1008.面白篇:新しいという面白さ

 今回は「新しい」という面白さについてです。

「小説賞・新人賞」を授かるのは決まって「新しい」と思われた作品です。

 テンプレートに則っただけの作品では受賞は覚束おぼつかない。

「新しい」は強いのです。





新しいという面白さ


 小説を読んでいて最も「面白い」と感じるのは「新しさ」ではないでしょうか。

「異世界転生ファンタジーを数多く読んできたけど、こんな発想は今までなかった!」という作品が最も評価されます。

 多くの「小説賞・新人賞」でも「これは新しい!」と思わせた作品が賞をさらっていくのです。




新しいものは面白い

 小説に限らず物語は「新しい」ものを「面白い」と感じます。

 たとえばマンガの青山剛昌氏『名探偵コナン』では高校生探偵が謎の薬を飲まさせて小学生になってしまう。でも頭脳は若返らなかったので、推理力は抜群のままです。こうして数多くの事件を解決していきます。

「高校生探偵」であれば直近でマンガの天樹征丸氏&さとうふみや氏『金田一少年の事件簿』があったので取り立てて「新しい」要素でもありません。「小学生探偵」も江戸川乱歩の「少年探偵シリーズ」がありますからそれほど「新しい」要素ではありません。しかし「高校生探偵」が縮んで「小学生」になった物語は今までになかった。だから「新しい」と感じるのです。

 その影響を受けてしまったのが発想の元となった『金田一少年の事件簿』というのも皮肉かもしれません。同じ「高校生探偵」ものであり、普段は小学生という『名探偵コナン』が登場してきて、凄惨な殺人事件を数多く扱っていた『金田一少年の事件簿』は優位性を保てなくなりました。結果としてテレビアニメは程なく終了し、本連載も数年ののち終了してしまったのです。「新しさ」で勝った『名探偵コナン』は今でも連載が続き、テレビアニメも劇場版も放映・上映されています。

「新しい」もののほうが「面白い」と同時代で証明した格好となったのです。


 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』は宇宙で戦争を繰り広げる小説。しかし星間戦争というのであればH.G.ウェルズ『宇宙戦争』がありました。またマンガの松本零士氏『宇宙戦艦ヤマト』のようにヤマトと異星人との戦いを見せるアニメもあったのです。これを「銀河に移民していった人類同士の宇宙戦争」という発想にしたのが「新しい」。しかも銀河の覇権を賭けた戦いであり、艦隊戦と地上戦のミックスされた戦術を導入したのも「新しい」のです。




なぜ新しいものは面白いのか

 このように、人々は「新しい」ものを「面白い」と感じます。

 似たような作品があったとしても、より「新しい」ものを「面白い」と判断するのです。

 なぜでしょうか。

 それは「先が読めない」からです。

 もし既存の物語を踏襲していたら、先々の展開が見えてしまいます。たとえば『シンデレラ』を今小説で書いたとしても、読み手はすでに古典となった『シンデレラ』を知っているのです。だからこの先どんな展開が待っているのかもわかっています。つまり「面白さ」に欠けるのです。

 そんな『シンデレラ』も映画にすると大勢の観客を動員します。物語はすべて知っているのに、なぜ人々は映画を観に行ったのでしょうか。

「映像にしたらどんな感じになるんだろう」と興味が湧くからです。

 まぁ『シンデレラ』はかなり昔の映画化でしたので、より近いところでは『美女と野獣』ですかね。こちらも皆が物語を知っているのに多くの人々が集まりました。やはりフルCGアニメになるとクオリティーが気になって、つい観に行ってしまうんですよね。

「新しさ」で観客を集めたのがジェームズ・キャメロン氏監督&レオナルド・ディカプリオ氏主演『タイタニック』ではないでしょうか。豪華客船タイタニック号が沈没することは事件として世界的に有名です。しかしその中でどんな物語が繰り広げたのかについては誰も知りません。だから沈みゆく豪華客船でどんなストーリーがあったのだろうか。そう思ったらどうしても物語が気になってしまうのです。

