1009.面白篇:得体の知れない面白さ

 今回は「得体の知れない」面白さについてです。

「得体の知れない」ものには「好奇心」と「可能性」があります。

 どちらも読み手にとっては「新しい」ものです。

 しかもただ「新しい」だけでなく、詳しくわからなかったりどうなるかわからなかったりと「先が読めなく」なります。





得体の知れない面白さ


 中には「得体の知れない面白さ」もあります。

 たとえば「好奇心」。今まで知らなかった分野には、誰でも興味が湧いてきます。小説は知識を増やすためにも読まれるのです。だから読み手は自分の知らない物語に強く惹かれます。

 たとえば「可能性」。今読んでいる作品になにか「可能性」を感じたら俄然興味が湧きますよね。主人公の幼少期のエピソードから入ったら「将来どんな人物になるのだろう」と気になってしまうのです。だから可能性を感じる物語に強く惹かれます。




好奇心による面白さ

 人は知らないものに「好奇心」が湧きます。知らないと知りたがるのが人の本能です。

 世界一高い山があれば登頂したいと思い、南極点になにがあるのか知りたいから踏破したいと思います。誰も成し遂げていないことに挑戦したくなるのです。

 アメリカの「アポロ計画」は、誰もが夢にも思わなかった「月面着陸」を成し遂げ、月面に人類の足跡を残しました。米ソの宇宙進出競争の時代でした。現在アメリカは再び月面に人類を送り込む「アルテミス計画」を立案しています。これは中国の宇宙進出に対抗するためのものです。

 他人に先を越されて知られてしまうと、気分が萎えてしまいます。

 たとえばあなたが観たかった映画を、友人があなたより先に観たとなれば「なんで誘ってくれなかったの」と思うはずです。

「好奇心」を誰かが先に満たしてしまう。すると不平不満が表出します。だから「好奇心」を失わないかぎり「面白さ」を感じるのです。


「好奇心」は否応なしに人を突き動かします。

 推理小説は、いつも犯人がトリックを用いて人を殺します。捜査する探偵や刑事がアリバイを見破って犯人を自供させて、被害者の身内がその後の人生を歩んで終わるパターンがほとんどです。

 そうとわかっているのに、なぜ推理小説の新作はいつまでも売れ続けるのでしょうか。

「大枠は同じでも、犯人の関係性も動機も手口もトリックも新しい」からだと思います。

「新しい」ものがあるから「好奇心」が湧くのです。

 もし「すでにある」ものだけで作られた推理小説なら「好奇心」は湧かないでしょう。

 なにせ知らないことがいっさいありません。知っている犯人の関係性も、知っている動機も、知っている手口も、知っているトリックも、すべて「面白さ」を奪ってしまう要素だからです。

 これらのすべてを「知らない」必要はありません。もちろん「知らない」要素が多いほうが「好奇心」は弥増いやまします。ですが、たったひとつ「知らない」だけでも「好奇心」は刺激されるのです。

 他のすべてを「知っていて」も、たったひとつ「知らない」だけで、じゅうぶんに「好奇心」が湧いてきます。

「知らないこと」を知りたくなるのは、人の本性だからです。

「謎」を目の前にして「謎」のままで放っておけません。

 探偵や刑事でなくても、テレビで事件の報道があれば、あなたは素人探偵として番組が集めた情報を頼りにさまざまな推理をするでしょう。

 あなたなりの推理で犯人に目星をつけたら、そこで満足するはずです。

「謎」に対抗するあなたの「推理」で一定の結末を導き出したら、真偽はともかく「謎」ではなくなります。




可能性による面白さ

 人は「可能性」が提示されると「面白さ」を感じます。

 これを使えばこんなことができるのではないか。この仮説が成立するなら、犯人はこの人物に違いない。

 そう思った瞬間に「面白い」と感じるのです。

「可能性」は物語の「分岐」に影響を与えます。

「分岐」のいずれを選択するかで「可能性」はひとつに絞られるのです。

 ストーリー創りの際、できるだけ多岐にわたる「可能性」を読み手へ提示してください。「分岐」での選択肢が多いほど物語は「面白く」なります。

 物語が多岐にわたる「可能性」を提示せず、既定路線で走っているだけでは、まったく「面白く」ありません。

 それは「可能性」もない、すべてが必然で構築された世界だからです。

 私が「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」の順で小説の展開を考えるように説いているのはそれを回避するためです。とくに「あらすじ」は「可能性」がたくさん見えてきて、どれを正解にするのかかなり迷うでしょう。

「あらすじ」のエピソードを決定する際に、主人公の置かれた状況で最適と思われる「可能性」を選択するのも、書き手の特権です。

 できうるかぎりの「可能性」を読み手に開陳しましょう。

 そのうえで読み手をうまく導いてください。

 主人公にとらせたい行動を読み手が自然に選んでもらう工夫も必要です。そうすれば読み手は主人公へ深く感情移入してくれます。

 状況シチュエーションを示すだけで、「どんなことができそうか」と読み手が勝手にやれそうなことを考え始めてくれるのです。

 その中で書き手は主人公に「これをやろう」と選ばせれば、読み手は納得して続きを読みます。

 たいせつなのは「可能性」を広げて見せることであって、「可能性」以外が選択されると違和感を覚えやすくなるのです。

 あえて「可能性」以外を選択して「その発想はなかった!」を読ませれば、それは「新しい」物語になります。

「新しい」物語を考えるうえでも「可能性」は幅広く持たせるべきです。

 それが「人を惹きつける物語」につながります。




好奇心も可能性も知りたがるから興味が湧く

 人は「好奇心」を刺激されたり「可能性」を提示されたりすると、得体の知れないものを感じて興味が湧きます。得体の知れないものがあると「どんなものなのか」が気になって仕方ないのです。

 だからこそ、小説には「得体の知れない」ものがあるべき。

「得体の知れない」ものは、書き手も不安を覚えます。主人公や世界に不確定の部分を作って物語を進めなければならないからです。

 しかし前もって「不確定要素」の正体を定めてあれば、「得体の知れない」ものは読み手を惹きつけるための重要な因子になります。

 物語はけっして先を読まれてはなりません。読み手には予測不能な「不確定要素」「得体の知れない」ものを示しておくのです。それだけで読み手は先が読めなくなります。


「得体の知れない」ものは「謎」なのです。「謎」は解かなければなりません。

 小説は提起した「謎」を「解いていく」物語です。「謎」のままで終わると、読み手は消化不良を起こします。終わった感じがしないのです。

 連載を終えるまでに、物語で提起された「好奇心」「可能性」といった「謎」はすべて「解かれている」ようにしてください。解かれない「謎」を残してはなりません。

 とくに「小説賞・新人賞」を狙っているときは、解かれない「謎」が残っているだけでマイナス評価を受けます。「構成力」に疑問符がつくからです。





最後に

 今回は「得体の知れない面白さ」について述べました。

「得体の知れない」ものは「好奇心」「可能性」と言い換えられます。そして「謎」の形をしているのです。

 だからこそ、小説は「謎」がないと「面白み」に欠けます。

「好奇心」「可能性」という「謎」があるから、「面白さ」を醸し出せるのです。



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