな」です。

「ちょっと変だな」は「新しさ」とは異なる「面白さ」に分類されます。

 ほとんど同じはずなのに、なぜか「ちょっと変だな」と思わせるのです。

 すると「ちょっと変だな」と感じた読み手は、つい注意を惹かれてしまいます。

 なにがしか引っかかりがあるから、読み手はどうしても意識してしまうのです。

 この「ちょっと変だな」の持つ「面白さ」を巧みに利用しているのが、お笑いコンビのアンジャッシュです。

 アンジャッシュのネタは、前提となる設定を児嶋一哉氏が担当し、そこから解釈が微妙にズレるような会話を渡部建氏が担います。(逆のパターンもあります)。

 これにより観客や視聴者に「ちょっと変だな」と思わせて、ズレを笑いに転化させるのです。

 アンジャッシュのすぐれているところは、この「ちょっと変だな」が「面白い」ネタになると気づいた点でしょう。


 私の持ちネタなのですが、誰かが「大人気ない」と言います。ボケ担当が「そんなににんきないんですか?」と返す。そこを「おとなげないだよ」とツッコめば「ちょっと変だな」が成立します。

 上官が「敵は何人だ?」と聞いたら部下が「日本語を話しているから日本人だと思います」と返す。上官は「なんにんだ、と聞いたんだよ」とツッコめば「ちょっと変だな」が成立します。

 こんなくだらないことでも、真面目な場面で使うとクスッと笑ってしまうものです。

 活字の場合はこのように同じ字面で別の読みができるもの、映像の場合は同音異義語のように音は同じなのに意味が異なるものが「ちょっと変だな」のタネになります。

 また文字だけでなく、アンジャッシュのように「前提のズレ」を読ませるのもよいですね。でもなかなか難しいと思います。誰でも真似できるのなら、お笑い業界で「ズレ」漫談はもっと多くのコンビが使っていてもおかしくありませんからね。そのくらい「前提のズレ」は難しい。

「ちょっと変だな」に「前提のズレ」を使えるようになると、作品は間違いなく「面白く」なります。

 難しいけど挑戦しがいがある。それが「ちょっと変だな」です。





最後に

 今回は「面白さは出尽くしている」ことについて述べました。

「面白さ」を追求すると「新しさ」か「ちょっと変だな」に行き着きます。

 しかし今さら「新しさ」を出すのはとても難しい。世の中のたいていのことはすでに小説のネタになっていると思ったほうがよいのです。だから「新技術」や「新理論」が発表されたら、真偽を問わずがっつりと食らいつきましょう。

 また「ちょっと変だな」も「面白さ」を感じさせます。しかし「ちょっと変だな」は発想元となる技術や理論がありません。「前提のズレ」や「漢字と音のズレ」といったものから見つけ出す以外にないのです。ですが、それだけに挑戦のしがいはあります。

「新しさ」と「ちょっと変だな」にぜひ取り組んでください。

 読み手が思わず食らいつくくらいの「面白さ」を作品に与えてくれます。

 それが「小説賞・新人賞」に近づく鍵です。



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