979.筆洗篇:小説はアニメやマンガを超えられるか(2/2)【回答】
今回は前回に引き続き「小説はアニメやマンガを超えられるか」についてです。
「動き」を書くのなら、見ただけでわかるアニメや、すぐに想像できるマンガのほうがすぐれているでしょう。
しかも小説は限られた語彙で書き分けなければなりません。
小説はアニメやマンガを超えられるか(2/2)【回答】
小説はアニメやマンガと違って、「動き」がパッと見ではわかりません。
どうすれば読み手に「動き」を伝えられるのでしょうか。
小説は最も簡単に動きが書ける
アニメは、同じ映像作品であるマンガとは異なり、キャラクターを立体的に捉えられる利点があります。マンガはキャラクターこそ描かれていますが、当然動きませんからキャラクターの立体感が出ません。その点アニメは動きますから、身のこなしや剣さばきなどがひと目でわかります。
マンガでキャラクターを立体的に捉えられるよう配慮するならば、とにかく同じキャラクターを別の角度から描きまくるしかありません。
相手に飛びつく直前に重心を下げる絵がひとコマ、そこから一気に駆け出す絵がひとコマ、相手の足にタックルする絵がひとコマという具合に、とにかく絵を細かく描くしかないのです。
では小説でキャラクターを立体的に捉えられるよう配慮するならば、どうすればよいのか。実は半分ほど今書いています。
「相手がラインを突破してこちらへ向かってきた。重心を下げて相手へ目がけて低い姿勢のまま駆け寄る。相手の両足にタックルして薙ぎ倒した。」のように動作の連続を細かく描けばよいのです。
アニメは絵を一枚一枚描いてそれを次々と表示することで動作を表現します。
マンガは絵を一コマ一コマ描いて、止め絵の推移で動作を表現するのです。
しかし小説は、ただ文字を連ねればよい。とても簡単に「動き」を書けます。
言葉ひとつでどんな「動き」も表せるのが小説の利点です。
だから、キャラクターや物体の「動き」すら満足に書けないのであれば、「小説を書いた」とは言えません。
動詞がすべて
文章でキャラクターの「動き」を表現する機能があるのは、動詞だけです。
だから動詞をどれだけ憶えているかで、キャラクターが取りうる「動き」が制限されてしまいます。
たとえば「言う」という動詞について。
「彼から言われたことを彼女に言う。」という文があります。一読して理解できますか。
おそらくよくわからないはずです。
「言う」という動詞を二回使っています。これがわかりにくさを助長しているのです。
これを「彼から言われたことを彼女に伝える。」「彼から言われたことを彼女に告げる。」「彼から言われたことを彼女に語る。」ならどうでしょうか。
三つとも「言う」の語彙です。しかし動作のニュアンスがそれぞれ異なっていますよね。
もちろん似たような動詞にニュアンスを変える修飾語を付けることで、本来の「動き」に近づけられるのです。
「彼から言われたことを彼女に伝える。」を「彼から言われたことを言われたまま彼女に言う。」と修飾語を付けることで「言う」を「伝える」に寄せられます。
動詞には「言う」「伝える」「告げる」「語る」「しゃべる」「バラす」「チクる」「申す」などの和語があります。しかしこれだと微妙なニュアンスを伝えるのが難しくなるのです。
そこで複合動詞や漢語動詞を用いることを考えましょう。
複合動詞とは「言い淀む」「伝え聞く」のように和語動詞をふたつくっつけてニュアンスを変える働きをします。
漢語動詞とは「言及する」「伝言する」「告白する」のように漢熟語にサ行変格活用動詞「する」を付けたものです。こちらは明治以降から数多くの造語が生まれましたので、とにかく豊富にあります。
一般的に語彙力とは和語動詞と複合動詞、漢語動詞の種類をどれだけ知っているかが問われるのです。
もちろん日本語力としては和語の複合動詞を重視したい。漢熟語はあくまでも造語ですから、今ひとつ意味を捉えづらいのです。
和語動詞は、日本古来の平易な動詞なので、読み手はすんなりと読めますし意味もわかります。
これからは和語動詞を中心に、複合動詞、漢語動詞を憶えてください。
小説をたくさん読むこともたいせつですが、国語辞典を「あ」から「ん」まですべて読むのもオススメです。時間はかかりますが、「こんな言葉があったんだ」と気づけます。それにより、あなたの語彙は格段に増えるのです。
国語辞典はひとつの超長編小説だと思って読みましょう。意外と楽しめますよ。
類語辞典で最初に読むべきは動詞
小説でキャラクターを動かすには、「動き」の動詞が不可欠です。
「動き」のない小説というものはありません。
だから、語彙の中でもとくに「動き」に関するものを真っ先に憶えるようにしてください。
例えば「言う」「聞く」「読む」「書く」「憶える」「覚える」「歩く」「走る」「跳ぶ」「飛ぶ」「泳ぐ」「潜る」「漕ぐ」「立つ」「座る」「屈む」「伏せる」「出る」「入る」「受ける」「与える」などは最初に憶えておくべきです。
いきなり形容詞や形容動詞を憶えても、小説ではほとんど使いませんので意味がありません。以前お話しましたが、形容詞と形容動詞は語り手の「感想」を述べているにすぎないからです。小説は「感想を聞く」ために読むのではなく、「感想を覚える」ために読みます。「感想を覚える」ように「比喩」「表現」を巧みに用いるのです。直喩「〜のようだ」とか漸層法「でも。/でも。でも。」とかはそのためのツールにすぎません。
そういったツールを使いこなすためにも、「動き」つまり「動詞」の語彙を増やす必要があります。
「動き」の程度はできるかぎり「比喩」で書いてください。副詞や形容詞、形容動詞を用いてしまうと曖昧さが生じてしまいます。動詞や名詞を巧みに用いて「比喩」で表せるか。それが「筆力」なのです。
最後に
今回は「小説はアニメやマンガを超えられるか(2/2)【回答】」について述べました。
持ち越した「動き」は、映像で見せられるアニメやマンガに劣ると考えがちです。
しかし、実は小説ほど自在な「動き」が表現できる媒体はありません。
たとえば「空を飛ぶウルトラマン」をアニメで表現するには、ウルトラマンの絵を何十枚何百枚と描かなければならないのです。マンガで表現するには、飛ぶ動作の絵と、飛んでいる動作の絵を描かなければなりません。しかし小説なら「ウルトラマンが空を飛んでいる。」の一文だけで済みます。
アニメやマンガの労力に比べれば、あまりにも省力化されているのがわかるでしょう。
だからと言って小説が小手先で書けるとは思わないでください。適切な語彙が選べず単調な動詞を連発してしまう方が多いのです。それは小学生の作文レベルと呼ばれてしまいます。
シンプルだからこそ奥が深い。
それが小説なのです。
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