978.筆洗篇:小説はアニメやマンガを超えられるか(1/2)【回答】

 今回は「小説とアニメとマンガ」の考察の前半です。

 小説では音や声を文字で書かなければ、読み手に伝わりません。

 それはマンガも同じなのですが、マンガには絵がありますので怒っているのかからかっているのか区別できます。

 小説は本当に文字だけです。だからニュアンスが伝わらないのです。





小説はアニメやマンガを超えられるか(1/2)【回答】


 今回もご質問にお答え致します。

 小説、アニメ、マンガにはそれぞれできることとできないことがありますよね。

 それらを明らかにして、小説はアニメやマンガに太刀打ちできる媒体なのかを検証致します。




アニメは音が聞こえ、絵が動く媒体

 アニメがマンガや小説と決定的に異なる点は「声や音が聞こえてくる」ことと「動く」ことです。

 このうち「動き」は次回にお話致します。

 剣と剣が打ち合う音、銃を早撃ちする音、隣人の怒鳴り声、風鈴の涼しげな音色など、聴覚を刺激する情報はアニメでなければ表現できません。

 キャラクターに声優さんの声が当てられるのも、アニメならではです。今は下火ですが、ラジオドラマやドラマCDなどでも、キャラクターに声優さんが声を当てています。

 声優さんの演技力ひとつで、微妙な感情を表現できるという利点はなにものにも代えがたいものです。

 BGMとして流れる楽曲が、そんな演技やキャラクターが置かれている状況をさらに引き立てています。


 マンガで声や音を表現するには、文字を書き込むしかありません。

 たとえば吹き出しを描いて、中に「あなた、あの子とどういう関係なの?」という言葉を入れる。これで声を表現します。

 音は吹き出しに入れず、コマに直接文字を書き込んで、音を表現するのです。「ドーーーーン!!!」とか「バキューン!!!」とか「バサッ!!」とか。これは擬音語です。

「イライラ」とか「ウズウズ」とか。これは擬態語です。

 脳内で再生するには、誰かの声質を思い浮かべたり、ドラマや映画で見たシーンの効果音を思い出したりして補完します。


 では小説で声や音を表現するにはどうすればよいのでしょうか。

 小説は文字だけで表現する「一次元の芸術」ですから、こちらも文字を書き込むしかありません。

 音は基本的に「地の文」で処理します。「カンカン鳴る踏切で通過電車を待っている。」のような書き方です。

 声はカギカッコで囲んで声を書き込みます。

――――――――

「あなた、あの子とどういう関係なの?」

――――――――

 と書いただけで、誰かが発言しているとわかるのです。しかしアニメは誰の発言かは声優さんの声質でわかりますし、マンガは吹き出しで誰の発言かがわかります。

 小説はそれらと異なり、誰が話した声なのか区別できません。そこで誰が口にしたのかを文章に書く必要があります。

――――――――

 宮間は宏太に向かって、

「あなた、あの子とどういう関係なの?」

 と聞いた。

――――――――

 のように書きます。

 カギカッコを改行して外に出していますが、地の文に含められます。

――――――――

 宮間は宏太に向かって「あなた、あの子とどういう関係なの?」と聞いた。

――――――――

 または、

――――――――

 宮間は宏太に向かって、あなた、あの子とどういう関係なの?、と聞いた。

――――――――

 のように書いてもよいのです。


 アニメなら声のトーンやキャラクターの絵を見れば、どんな感情が込められた発話なのかがわかるのです。

 マンガなら怒りながら話しているのか、探るように話しているのかはキャラの表情でわかります。

 しかし、小説ではキャラクターがどんな感情や意図をもって発話したのかがまったくわかりません。それを書き入れる必要があるのです。

――――――――

 宮間は宏太へ探りを入れるように、

「あなた、あの子とどういう関係なの?」

 と聞いた。

――――――――

 まったく同じ会話シーンを再現しようとするとき、アニメのように絵も音もある場合、マンガのように絵はあるけど音がない場合、小説のように絵も音もない場合では表現の仕方は変わって当然です。




紙の書籍の小説賞・新人賞対策が通じない

「紙の書籍」で開催されている「小説賞・新人賞」の募集要項に「原稿用紙三百枚以上」と規定されています。

 このとき、カギカッコを行替えした最初の例では行数を稼げるので、多くの書き手はこちらを採用していました。三百枚を埋めるのはたいへんですからね。

 しかし小説投稿サイトで開催されている「小説賞・新人賞」の募集要項には「十万字以上」と規定されるようになりました。

 これは小説投稿サイトで視認性を高めるため、多くの書き手が頻繁に改行し、空白行も二行三行と入れることが多いからです。

 このまま「原稿用紙三百枚以上」と規定すれば、「紙の書籍」の頃より圧倒的に分量が少なくなってしまいます。それでは長編小説一冊出すことさえおぼつかないのです。

 だから「十万字以上」と規定します。

 この「十万字以上」には改行や空白文字はカウントしません。カウントすれば、必要以上に改行だらけの作品であふれかえります。

 ですので、これから小説投稿サイトで開催されている「小説賞・新人賞」へ応募する際に、純粋に「文字だけの数」が「十万字以上」あることを確認してください。

 執筆に用いるテキストエディタは、文字数がカウントされるものを使いましょう。ただし改行や空白文字をカウントしない設定にできるテキストエディタを選ばなければなりません。もし改行や空白文字をカウントする設定のテキストエディタを使ってしまうと、「十万字以上」と規定されているのに、応募作は「十万字未満」になることがあります。


 私がとある小説賞に応募した際、使っていたテキストエディタで文字数をチェックながら執筆していました。そしてテキストエディタで「十万字超え」のを確認して推敲を終え投稿したところ、結果的に「十万字未満」になっていて一次選考を通過しませんでした。

 私のような失敗をしないためにも、「文字数」のカウントが適切なテキストエディタで執筆してください。


 このように小説投稿サイトで開催されている「小説賞・新人賞」へ応募する際、改行や空白文字をカウントしないので、会話文をカギカッコで囲って改行する必要がなくなりました。もちろん視認性の観点から会話文は改行して分けたほうがよいのです。

 ただし「小説賞・新人賞」を授かって「紙の書籍」化するとき、改行だらけの作品は大幅な改稿作業が必要となります。

 小説投稿サイトで読みやすいことと、「小説賞・新人賞」で評価されることとは相反するのです。



 


最後に

 今回は「小説はアニメやマンガを超えられるか(1/2)【回答】」について述べました。

 アニメだけが持つ「音声」という強みを、いかに小説へ取り込むべきか。

 そのキャラクターの声がどのようなものなのかを知っているのは、書き手であるあなたしかいません。

 誰が、どんなふうに声を出しているのか。それを書かないかぎり、読み手にはなにも伝わりません。

 カギカッコが一般的ですが、電話やテレビなどの機械を通した声は別のカッコを使って分けるとよいでしょう。

 次回はアニメとマンガが持つ「動き」についてです。



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