995.筆洗篇:シーンによるリズム【回答】
今回は「リズム」の続きです。
バトルと推理の「リズム」を例に、緩急をつけて飽きさせない「リズム」について考えます。
シーンによるリズム【回答】
今回は「
「
もし
ライトノベルを書くとき、まず避けて通れないのが「
「異世界転生ファンタジー」「異世界転移ファンタジー」「異世界ファンタジー」では必ず「
「異世界恋愛」「悪役令嬢」であっても、なにがしかの
では、そんな「
コンマ数秒で次々と起こる動作をどのように描写するのか。
まずは普通の地の文をそのまま書いてみます。。
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剣の切っ先を正面の敵の目線に上げて牽制し、周囲に目を配らせる。敵は五人いる。真後ろにいた敵が大上段から斬りかかるのを見て取る。その太刀筋を見極めて左へはらりとかわし、太刀を横薙ぎで胴へ叩き込む。最初の襲撃者が血しぶきをあげて倒れた。そしてまた切っ先を上げて牽制し、周囲を警戒した。
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どうでしょう。ワクワクするような
なにか「リズム」が悪いように感じられたはずです。
とにかく一文が長い。「テンポ」が遅くなって「リズム」が崩れています。
そうわかったら、次は短文を意識して書いてみます。
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剣の切っ先を上げる。正面の敵の目線に突きつける。牽制しながら周囲に目を配らせる。敵は五人。すると真後ろにいた敵が動いた。大上段から斬りかかってくる。その太刀筋を見極めた。左へはらりとかわす。手持ちの太刀を横薙ぎした。敵の胴をかっさばく。最初の襲撃者が崩れ落ちる。血しぶきをあげながら。切っ先を上げて次の襲撃に備える。目をわたらせて警戒した。
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今回はどうでしょうか。短文の連続でパパパッとフラッシュのような動作が浮かんでくるはずです。最初の例文よりも緊迫感が伝わってきます。
これが唯一の正解……とは限りません。
俳句・川柳の五七五調のように、長短を適度に組み合わせて「リズム」を刻んでみます。
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剣の切っ先を上げ、正面の敵の目線に突きつけて、牽制しながら周囲に目を配らせる。敵は五人。すると真後ろにいた敵が動いた。大上段から斬りかかってくる太刀筋を見極め、左へはらりとかわす。それに合わせて手持ちの太刀を横薙ぎ。敵の胴をかっさばく。最初の襲撃者が血しぶきをあげながら崩れ落ちる。素早く切っ先を上げて次の襲撃に備える。目をわたらせて警戒した。
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さて今回はどうでしょうか。少し時間のある動作をつなげ、パパパッと素早く動くところは短文のままです。
緩急がついたことで、読み応えのある描写になりました。
あえて長文を混ぜることで躍動感のある「リズム」が生じます。
しかし、最初からこのレベルの描写を書ける方はまずいません。「リズム」よく「
推理のリズム
対して推理の「リズム」は長い文の割合が多くなります。
考えを巡らせているとき、誰もが長い時間をかけているはずです。
とくに推理シーンは、これまで手に入れた情報を精査し組み合わせて結論を導き出します。
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澤部はこれまでの情報を整理することにした。まず殺された被害者を憎む人物は四人いて、いずれもアリバイがある。被害者が死んで利益を得る人物は先ほどの四人に加えて三人いて、三人のうちひとりのアリバイが確認されており、残るふたりにはアリバイがない。となればこのふたりが怪しいのだが、深い刀傷によって殺害されたことを鑑みると、よほど刀の扱いに慣れた力のある男性の仕業と考えられる。しかし残されたふたりはともに女性で剣道や剣術の心得がないので、殺害方法を実行できないだろう。では誰が犯人なのかだが、剣術の心得がある容疑者はひとりに絞られ、彼ならばこの殺害はじゅうぶん実行可能である。しかし完璧なアリバイがあるため、真犯人と断定するわけにはいかない。なにがしかのトリックを用いているのだろうが、それを突き崩せるだけの情報は手元にないのだ。
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いかがでしょうか。推理ものを書いたことのない私が書いたので、拙い点はご容赦ください。
一文は長いです。これによって主人公の思索の過程を追えたでしょうか。
おそらく冗長に感じて途中で読むのをやめたはずです。
そうなのです。推理というだけで長文のみの「リズム」で書くと単調になりすぎて飽きてきます。
