1012.面白篇:納得のいく面白さ

 今回は「納得のいく面白さ」についてです。

 人は「納得」すると「面白い」と感じます。「納得」できない作品は「面白くない」のです。

 人気マンガでも「納得できない」という理由でけっして読まない方もいるくらい。

 人によって「納得」する深さは異なります。どのくらいの深さがベストなのかは多くの小説を読めばわかるでしょう。





納得のいく面白さ


 物語には「最初は思いもしなかったんだけど、オチを聞いて腑に落ちる面白さ」もあります。

 たとえば推理小説で冒頭に不自然な遺体「変死体」が描かれているとします。

 最初はどうして「変死体」になったのか、読み手にはわからない。

 でも話を進めていくと、どうやら冷凍施設で凍死したもののようだと判明します。

 これで読み手は「犯行は冷凍施設で起きたんだな」と納得するのです。

「変死体」だけでエピソードがひとつ出来ました。




納得すると面白く感じる

 なぜ人は「納得」すると「面白く」感じるのでしょうか。

 それは「わからなかったものが理解できた」からです。立ち込めて周りが見えない霧の中にいても、次第に霧が晴れて視界が開けてきたら、そこに現れた風景に感動します。

「謎」があっても、それを解き明かすことによって「面白い」と感じてもらえるのです。

 推理小説がなぜ売れ続けるのか。それは「謎」を「解き明かす」ことで読み手の気分がすっきりするからです。


 読み手が途中で「答え」に気づいてしまうほど底の浅い「謎」ではすっきりとは感じず、その場で読み飽きてしまいます。ここまで読んだからと最後まで読んでもやはりその「答え」であれば、二度とあなたの推理小説は読まれなくなります。なにせ読み手よりも底が浅い。深みのない「謎」ではすぐに犯人とトリックに気づいてしまって、魅力を失ってしまうのです。

 その効果をあらかじめ狙っているときは別。あえて「誰でも少し頭をひねれば答えが出せる」くらいの「底の浅い謎」に思わせておくのです。読み手のほとんどはここで「なんだ、この程度か」と思いますが、残りページをあらためて見るとまだ半分しか進んでいません。つまり「まだわからないものが隠れているのでは」と思わせられるのです。そして実際に、先ほど思いついた「謎の答え」が実はフェイクで、真相はそれとはまったく異なります。このような作品は、ある程度書き慣れてから挑戦するべきです。初めて書く小説としてはハードルが高すぎます。


 逆に「誰にも解けるはずのない謎」を使って、物語の最後まで読み手に「答え」を見破られないようにもできます。しかしこちらは「オチ」を読んでも「わからない」ままになりがちです。読み手にバレづらい底の深すぎる「謎」を使えば、読み手の思考力を超えた展開となります。しかし「なぜそんな謎が起きて、どうやって解決したのか」がまるでわからないまま話が閉じてしまうため、「面白さ」をまったく感じないのです。その典型がフョードル・ドストエフスキー氏『罪と罰』です。

 この作品は読み手の思考力をはるかに超越した物語で、一度読んだだけではどんな展開なのかまったく理解できません。しかもあまりにも超越しているため、二度三度と読んでも理解できないのです。『罪と罰』を面白く感じるには、より高度な知識が欠かせません。つまり中高生では理解できなくても、中高年なら「面白く」感じられるようになります。読み手を選んでしまうのです。

 しかも文学小説の「小説賞・新人賞」はおおかたこのような「中高年でないと面白さのわからない作品」が獲ります。中高生が読んでもわかるライトノベルが文学小説の「小説賞・新人賞」を獲ることは絶対にありません。「謎の底が浅い」と思われてしまうからです。




オチの伏線は冒頭に書く

「オチ」の機能に特化したのが「落語」や「漫談」になります。

「落語」や「漫談」はともに「オチ」のある噺です。古典はもちろん新作も生み出されて、聞き手を飽きさせません。

 なぜ「落語」や「漫談」は聞き飽きないのでしょうか。

 多くは、なにげない初めの発言が、噺の「オチ」とリンクしているからです。

 つまり「前フリ」を最初にしておいて、「結末」で綺麗に回収して落とします。

 小説でも「前フリ」一般的にいうなら「伏線」は、できるかぎり初めに張っておきましょう。「オチ」がついたとき、その「伏線」が物語の冒頭に書いてあれば、読み手は大きな感動を味わえます。

