1003.筆洗篇:執筆の時間短縮を意識する
今回は「執筆の時短」についてです。
まずは「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」を完成させましょう。
そうすれば執筆時に悩むのは描写と表現だけになります。
話の筋はすでに出来あがっているからです。
執筆の時間短縮を意識する
本文の執筆スキルを高めたければ、執筆時にタイマーをセットしてください。
できればスプリットタイム(中間タイム)を測れるタイマーがあるとよいでしょう。
なぜタイマーをかけるのか。
お尻に火をつけるためです。
全力のつもりが八割しか使っていない
昔から「火事場の馬鹿力」と言いますよね。
平時ではタンスも持てないような細腕でも、火事に遭うと重いタンスを担いででも炎の中から脱出してくるのです。
日常では脳が筋肉に制限をかけています。だから筋肉の全力の八割しか使っていません。もしいつも全力を使ってしまったら、急場をしのげなくなるからです。残り二割をあえて残して生存率を高めています。
小説を書くのも同じです。
いつも全力を出しているつもりでも八割しか使っていません。残りの二割は急事のための保険として機能します。
もしいつも全力を出してしまったら、すぐに脳がオーバーヒートしてしまうのです。
脳のオーバーヒートは身体機能を全面的に低下させるほど恐ろしい。絶対に避けなければなりません。
だから、脳は使い込みすぎないほうがよい。というわけでもありません。
関連情報と同時に記憶する
いつも「全力だ」と思いながら執筆しているのですが、実際には八割の能力しか使っていません。しかしそれでは成長もしないのです。
脳機能を成長させてすぐれた脳力へ鍛え上げるには、適度な負荷が必要になります。
「脳は鍛えられない」思い込みを捨てましょう。
確かに脳は筋肉ではありませんから、負荷をかけても筋力のようにアップしない。
ですが、脳の記憶回路であるシナプスをつなげる速さは高められます。
記憶をいかに素早く取り出せるのか。それが脳の回転速度を示しているのです。
脳機能のうち記憶力と、記憶を取り出す速度は比例しません。
記憶は、ただ脳に情報をインプットするだけでは駄目なのです。適切な場所に保管される必要があります。そのためには、すでにある古い記憶の近くに新しい情報を持っていってやりましょう。
具体的にどうするのか。関連する古い記憶を思い出しながら、新しい情報を憶えようとするのです。すると古い記憶と近しいところに新しい情報が記憶となって定着します。すると関連する記憶同士が呼び起こしやすくなるのです。
たとえば「りんご」は、「赤い」「果物」「みかん」「梨」「硬い」「酸味」などを思い出しながら記憶しようとすればよい。すると「赤い」という情報を脳に与えると「だるま」「夕焼け」「口紅」などと一緒に「りんご」が引き出されます。また「果物」という情報を脳に与えると「みかん」「梨」「いちご」「スイカ」などと一緒に「りんご」が思い出されるのです。
単に「りんご」を憶えようと思っても、過去のいずれの情報ともつながっていません。当然他の情報とは隔絶していて、「赤い」「果物」などの情報を与えても「りんご」は思い浮かばないのです。
記憶力とは他の記憶と関連づける能力を指します。
あなたは歴史の時間に年号を憶えようとして「蒸し米炊いた大化の改新」とか「いい国作ろう鎌倉幕府」とか語呂合わせで憶えませんでしたか?
