面白篇〜面白い小説のタネ

1004.面白篇:小説の面白さとは

 今回から「面白篇」を始めます。

 小説の「面白さ」について書いていく予定です。

「主人公最強」だけが「面白い小説」ではないところから着想を得ました。

 他の篇のご質問も承っております。どうしてもわからなければいつでもお問い合わせくださいませ。

 改めて【補記】【回答】コラムをお書き致します。

 万人の辞書であり、あなただけの辞書でもある。そんなコラムを目指しています。





小説の面白さとは


 小説は文字で書かれています。

 当たり前ですが、前提としてきちんと明文化していなければ先へ進めません。

 では多くの読み手に支持される小説とはどんなものでしょうか。

 ほとんどの場合「面白い」から支持されて続きが読みたいと思ってもらえます。

 一度でも「面白くない」「つまらない」と断ぜられたら、閲覧数(PV)は激減しブックマークも剥がされていくのです。




小説の面白さは「楽しめる」こと

 では小説の「面白さ」とはどんなものでしょうか。

 考えられるのが「楽しめる」ことです。

 読んでいて「楽しい」と思われる小説は「面白い」。これは間違いありません。

「楽しめる」小説と一言で述べるのは簡単ですが、内容を細かく見ていくと一筋縄ではいかないのです。


 ある読み手は「主人公が誰よりも強くて、ラスボスさえも一撃で倒してしまうようなヒロイックな物語」を「楽しい」と感じます。マンガの鳥山明氏『DRAGON BALL』の孫悟空は、強敵である桃白白、天津飯、ピッコロ大魔王、マジュニア、ベジータ、フリーザ、セル、魔人ブウと相次いで戦っていくのです。そして孫悟空はそのすべてに勝利します。「主人公が誰よりも強い」物語の走りは『DRAGON BALL』によって生まれたと考える方が多いはずです。しかし『DRAGON BALL』連載時は『週刊少年ジャンプ』連載のほとんどの主人公は「誰よりも強かった」のです。武論尊氏&原哲夫氏『北斗の拳』のケンシロウ、車田正美氏『聖闘士星矢』のペガサス星矢、冨樫義博氏『幽☆遊☆白書』の浦飯幽助など挙げればキリがありません。

 なぜ「主人公最強」のマンガがウケたのでしょうか。

 それは読み手が「この最強の主人公が今のピンチをどうやって脱するのだろう」と逆転の方法に意識が向くからです。逆転自体は最初から織り込み済み。なにせこれまでの戦いで「主人公最強」を証明してきたのですから。今度の戦いも当然主人公が勝つに違いないと読み手に確信がありました。だから「どうやって逆転するのか」だけを考えられたのです。

 現在の小説投稿サイトのランキングを見ていると「主人公最強」キーワードが付いた作品が上位を寡占しています。理由は最盛期の『週刊少年ジャンプ』と同様、主人公がピンチに陥っても「この状況からどうやって勝つのだろう」とワクワクしてくるからです。

 現在ライトノベルが人気なのは、最盛期の『週刊少年ジャンプ』と同じ構造だから。

 そして最強の主人公がザコを瞬時に倒し、ライバルや「対になる存在」との直接バトルに集中するさまが描かれます。

 現在の小説投稿サイトは、実のところ1980年代最盛期の『週刊少年ジャンプ』と大差ありまぜん。これは小説投稿サイト側が意図的に生み出したのか、そういった作品が多くの読み手に支持されたのか。はっきりしたところはわかりません。

 ですが現在では「主人公最強」の「ハイファンタジー」小説が人気を博しています。

『北斗の拳』は第三次世界大戦の核戦争後の世界が舞台。格闘技の強い者が弱肉強食世界の支配者として君臨している。その格闘技で世界最強なのが「北斗神拳」なのです。

 そもそも論として『北斗の拳』はどのジャンルに属するのでしょうか。

「第三次世界大戦」という空想科学が描かれているから「SF」、世紀末が過ぎた今なら「伝奇」、「北斗神拳」という日常世界にはない格闘技が主体だから「ローファンタジー」または「アクション」あたりに属しそうです。実際これらのジャンルに属していれば間違いはないでしょう。


