1013.面白篇:小説賞・新人賞の適齢期【回答】

 今回は「年齢を理由にしない」ことについてです。

 小説を書くのは何歳からでもよいのです。たとえ七十歳でも、書きたいと思えば書けばよい。

 始めなければ達成できません。宝くじを買わなければ一等が当たらないように。





小説賞・新人賞の適齢期【回答】


「今から小説賞を狙いに行っても遅いかもなぁ」とお思いの方もおられるでしょう。

 しかし早まることはありません。

 おおかたの「小説賞・新人賞」の適齢期は三十代なのです。

 三十九歳で獲得しても、じゅうぶん活躍できます。そして四十歳を超えて受賞したら人気が出た書き手もいるのです。

 あえて「適齢期は三十代」と書きました。皆様に奮起していただきたいからです。




文学賞は三十代が適齢期

「純文学の新人賞」と呼ばれる芥川龍之介賞を授かったお笑い芸人・ピースの又吉直樹氏は、中年だからこそ獲れたのです。佳作を書くも結果が伴わなかった書き手を顕彰する直木三十五賞にノミネートされた人気バンド・SEKAI NO OWARIの藤崎彩織氏は若いために獲れませんでした(それでも三十一歳でしたのでギリギリ三十代で最終候補には残りました)。

 しかし十九歳で芥川龍之介賞を授かった綿矢りさ氏がいるため、単純に年齢だけで決まるわけではないようです。しかし受賞作『蹴りたい背中』以降いまだに大ヒット作は生まれていません。同時受賞の金原ひとみ氏も二十歳であり受賞作『蛇にピアス』以降大ヒットには恵まれていません。つまり両名とも話題性の要素が高かったのです。


 前述のとおり芥川龍之介賞は「純文学の新人賞」に位置づけられています。しかし適齢期はあるようです。大成した書き手はほとんどが三十を過ぎて受賞しています。

 又吉直樹氏は三十五歳での受賞ですが、同時受賞の羽田圭介氏は二十九歳での受賞です。三十代までたった一歳若いだけですが、その溝は深くて広い。他にも三十歳での受賞は吉行淳之介氏と宮本輝氏、三十二歳では遠藤周作氏、三十三歳では北杜夫氏、三十五歳では田辺聖子氏と町屋良平氏、三十六歳では村田沙耶香氏、三十七歳では辻仁成氏、三十八歳では保坂和志氏と川上弘美氏と町田康氏、三十九歳では藤沢周氏と田中慎弥氏など、数多くの人気作家がいます。

 もしあなたが中高生なら「芥川龍之介賞を狙うのは三十代になってから」と目標に据えて筆力を高める努力をしてください。


 文学賞の適齢期は三十代です。これは二十代よりも世間を知り、四十代よりも感性が若いからではないでしょうか。

 もちろん「人生百年時代」へと向かっていますから、これからは四十代が適齢期になるかもしれません。しかし現状では三十五歳前後が最も期待されます。だから又吉直樹氏は文壇で持て囃されているのです。

「適度な深さの謎」を無理なく書けるのも三十代になってから。二十代では知識が浅く、四十代になるとひとつの得意とする分野を深く掘り下げていくものだからです。

 著者が孔丘氏(孔子)とされる『論語』に「吾十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして迷わず。五十にして天命を知る。六十にして耳したがう。七十にして心の欲するところに従えどものりをこえず」とあります。

 つまり中高生のうちから小説の勉強を始め、三十代になったら頭角を現す。四十代になったら他人の評価が気にならなくなって、五十代になったら自分のやるべきことがわかるという意味で解釈できます。

 三十代で頭角を現すために、十五歳から勉強を始めるのです。




四十代でも五十代でも遅くない

 ではすでに四十代以上の人は大成しないのでしょうか。できます。

 四十代は「他人の評価を気にしなくなる」わけですから、自分の書きたいものを見つけるようにあれこれ幅広く書いていきましょう。そして五十代までに「自分のやるべきことがわかれ」ばよい。

 もしあなたが五十代であれば、すでに書くべきジャンルや作風は固まっているべきです。しかし五十代になってから新しい文体を身につけようと模索しても遅くはありません。「自分のやるべきこと」が今の状態でないのなら、あがいてでも新しい文体を身につけるのが「自分のやるべきこと」となります。

 芥川龍之介賞を七十五歳で授かった黒田夏子氏がいるのです。受賞作『abさんご』は「六十の手習い」としても意欲的な作品だと思います。


 人間はいつでも自分を変えられます。「今日から小説を書くぞ」と意気込んでも、誰からも文句は言われません。実際に書き始められるかが壁なのです。

 いちばん怖いのは「今日から小説を書くぞ」と思いながらも「今日は忙しいから、明日から始めよう」となってしまうことではないでしょうか。

 今日が明日、明日になれば「今日も忙しいから次の日から」、次の日になったら「今週は忙しかったから、疲れが抜けた来週月曜日から書くぞ」となり、いつの間にか書かずに一年が過ぎてしまう。

