973.筆洗篇:重ね言葉を極力回避する方法【No.913補講】

 今回はご質問をいただきましたので、「補講」を致します。

「重ね言葉」「二重表現」の回避方法についてです。

 最終的には日本語力に任されることになりますが、多くの場合はひと手間かけることで気づけます。





重ね言葉を極力回避する方法【No.913補講】


 今回は皆様からご質問をいただきましたので、補講を致します。

 まずは「重ね言葉(重言)」についてです。

 どうしてもやってしまいがちな「重ね言葉(重言)」ですが、できるかぎり回避するための方策について述べてみます。




一文の中で同じ漢字を使わない

 まず皆様にやっていただきたいのが「一文の中で同じ漢字を使わない」ようにすることです。

 典型的な「馬から落馬する」は「馬」という漢字が重複していますので「重ね言葉」になります。

「骨が骨折する」も「骨」という漢字が重複していますので「重ね言葉」です。

「危うく危機を脱した」も「危」の字が重複していますので「重ね言葉」。


「小さな小人」も「小」という漢字が重複していますので「重ね言葉」になる――のですが、意味合いによっては「重ね言葉」ではない場合もあります。そういうときは、ちょっとした工夫で同じ漢字を用いても回避できるのです。

 ただ「小さな人」つまり「人の中でも小さな部類に入る。」と言いたい場合は、明確に「重ね言葉」です。単に「小さな人」または「小人」と書きましょう。

 ですが「小人の中でもとりわけ小さな部類に入る。」という意味で書きたい場合もありますよね。それならそう書けば「小人」というカテゴリーの中でもとくに「小さい」ことが伝わります。

「小人の中でもとりわけ小さな部類に入る。」は「一文の中で同じ漢字を使わない」というルールに反します。それでも「小さな人」とは意味合いが異なっているため、それほど「重ね言葉」には見えません。この場合は「強調」の意味で用いているからです。

 これをルール通り「一文の中で同じ漢字を使わない」ようにするとどうなるでしょうか。

「小人がいる。その種族の中でもとりわけ体が小さい。」

 と二文に分けてしまうのです。

 このように「一文の中で同じ漢字を使わない」というルールを守るなら、文を分けましょう。




PCで重ね言葉を抑止する

 次に、気づかず「重ね言葉」を用いてしまう場合です。

「重ね言葉」が起こりやすいのは、主に形容詞や形容動詞や副詞などの修飾語と動詞の組み合わせになります。

 とくに副詞は通常ひらがなで書く慣例があるので見つけづらいのです。

 そこでPCを使って副詞を漢字へ変換し、どの漢字が使われているのかを確認するクセをつけましょう。


「あらかじめ予定していた案件ですが、〜」の「あらかじめ」を変換すると「予め」と出ます。つまり「予め予定していた案件ですが、〜」となり「予」の字が二回使われている「重ね言葉」だとわかるのです。

 そこで「かねて予定していた案件ですが、〜」と言い換えたとします。では「かねて」を変換してみてください。「予て」と出ますよね。つまり「かねて」に言い換えても「重ね言葉」になるのです。

 ここは単に「予定していた案件ですが、〜」で済ませましょう。


「足しげく頻繁に通院する」はピンとくる方が多いはず。「足しげく」は「足繁く」と書き、「足繁く頻繁に通院する」は「繁」の字が二回使われている「重ね言葉」だとわかります。


「投げ飛ばされて体を床に強くしたたかに打ちつけた」もわかる方が多いですね。「したたかに」は「強かに」と書きます。「投げ飛ばされて体を床に強く強かに打ちつけた」は「強」の字が二回出てくるので「重ね言葉」です。


「もっぱら肉体労働を専門にしている男」は少し分かりづらいかもしれません。「もっぱら」を変換すると「専ら」と出ます。つまり「専ら肉体労働を専門にしている男」ということになり、「専」の字が二回出てくる「重ね言葉」です。


「あまねく普及したスマートフォン」は重ね言葉ではないようです。しかし「あまねく」を変換すると「普く」と出ます。つまり「普く普及したスマートフォン」となるので「重ね言葉」だとわかるのです。

 こういったあなたの日本語力以上のところでつまずいてしまうのが「重ね言葉」の怖いところ。


「あたら惜しい人を亡くした」も難しい。副詞「あたら」は「可惜」と書きます。「可惜惜しい人を亡くした」は「惜」の字が二回出てきますので「重ね言葉」だとわかるのです。本来なら「あたら有能な人を亡くした」のように使います。




漢字は違うけど重ね言葉になるもの

「大きな巨人」はどう見ても「重ね言葉」っぽいですよね。「巨大」という漢語もあります。「巨」にも「大きな」という意味がありますので、「巨」と「大」は同じ意味です。「小さな小人」ほどではありませんが、気をつけたい表現になります。これは「巨人の中でも大きい」や「巨人がいる。その種族の中でもとりわけ体が大きい。」と二文に分けるか。「小さな小人」と同じ考え方をしてください。


 見落としがちでも意外とわかりやすいのが「晴天の空」「青天の空」です。

「晴天」は「晴れわたった空」のことで「晴れわたった空の空」だから「重ね言葉」になります。

「青天」は「青い空」のことで「青い空の空」だから「重ね言葉」です。

「満天の星空」と書こうとして「ちょっと待った。『天』と『空』は重ね言葉だ」と気づけるようになりましょう。


 いちばんわかりにくいのは「広く普及したスマートフォン」だと思います。これは重ね言葉ではない。……ように見えるのですが「普及」には「隅々まで及んだ」という意味がありますので、「広い」と意味がかぶります。つまり「広い(ひろく)」と「普く(あまねく)」が意味のうえでの「重ね言葉」になるのです。

 この「広く普及する」が「重ね言葉」であることまで見抜けるかが、書き手の日本語力が問われるポイントになります。


 漢字が異なる「重ね言葉」は、漢字の字義を知らなければわかりません。

 ちょっとでも「これって意味が近くないかな」と感じたら、漢和辞典で字義を調べてください。都度チェックしていけば、漢字が異なる「重ね言葉」にも気づきやすくなりますよ。





最後に

 今回は「重ね言葉を極力回避する方法【No.913補講】」と題し、「重ね言葉」についてより深く説明致しました。

 ひらがな書きの多い副詞はとくに「重ね言葉」を量産する原因となります。

 PCで執筆している方は、副詞を入力したら一度変換してみて、漢字の重複がないか確認するのがオススメです。

 一般的に「同じ漢字」を使うのが「重ね言葉」ですが、「違う漢字」でも「重ね言葉」は発生します。これを回避するには、字義を理解する必要があります。

 ここであなたの日本語力が試されるのです。

「小説賞・新人賞」の一次選考では「同じ漢字」の「重ね言葉」は減点対象ですが、「違う漢字」の「重ね言葉」はあまり見られていません。多くの選考さんには判断するだけの日本語力がないからです。しかしより細かくチェックする校正さんや腕のよい編集さんは見逃しません。だから二次選考や最終選考で評価を落とすことはじゅうぶんにありえます。

 少しでも「危ないかな」と感じたら、漢和辞典で字義をチェックするクセをつけましょう。今はインターネット検索でさまざまな辞書が使えますから、それらを利用してもよいですね。



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