 またある読み手は「実力伯仲した主人公と「対になる存在」とのせめぎ合い」を「楽しい」と感じます。

『週刊少年ジャンプ』で考えれば、小畑健氏の作品でこの手法が多く用いられているようです。ほったゆみ氏とタッグを組んだ『ヒカルの碁』の主人公・進藤ヒカルと「対になる存在」の塔矢アキラが囲碁で切磋琢磨するさまが見られました。大場つぐみ氏とタッグを組んだ『DEATH NOTE』は主人公で東大首席エリートの夜神月と、「対になる存在」で世界一の名探偵「L」との対決がハラハラ・ドキドキの緊迫感サスペンスを演出したのです。同じく大場つぐみ氏とタッグを組んだ『バクマン。』は主人公の真城最高と高木秋人のペンネーム「亜城木夢叶」が天才マンガ家の新妻エイジとしのぎを削る戦いを見せてくれます。

 このように互角の戦いは「どちらが勝つかわからない」からハラハラ・ドキドキしてくるのです。

『ヒカルの碁』『バクマン。』はどちらも「日常」ジャンルでしょう。

 ちなみに「伯仲」とは中国の子どもの順番を表しています。長男を「伯」、次男を「仲」。さらに三男を「叔」、四男を「季」。これをひとまとめに「伯仲叔季はくちゅうしゅくき」と呼びます。だから「伯父おじさん」「伯母おばさん」は父母の兄姉、「叔父おじさん」「叔母おばさん」は父母の弟妹を指すのです。こういう知識をひとつ憶えておくだけで、さまざまに応用がききます。


 予想を裏切る「楽しさ」もあります。

 多くは「推理」もので、名探偵や警部が難事件に挑み、意外な真犯人を突き止めたり、アリバイトリックを解明したりするのです。サー・アーサー・コナン・ドイル氏『シャーロック・ホームズの冒険』は予想を裏切られる快感「楽しさ」を私たちに与えてくれました。

 他にも「ホラー」ものは読み手の意表がつけなければ成立しないジャンルです。

 ここまで逃げれば安全だ、と安堵した途端に襲いかかってくる脅威ほど、緊迫感スリルで物語を「楽しく」させるものはありません。

 これはどんなジャンルにも当てはまります。問題が解決したと安堵したところを不意打ちされると、読み手はがっつりと食らいついてきます。

 この仕掛けを一投稿回の終わりに仕込むと、次話を心待ちにできるのです。つまり「惹き」はつねに読み手の予想外のところからやってきます。

『DEATH NOTE』は「実力伯仲」の物語ですが、「予想を裏切る楽しさ」を味わうマンガでもあるのです。これは現実世界を舞台にしています。そこに「デスノート」という「ファンタジー」がある。となれば「ローファンタジー」になると思われますが、繰り広げられるのは心理戦です。緊迫感サスペンス要素を強調したいなら「スリラー」もありでしょう。少なくともアクションシーンは少ないですから「アクション」ではない。Lが主人公なら「推理」でもかまいません。実に分類しづらい作品なのです。逆に考えると「単純なジャンルでは分けられないから魅力的」なのかもしれません。





最後に

 今回は「小説の面白さとは」について述べました。

 少なくとも「主人公が誰よりも強くて、ラスボスさえも一撃で倒してしまうようなヒロイックな物語」「実力伯仲した主人公と「対になる存在」とのせめぎ合い」「予想を裏切る」の三つが明確な「楽しさ」を示しています。

 このうち現在の小説投稿サイトとくに『小説家になろう』で人気があるのは「主人公最強」パターンです。

 ということは「実力伯仲」パターンと「予想を裏切る」バターンの作品が実は「狙い目」と考えられます。「主人公最強」のテンプレートを避けるのであれば、この二パターンを意識してみましょう。



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