 そんな日々が一年三年五年と続き、意欲はあるはずなのにまったく書かないで定年退職するのです。

 そうなれば退職して時間が有り余ったときに「時間が出来たから、今日から小説を書くぞ」と始めても、受賞の適齢期はとっくに過ぎ去っています。まさに「六十の手習い」で始めるしかなくなるのです。

 六十になってから「ライトノベルを書くぞ」と思っても、感性は現役中高生に遠く及びません。今の中高生にウケるネタを考えるのが難しいのです。

 もし「紙の書籍」の編集さんに付いてもらえたら、担当編集さんが「今の中高生にウケる」ネタを提供してくれます。しかし担当編集さんが付くなんて、どこかの「小説賞・新人賞」を授かる以外にないのです。これでは堂々巡りになります。

 六十歳を過ぎてから「ライトノベルで勝負したい」と考えておいでなら、悪いことは言いません。先に文学小説を書いて受賞してください。文学小説であれば六十の感性でも、味わい深い作品が書けます。

「ライトノベル以外書きたくない」とお思いなら、挑戦してもかまいません。ですが、書く前にひたすら読みまくってください。幸い、金と時間は有り余っていますよね。現在流行っているライトノベルがどういうものかをまず知るのです。知らなければ書けません。

 だからもしあなたが四十代以上なのであれば、たった今から小説を書き始めるべきです。

「一日伸ばし」にしていると、六十代はすぐにやってきます。

 平均寿命が八十代である現在では、四十代は人生の折り返し地点です。ここまで小説を書いてこなかった方は、残る半生を小説に捧げる覚悟を固めましょう。

 すべての金と時間を小説に費やすのです。




小説講座の是非

「小説の書き方」の書籍を大量に購入するだけなら誰でもできます。書かれている内容を実践するのがたいへん難しいのです。

 しかも自習だと誰からも悪い点を指摘されません。それでは今書いている作品がよいのか悪いのか、わからないのです。そのため「小説講座」に通う中年・熟年・老年が増えています。「今まで小説を書きたいと思ってきたけど、自分ではよいのか悪いのかわからない。試しに小説賞・新人賞へ応募したけど、一次選考も通過しなかった。だからこの小説講座に来ました」という方が多いのだそうです。

 しかし現在は事情が異なります。小説投稿サイトが乱立し覇を競っているのです。読み手は積極的に新作を読みます。つまり批評をしてくれる読み手は大勢いるのです。だから「小説講座」へ通うくらいなら、小説投稿サイトで一本でも多く掲載するほうがよほど建設的になっています。

 ですが「同好の士」「同じ場所を目指す仲間」が欲しくて「小説講座」へ通いたい方もいらっしゃるのです。そういう方は切磋琢磨する人たちを持つために「小説講座」を選んでもよいでしょう。

 しかし小説投稿サイトの書き手は総じて「多くの人から評価されたい」から作品を掲載しています。つまり小説投稿サイトは切磋琢磨する相手に事欠かないのです。足りないのは「及んでいないことを指摘してくれる講師がいない」くらいでしょうか。


 自己分析が得意な方は、小説投稿サイトへ投稿して日々反響をチェックしてください。そして反省と対処をするだけで自然と上達するのです。

 自己分析が苦手な方は、やはり「指摘してくれる講師」がいたほうが確実に伸びていきます。そういう方は「小説講座」へ通うとよいでしょう。通信講座もありますが、自己分析が苦手な方が受けても「指摘を素直に受け取れない」場合が多い。カルチャーセンターや出版社などで開催している「小説講座」や「セミナー」に参加しましょう。面と向かって「指摘してくれる講師」がいると、バネにして伸びていく。それが自己分析が苦手な方の特徴です。

 しかしいつまでも「指摘してくれる講師」に頼りきりではいけません。いつかは自立するべきなのです。

 であれば「小説講座」を卒業したら、ぜひ小説投稿サイトへ作品を掲載しましょう。そこから自己分析力を磨いていけば、程なくして自己分析できるようになります。





最後に

 今回は「小説賞・新人賞の適齢期【回答】」について述べました。

「小説賞・新人賞」を授かって大きく飛躍するのは三十代が多い。これは受賞者の知名度を見ればわかります。

 しかし四十代でも五十代でも六十代でも、努力次第で良作は生み出せるのです。

 世の中、年齢を理由にして努力を怠る人ばかり。しかし七十五歳で芥川龍之介賞を授かれた書き手もいらっしゃるのです。あきらめずに努力し続ければ必ずチャンスは巡ってきます。

「あきらめたらそこで試合終了ですよ……?」と井上雄彦氏『SLAM DUNK』の安西先生もおっしゃっているではないですか。

虚仮こけの一念、岩をも通す」とも言います。ひとつのことに心を込めて行なえば必ず成し遂げられるのです。

 それでもあなたは年齢を理由に、努力を放棄してあきらめますか?



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