974.筆洗篇:助詞「の」を極力連続させない解決法【No.87補講】

 今回は助詞「の」の連続についてです。

 ご質問がありましたので補講を行ないます。

 助詞「の」の連続はできるかぎり最大二連続に抑えましょう。三連続以上になるとわかりにくさが増します。

 ではどのようにして助詞「の」を抑えればよいのでしょうか。





助詞「の」を極力連続させない解決法【No.87補講】


 小説を書いていて、助詞「の」を多用してしまう方、結構いますよね。

 今回は助詞「の」が連続してしまうので、どう解消すればよいのかというご質問に対する答えをお示しします。




家の裏の畑の飼い犬のポチの鳴き声の真似の一級品のおじいさん

 標題の一文では助詞「の」が八個連続しています。

 さすがにここまで助詞「の」を連続させる方はそういません。しかし似たような文は誰でも書く可能性があります。

 では文意を正しく理解できるでしょうか。

 言いたいのは「おじいさん」です。「おじいさん」には特技があります。

 真似が一級品らしい。なんの真似か。

 どうやら飼い犬の鳴き声らしい。飼い犬の名前はポチ。ポチがいるのは家の裏にある畑です。

 ここまで説明されて、ようやく「なるほど、この一文はそう読むのか」と理解されたことと思います。

 そうなのです。

 本来ならここまできちんと説明しなければならないことを、すべて省略した結果生まれたのが助詞「の」を多用した一文なのです。

 助詞「の」は連続して二回までに制限するよう心がけてください。

 三回以上連続すると、途端に文意がわからなくなります。

 標題の一文の意味がさっぱりわからなかった方も多いはずです。

 では、どうすれば助詞「の」を連続二回までに抑えるのか。

 その方法をふたつお教えします。




違う助詞に置き換える

 まず簡単なほうからです。

 助詞「の」には「所属・所有・内包・帰属・名詞化」といった使い方があります。

 助詞が表す関係性が多いため、助詞「の」は多用されるのです。

 本来なら別の助詞を用いたほうがよいのに、すべて助詞「の」で済ませようと横着する。だから、助詞「の」の使用頻度が増えるのです。

 それなら、本来用いるべき別の助詞に置き換えるだけで、助詞「の」の使用頻度を落とせます。

 では「家の裏の畑の飼い犬のポチの鳴き声の真似の一級品のおじいさん」の一文で、助詞「の」を本来用いるべき別の助詞に置き換えてみましょう。


「家の裏にある畑で遊んでいる飼い犬ポチが鳴く声を真似ると一級品なおじいさん」


 どうでしょうか。残った助詞「の」は「家の裏」の一か所だけです。他はすべて別の助詞や活用に置き換えました。

 単に別の助詞に置き換えるだけだと、別の助詞が重複してしまう恐れがあります。

「家の裏にある畑にいる飼い犬ポチ〜」とすれば助詞「に」が重複してしまうのです。

 重複してよい助詞は「の」の他に「と」「や」「か」「ので」「とか」「しかり」など。いずれも語句を並列させるときに用います。

 だから並列の機能がない助詞「に」を重複させると、文意がわかりにくくなるのです。助詞「の」の連続による文意の不明瞭さを解消して読みやすくさせるはずが、かえって読みにくくなります。

 正直に言って、今回の例文を考えた際、ここまで綺麗に別の助詞へ置き換えられるとは思いませんでした。

「飼い犬のポチ」としてもよかったのですが、今回は助詞「の」を極力置き換えることが目的だったため、あえて「飼い犬ポチ」に致しました。

 よく見ると、単に助詞を置き換えただけではなく、別の動詞を加えている、また動詞の名詞化を元通り動詞活用させている部分があることもわかります。


 このように、助詞「の」には、別の助詞や動詞を代理する機能があるのです。これらすべてが助詞「の」で表せてしまいます。

 もちろんすべての助詞「の」が本来の助詞に戻せるわけではありません。助詞「の」が本来持つ機能を用いる場合、助詞「の」以外に選択肢がないからです。

 このように、助詞「の」を処理する最もスマートな方法が「違う助詞に置き換える」ことです。




複数の文に仕立て直す

 助詞「の」の連続を減らす方法として、「複数の文に仕立て直す」ことがあります。

 これが第二の方法です。

 助詞「の」の連続は、本来別々の文として扱えるものをすべて一文で表してしまおうとする横着からも生まれます。

 早速、例文を「複数の文に仕立て直し」てみましょう。


「家の裏に畑がある。畑には飼い犬がいる。名前はポチだ。ポチが鳴く声は独特だ。その真似が一級品なおじいさん」


 これで文意がすっきりわかったのではないでしょうか。

 今回はあえて切り離しましたが、二、三文を一文にまとめてもかまいません。

 結果として助詞「の」が三連続以上にならなければよいのです。


「家の裏にある畑には飼い犬ポチがいる。その鳴き声を真似るのが一級品なおじいさん」


 助詞「に」と助詞「には」、助詞「の」と助詞「のが」はそれぞれ別の助詞になります。機能が明確に異なるからです。

 これはとくに助詞「は」「が」「の」で多く見られる区別となります。

 助詞「は」と助詞「とは」「には」「では」「のは」「からは」はすべて別の助詞と見なされるのです。ふたつの助詞を組み合わせて生まれた助詞は、機能が細分化された「まったく別の助詞」として扱われます。

 これが日本語の文法を複雑にしている一因です。



 

主人公の前のアイテムの持ち主の知り合いが現れる

 この標題はご質問いただいた方が例示してくださった一文です。助詞「の」が四つあります。

 私がこの文の作者ではないので、真意がとてもつかみにくい。

「主人公が前に使ったアイテム。その持ち主の知り合いが現れる」

「主人公が前に使ったアイテム。その持ち主である、(主人公の)知り合いが現れる」

「主人公の前にアイテムがある。その持ち主の知り合いが現れる」

「主人公の前にアイテムがある。その持ち主である、(主人公の)知り合いが現れる」

「主人公の前にアイテムの持ち主がいる。その知り合いが現れる」

 この五通りが考えられます。

 とりあえず、この五つの文例がそのまま助詞「の」を減らした回答例です。どの文例が正しいかは、この標題を作った方の一存で決まります。

 そうなのです。

 助詞「の」を連続させると、それだけ文意がわかりにくくなります。

 読み手に複数の文意を想像させることになるからです。


 ここまで読んでひらめいた方はいませんか。

 たった一つの文に意味が複数ある。

 ということは、あえて文意を曖昧にしてしまえるのではないか。

 これは使える!

 とくに推理ミステリー小説で、読み手をミスリードしたいとき、有効に活用できそうです。

 助詞「の」を三連続以上させるのは、文意がわかりにくくなるのでやめましょう。

 ただし、読み手をミスリードさせたいときは、あえて助詞「の」を三連続以上させて文意を曖昧にしてしまうのです。

 これで「叙述トリック」は簡単に作り出せます。





最後に

 今回は「助詞「の」を極力連続させない解決法」について述べました。

 本来の助詞や活用に戻す、文を分ける、のふた通りの解決法があります。

 助詞「の」は二連続までが限界だと思ってください。三連続以上させると、途端に文意がわかりにくくなるのです。

 推理ミステリー小説で「叙述トリック」を仕掛けて読み手をミスリードしたいとき。その性質を利用して助詞「の」を三連続以上させるのも「あり」です。

 とくにそういったミスリードを意図しない場合は、潔く二連続までに抑える努力をしましょう。



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