 これだけで「新しい」と思います。そこに船旅で出会った男女の恋物語ラブ・ストーリーという基軸を打ち立てたのです。これでどんな結末が待っているのかわからなくなりました。これがもうひとつの「新しさ」です。

「新しさ」をかけ合わせたので観客は予測不能な物語に翻弄され、感情を大きく動かされたのです。これにより当時の興行収入ランキング一位の記録を打ち立てました。

 誰にも「先が読めない」物語は、先々の展開が予測できないため人々を惹きつけてやまないのです。

 あなたの小説には「新しさ」はありますか。

 人気が出るからという理由で疑いもなく「テンプレート」をそのままなぞっていませんか。

 単なる「テンプレート」の踏襲では、最初のうちこそ閲覧数(PV)が高くてもその勢いはすぐにかき消されてしまいます。

「テンプレート」の設定へいかに「新しさ」を持ち込めるか。それが「テンプレート」を用いる際の注意点です。




新しいは一筋縄ではいかない

「小説賞・新人賞」は人気投票ではありません。

 どれだけ他の書き手と差別化を図れるかが求められます。

 その中でも「新しい」は究極の差別化要素です。

「この作品にしかないもの」が書ける書き手は強い。

 いくら既存の「テンプレート」作品がランキング独占の状態でも、「小説賞・新人賞」を授かれるのは選考さんから「新しい」と思われた小説です。「テンプレート」作品はよくて佳作止まり。まず「小説賞・新人賞」は授かりません。選考さんに「またこのパターンか」と思われた時点であなたの負けです。

「テンプレート」はストーリーが作りやすい。というより一本のストーリーが確立しています。その上を走っているかぎり、安定した人気が得られるのです。だから「小説賞・新人賞」でも有利に働くはずと思い込みます。

 そう「思い込み」なのです。

 たとえば「剣と魔法のファンタジー」なら騎士、戦士、盗賊、神官、魔術師、精霊使いとだいたい登場する職業が決まっています。だから小説を書くのならこれらの存在を網羅したストーリーを展開すればよいと思い込んでしまうのです。しかし実際にはそれだけでストーリーが「面白く」なるわけではありません。「新しい」要素がまったくないからです。

 ここに「知識だけはあるけど、戦闘ではなんの役にも立たない賢者」だったり「視力がよいだけで臆病者の見張り番」だったりを加えたらどんなストーリーになるでしょうか。

 ちょっとワクワクしてきませんか。

 またあえて「盗賊」がいないストーリーを考えてみるのも「あり」です。

「新しさ」を考える際、つい「なにかを足す」だけを考えがち。ですが「なにかを引く」考えも持ってください。

 劇作家ウィリアム・シェイクスピア氏『ロミオとジュリエット』で、もしロミオが短剣を所持していなければ、仮死状態のジュリエットを見てどんな行動をとるのでしょうか。いろいろ考えられるはずです。


「新しい」を生み出すためには「足す」「引く」をしたうえで「かける」ようにしてください。加わった要素と減った要素によって状況シチュエーションは大きく変わります。加減した要素をかけ合わせて、どんなストーリーが生み出されるのか。それを考えてください。

「新しさ」を出すために、私たちはつい「どんなことが起こると新しいと思われるのだろうか」「どんな人物がいれば新しいと思われるのだろうか」だけに囚われてしまいます。

 そんな規則があるわけでもないのにです。

「どんなことが起こらないと新しいと思われるのだろうか」「どんな人物がいなければ新しいと思われるのだろうか」という視点を忘れないでください。

 そうすれば、既存の「テンプレート」を用いても「新しさ」は必ず作り出せます。

 疑いもなく「テンプレート」を用いているかぎり「足す」も「引く」も思いつきません。

 まず「テンプレート」を疑いましょう。





最後に

 今回は「新しいという面白さ」について述べました。

「小説賞・新人賞」は人気レースではありません。選考さんにどれだけ「新しい」と思わせられるかで決まります。

 また、そういった作品は目の肥えた読み手にも満足され、評価が高まっていくのです。

 結果としてランキングに載れるかもしれません。

 そういう意味でも「新しい」はとても強い「面白さ」なのです。



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