読み手の脳を刺激するためには、適度に短文を織り交ぜて読み手を惹き込む「リズム」を奏でなければならないのです。
そこで長文になっているところを部分的に短文で表してみます。
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澤部はこれまでの情報を整理することにした。まず殺された被害者を憎む人物は四人。いずれもアリバイがある。被害者が死んで利益を得る人物は先ほどの四人に加えて三人。三人のうちひとりのアリバイが確認されている。残るふたりにはアリバイがない。となればこのふたりが怪しいと見られる。しかし深い刀傷によって殺害されたことを鑑みると、よほど刀の扱いに慣れた力のある男性の仕業と考えられる。残されたふたりはともに女性で剣道や剣術の心得がない。この殺害方法は実行できないだろう。では誰が犯人なのか。容疑者の中で剣術の心得がある容疑者はひとりに絞られる。彼ならば殺害はじゅうぶん実行可能だ。しかしアリバイがあるため、真犯人と断定するわけにはいかない。なにがしかのトリックを用いているのだろう。だが、それを突き崩せるだけの情報は手元にないのだ。
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長かった文をところどころ短文にするだけでスラスラと読めたはずです。単調さも幾分抑えられました。
すべてを短文にすると、思索の迷いがじゅうぶん描けません。推理は長い時間のかかるシーンですから、それに見合った長い文が必要というわけでもないのです。
単調なリズムを避け、読みやすくする
「リズム」をコントロールする
たとえば「敵が左回し蹴りしてくるのを右腕でガードしてから踏み込んで左正拳突きを見舞うが当たる直前に右腕で払い落とされた。」という文があったとします。「句読点」が最後にしか打たれていません。
実はこのような「句読点」のない文章を「テンポよく書きたいから」という理由で採用する書き手がかなりの数いらっしゃいます。おそらく話し言葉の延長線で小説を書いているからでしょう。
しかしこの理由はナンセンスです。
「句読点」は本来「読みやすくする」ために打ちます。
日本語表記の元となった中国語に「句読点」はそもそも存在しません。
日本人が漢語で書かれた書物を「読みやすくする」ために返り点や「句読点」は生まれました。実は日本発祥なのです。
とくに「読点」は西洋の言葉である英語やフランス語、スペイン語やポルトガル語などやそれらの元となったラテン語にもありません。「句点」はピリオド「.」として用いていますが、文を読みやすくするためだけに存在する「読点」を有しているのは日本語のみです。
「句読点」は「読みやすくする」ためだけでなく、「リズム」を刻むためにも用いられます。
「花が咲き、蝶が舞う。」という文は、読点を打ったことで五音・五音のリズムを刻んでいるのです。ひじょうに読みやすいと思います。これを「花が咲き蝶が舞う」と読点を消してしまったら、とても読みにくいですし「リズム」も感じません。
散文である小説では「句読点」をしっかりと活用しないと、理解が進まないのです。
句読点の重要性がよくわかる有名な文があります。
「ここではきものをぬいでください」というものです。
この文章を読んだ温泉客はふたつの行動のいずれかをとります。「履き物」を脱ぐか「着物」を脱ぐかです。
つまりまったく同じ文を読んでいるのに、句読点を打たないがために「ここで、はきものをぬいでください」と「ここでは、きものをぬいでください」のふた通りに読めてしまいます。脱衣所でもないのにその場で着物を脱いでしまう客もいるのです。
しかし温泉客を責めるわけにはいきません。なにしろそう読めるように書かれているのですから。この文を書いた人物がいちばん悪い。
小説でも「読みやすくする」ために句読点を省いてしまう方がかなりの数いらっしゃることを挙げました。それはこのような幾通りかの読み方ができる文章を生み出す元です。
「読みやすくする」のであれば、積極的に「句読点」を用いましょう。
とは言え「敵が、左回し蹴りしてくるのを、右腕でガードしてから、踏み込んで、左正拳突きを見舞うが、当たる直前に、右腕で、払い落とされた。」のように、過剰な「句読点」も読みにくさを助長してしまいます。
「リズム」重視なら「敵が左回し蹴りしてくるのを右腕でガードする。そこから踏み込んで左正拳突きを見舞うが、当たる直前に右腕で払い落とされた。」と二文に分けて「読点」を適切に打てば、「読みやすくする」効果が期待できます。
最後に
今回は「シーンによるリズム【回答】」について述べました。
今日のぶんを書くため昨日、一昨日で「テンポ」と「リズム」について語ったのです。
少しはわかりやすくできたかなと思いますが、まだわかりにくいようでしたら追加の【補講】を行ないます。
シーンによる「リズム」とは、詰まるところ「句読点」の使い方です。いつ止めて、いつ区切るか。このふたつを織り交ぜることで小説は形作られます。
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