 最初に書いてあったなにげない一文が、「オチ」を読んだときにカチッとリンクすると「ここまで読んできて後悔なし」と感じるのです。

 もし「伏線」を張ったのに「結末」の「オチ」とリンクしていなければ、煮え切らない思いを抱いてしまいます。

「伏線」を張らずに「結末」の「オチ」がついた場合も、少しは面白く感じますが、しょせんその程度です。

「伏線」をしっかり張って「結末」の「オチ」とリンクさせることで、「最初の一文から最後の一文までムダがなかった」と読み手に思わせられます。

 まったく同じ物語でも冒頭に「伏線」がある場合とない場合とでは、満足感が大きく異なるのです。この差をわきまえれば、いかに冒頭での「ツカミ」が重要であるか気づけるでしょう。




適度な深さの謎が面白いと感じさせる

 すぐに見透かされる「底の浅い謎」よりは深く、誰にも見破れない「底の深い謎」よりも浅い、「適度な深さの謎」は最も多くの需要を満たせます。

 誰からも納得される「適度な深さの謎」は、誰もが「面白い」と感じるのです。

 では、どうやって「適度な深さ」かを知ればよいのでしょうか。

 最も売れている小説に答えがあります。

 近年で最も売れた小説は又吉直樹氏『火花』の三百万部です。

 直近なら小野不由美氏『十二国記』の新作シリーズ全四巻が話題をさらいました。

 こういった「売れている小説」には万人に受け入れられる「適度な深さの謎」が含まれています。

 だから「適度な深さの謎」を知るためにも、ヒット作はもれなく読むようにしてください。

 

 小説投稿サイトで活躍するためには、書きたいジャンルのランキング上位は読破するつもりでいてください。

 どんな文体がよいのか。どんな主人公がよいのか。どんな「対になる存在」がよいのか。どんな脇役がよいのか。どんな人間関係がよいのか。どんな境遇がよいのか。どんな展開がよいのか。など「どんな要素がよいのか」を意識しながら読むのです。

 ただ読むだけではなにも得られません。つねに「なにを重点的に読もう」と意識しましょう。

 中高生であれば「テンプレート」を見つけ出して、それに則った小説を書くべきです。

 どんなキーワードが人気なのかがわかれば、そのキーワードを持つトップランカーの作品はまさに「テンプレート」の宝庫。「テンプレート」を見抜く眼力は、小説を「読む力」がなければ身につきません。だから「小説をたくさん読む」のです。

「読まなければ書けない」は正しい。稀に「読んでいないのに書けてしまった」方もいらっしゃいますが、交通事故に遭う確率でしか生まれません。そのくらい低いのです。


 私が感じるには、「紙の書籍」と「小説投稿サイト」とで人気が出る「テンプレート」は大きく異なります。

 小説投稿サイトは「紙の書籍」では禁則とされている事柄が多くても人気が出てしまうのです。

 底の深さがわからない小説もあれば、最初から底がわかっている小説もあります。

 どちらも人気が出てしまう。これが小説投稿サイトの問題点です。

 将来「紙の書籍」化したいと思って小説投稿サイトでトップランカーを維持していても、いっこうに出版社から声がかからない。トップランカーなのに、応募した「小説賞・新人賞」では二次選考止まり。こんなことがよくあります。

 小説投稿サイトと「紙の書籍」では求められるものが異なる、とわかっていないから起こる失敗談です。

「紙の書籍」化を約束されている「小説賞・新人賞」に応募するなら、「紙の書籍」として面白い作品を書きましよう。「小説投稿サイト」で人気の出る作品が必ずしも「紙の書籍」化して面白いとは限らないのです。

 そこを意識して「企画書」から練り直してください。





最後に

 今回は「納得のいく面白さ」についてです。

 読み手にとって「程よい謎」が解き明かされて思わず「納得する」と「面白く」感じます。

「程よい謎」は読み手層によって異なるのです。中高生なら浅い謎、中高年なら深い謎が好まれます。

 深さを測り間違えた作品は、まったくウケません。

 中高生向けとして童話や寓話を書いてもヒットしないですよね。逆に『罪と罰』ほど難しい作品を書いても、やはりヒットはしないでしょう。

 各世代で異なる「話題作」をたくさん読むことで、世代ごとの「程よい謎」の深さを見つけ出しましょう。



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