実はこの語呂合わせも他の記憶と関連づけるために用いているのです。
歴史の試験で「大化の改新って何年に起こったことだったかな?」と記憶を探るときに、「蒸し米炊いた大化の改新」という語呂合わせが真っ先に思い浮かびます。すると「蒸し米」だから「六四五年」だった、と思い出せるのです。
しかし「大化の改新」を単に「蒸し米炊いた大化の改新」とだけ憶えてしまうと、登場人物は記憶できません。
そこで「大化の改新」という定着した記憶を呼び出しながら「
「りんご」に戻れば、単に「赤い」「果物」「みかん」「梨」「硬い」「酸味」だけでなく、「日本一の生産地は青森県で、二位が長野県」という具合に憶えれば、「りんご」というひとつの単語を記憶するだけで生産地までインプットできるのです。そうすれば「青森県」という情報を見つけたときに、「そういえば青森県って日本一のりんご生産地だったな」と関連する情報も思い出せます。
人間、単語だけではなかなか憶えられません。しかし関連する情報も巻き込めば、意外と記憶できてしまうのです。
あなたは「言う」という単語を知っていますよね。では「言う」の尊敬語、謙譲語を思い出せますか。こう問われると「なんだったっけ?」となる方は、正しい憶え方をしていません。「言う」という単語は幼稚園児でも知っています。しかし幼稚園児は尊敬語、謙譲語がわかりません。ですから、後日必要に迫られたときに「言う」の尊敬語、謙譲語を憶え直す必要があります。
ちなみに「言う」の尊敬語は「おっしゃる」、謙譲語は「申す」です。より大きな尊敬の意を払いたければ「おおせられる」を用います。
「言う」という単語を思い出しながら、ワンセットで「おっしゃる」「おおせられる」「申す」を憶えればよいのです。
そうすれば「言う」の語彙を一度に三つ憶えられます。
数と速さを追求する
小説を執筆するときは、憶えるのではなく引き出す脳力が求められます。
もちろん憶えてもいないものを引き出せるはずがありません。だから膨大なインプットがなければ小説は書けないのです。インプットが少ない書き手は「テンプレート」に則った作品しか書けません。ですが、そういう方に限って「小説賞・新人賞」を授かってしまい、「紙の書籍」化するために悪戦苦闘させられるのです。しかし膨大なインプットが裏にありませんから、どうしても描写が薄っぺらくなります。だからいつまで経っても受賞作が出版されないのです。「小説賞・新人賞」を授かった方に本当の実力があるかどうかは、授賞してから出版されるまでの時間を見ればある程度見当がつきます。
ここからは「膨大なインプットがある」前提で見ていきましょう。
小説は頭の中にある引き出しから、そのとき最適と思われる描写や表現を選び出して当てはめていく芸術です。
俳句のように季語を含めなければならないとか、五七五調でなければならないとか、そんな文型上の縛りはありません。どんな書き方をしても自由です。
ですが、書き手が脳裡に描いている情景を読み手に過たず伝わるよう書くのが難しい。
この表現で、読み手はこちらの思うとおりの情景が浮かんでいるのか、に気を配らなければなりません。
この作業は小説を書くうえで最も時間がかかります。
ああでもないこうでもない。ああ書いたら誤解されそうだから、ここはこう書こう。書いたら書いたで、読み返した際にどうも自分の書きたいものが表現できていないように見える。表現を変えてみてしっくりくるか試す。しっくりくるまでやり直します。
そのため、小説は「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」の順に進めるべきなのです。
「プロット」がしっかり固まっていれば、後は描写や表現の工夫のみに専念できます。
「どう描写・表現してよいのかわからない」のが正しい執筆手順です。
「なにを書けばよいのかわからない」とはなりません。すでに書くべき内容は「箱書き」「プロット」で示されているからです。
これが「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」と段階を経る利点でしょう。
描写や表現はどれだけの引き出しがあるかで決まります。
文章をたくさん読めば、引き出しは増やせるのです。
どんな文章でも引き出しの肥やしにはなります。しかしより実践的な肥やしはやはり小説の文章です。だから小説をたくさん読んでください。
「小説賞・新人賞」を狙っているのなら、原稿用紙三百枚・十万字ほどの小説を読みまくるべきです。
そんな時間はない。そうであれば短編小説でもかまいません。
長編小説賞を狙いにいくなら断然長編小説を読むべきです。長編小説なら構成や展開や伏線についても多くのことを学べます。ですが「小説の文章」の描写や表現の引き出しを増やすだけなら短編小説でもよいのです。
たくさん読んだら、小説を数多く書いてください。
引き出しの中に入れたままでは、描写や表現が古びたり、その存在を忘れてしまいます。頻繁に引っ張り出して用いるようにしてください。
そのためにも数多く小説を書くべきなのです。
数をこなせば、どの引き出しになにをしまっていたのかを無意識に憶えられます。
これによって最も時間をかけずに、最も効果的な描写や表現が用いられるのです。
この段階までくれば、あなたは書きたい作品をスラスラと書けるようになります。
数をこなして最短で用いられるようになるには、執筆する時間を短く決めましょう。ここでタイマーの出番です。
短時間で、より効果的な描写や表現が使えるようになれば、一話の執筆は驚くほど速くなります。
私も本コラムを千回も続けていますから、コラム口調で文章を書くスピードが高まりました。このところストックなしで執筆していますが、詰まることなく連載が続いています。まぁコラムのネタが切れたらその場で終わりですけどね。
小説も、たとえば短編を千本でも書けば、描写や表現がかなり洗練されてくるはずです。長編小説を十本でも二十本でも書けば、構成や展開や伏線も無理のないスムーズな流れになるでしょう。
数をこなすことで、より短時間で、より効率的に執筆できるようになります。
そのためにも数と速さを追求してください。
最後に
今回は「執筆の時間短縮を意識する」ことについて述べました。
時短には「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」を経て、後は描写と表現のみの状態まで持っていきましょう。
描写と表現だけに頭を使えば、より洗練された文章が書けるようになるのです。
この作業を何十回でも繰り返せば、執筆は大幅にスピードアップします。
そうなれば、じゅうぶん質を高められるのです。
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