1016.面白篇:動きの緩急がつくと面白くなる

 今回は「動きに緩急をつける」ことについてです。

 緩急織り交ぜることで、読み手を惹きつけられます。

 ハイスピードアクションが「売り」でも、それを引き立てるのは「じっくりと時間を使っている」ときです。

 緩急をつけるだけで、より動きに惹き寄せられます。





動きの緩急がつくと面白くなる


「動いている」と面白い。

 ですが、ただ「動いている」だけでは、すぐに飽きてしまいます。

 単調な動きには興味を惹かれないのです。




単調な動きには惰性が働く

 動きが単調になってしまうと、読み手は退屈してきます。

 たとえば時速四キロのペースでただ歩くだけでは、すぐに飽きるのです。町並みが変わっていくさまを見るから散歩は楽しめます。歩けども風景がほとんど変わらない登山にはさほど魅力を感じないのです。高く険しい山を極めたいという動機はあるでしょう。しかしより多くの人は、登山にさほど魅力を感じていません。

 私は、現在シーズンを迎えている大学駅伝や社会人駅伝を観ていると、すぐに飽きてきます。

 とくに順位がほとんど入れ替わらない状況なら、ただ「走っているなぁ」とは感じますが、「面白い」とは思いません。

 駅伝は頻繁に順位が入れ替わるから「面白い」のであって、順位がほぼ確定してしまったら「面白くない」のです。

 青山学院大学が四連覇していたときなどは、あまりにも強すぎて正月の箱根駅伝は白けていました。しかしここ二年で青山学院大学の勢いが衰え、他の大学が奮起して逆転劇を生み出したのです。ですのでここ二年の駅伝は「面白く」なりました。

 やはり駅伝は「抜きつ抜かれつ」でなければ。




抜きつ抜かれつ

 小説で「抜きつ抜かれつ」はなかなかうまく表現できません。

 もちろん、あるアイテムを先に取り合う物語は簡単に書けます。

 マンガの鳥山明氏『DRAGON BALL』の初期は、七つあるドラゴンボールをブルマ&孫悟空とレッドリボン軍が獲りあっているのです。こういう作品ならお手軽に作れるのです。

 しかしこれは「抜きつ抜かれつ」というよりも、単なる「宝探し競争」でしかありません。

 水野良氏『ロードス島戦記』では、黒衣の騎士アシュラムと自由騎士パーンとの五つの秘宝を巡る「宝探し」の旅が描かれています。また同氏『魔法戦士リウイ ファーラムの剣』シリーズでは、主人公リウイ一行が魔精霊アトンを倒せる唯一の武器とされる「ファーラムの剣」を探して諸国漫遊の旅に出かけます。

 このように「宝探し競争」は小説にしやすいのです。


 相手よりも先手をとる、追い詰められる、出し抜くの繰り返しで緊迫感サスペンスを醸し出したのが、マンガの大場つぐみ氏&小畑健氏『DEATH NOTE』です。こちらは心理的に「抜きつ抜かれつ」を表現しました。稀代の殺人鬼・夜神ライトと世界一の探偵「L」の対峙で、月が「L」に追い詰められる、そこから「L」を出し抜くという形をとったのです。月は「L」に勝ちましたが、「L」の後継者によって破滅へと追い詰められます。

 これを小説にできたらすごい作品になるはずです。

 大場つぐみ氏に直接小説を書いてもらうのは難しいかもしれません。日下部匡俊氏や西尾維新氏によりいくつかノベライズされましたが、やはりあの緊迫感サスペンスは大場つぐみ氏の作品として読みたかったですね。

『DEATH NOTE』をそのまま小説にしても、ライトノベルにはなりません。サスペンス小説、推理小説に分類されます。「デスノート」「死神」という「ファンタジー」要素はありますが、それ以外は徹底した現実主義リアリズムで構成されているからです。




緩急をつける

 まったく等しい速度で物事が進んでいたら、皆すぐに飽きてしまいます。

 では単純になりがちな動きで、いかに読み手を惹きつければよいのでしょうか。

「緩急をつけて」ください。

「緊迫したバトルシーンだから短文を畳みかける」のは悪い選択ではありません。ただし、短文だけを畳みかけると、読み手が慣れてしまって緊迫感が薄れてしまいます。

 緊迫したバトルシーンであっても、途中で間合いをあけたり様子見したりするはずです。そういう時間のかかる文をいくつも配して、リズムが単調にならないよう工夫しましょう。

 たとえば、

――――――――

 抜刀した吉岡一門に周りを囲まれている。

 背後にいた者がかけ声とともに切りかかってきた。その声に反応して体を回転させながら刀を抜く。そのまま迫りくる者の胴をかっさばいた。これを契機に多くが一斉に襲いかかってくる。視線の先にいる者を袈裟斬りで倒す。一瞥をくれ、手近な者を一刀に伏す。切っては現れる敵をすべてひと振りで薙ぎ倒していく。残るは師範ただひとり。一気に間合いを詰める。大上段からの一撃で頭をかち割った。

 全員が地面に倒れているのを確認する。刀に付いた血を振り払う。すぐに納刀してその場をあとにした。

――――――――

 というアクションシーンがあったとします。

 これを読んでいると、どうにも「退屈だな」と感じませんでしたか。

 テンポはよいのです。一文の長さがほとんど揃っていて、ビートを乱すところがありません。だから読みやすい。はずなのですが、どうにも読みづらさを感じます。

 この文章は「メトロノーム」のようなものです。つねに一定のリズムを刻んでいるがために、そのうち飽きてきます。速読する方にはそれほど違和感がないと思います。しかし精読する方は「メトロノーム」のビートが眠けを誘ってくるのです。

 そこで次のように改めてみます。

――――――――

 抜刀した吉岡一門に周りを囲まれている。

 背後からかけ声が聞こえる。振り向くと切りかかってくるので、刀の抜きざま男の胴をかっさばく。男は悲鳴をあげながらその場に崩れ落ちた。これを契機に多くが一斉に襲いかかってくる。視線の先にいる者を素早く袈裟斬りで倒すと一瞥し、さらに手近な者を一刀に伏す。切っては現れる敵をすべてひと振りで薙ぎ倒していく。

 残るは師範ただひとり。師範が悠然と刀を抜く隙に乗じて間合いを詰め、大上段の一撃で頭をかち割った。

 全員が地面に倒れているのを確認し、刀の血を振り払うと納刀し、その場から離れた。

――――――――

 短文だったものを重文や複文へと長文化し、長短のリズムを意識しました。

 先ほどの例は「ぶつ切り」でした。今回は長さがまちまちで、リズミカルに読めたと思います。

 流れを出そうとするときと時間をかけたいとき、あえて「長文」にしているのです。

 これが「緩急」のポイントとなります。

 刹那を切り出すときは短文でパパッと読ませて、動きの流れを出したいときは重文や複文などで長文にしてじっくり読ませるのです。

 映画のカット割りのようなものだと思ってください。短いカットが続くと緊迫感が表現できますし、長いカットは印象に強く残ります。

 アニメの『DRAGON BALL Z』での超人バトルを思い出してください。単に殴る蹴る投げるだけではなく、相手と距離をとって様子見していたり呼吸を整えていたりと、長いをとっていましたよね。あれは第一に「原作マンガの展開に追いつかないよう」にする時間配分の意味合いがありました。第二にここで挙げた「緩急をつける」ことを意識しています。つまりハイスピードアクションでワクワクしてもらうために、あえてゆっくりと時間を使っていたのです。

 どうでしょうか。「緩急」があるとただのアクションもより盛り上がると思いませんか。





最後に

 今回は「動きの緩急がつくと面白くなる」ことについて述べました。

 せっかく動きを書いても単調になると「つまらなく」なります。

 動きを「面白く」させるのは一定のビートではなく、長短織り交ぜたリズムです。

 意識して文の長さを変えて、リズムを刻めるようにしましょう。



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