967.筆洗篇:書きたいものが思い浮かばない

 今回は「書きたいものが思い浮かばない」方への処方箋です。

 こんなふうに考えてみれば、打開できるかもしれません。





書きたいものが思い浮かばない


 小説を書こうとしているのに、書きたいものが思い浮かばない方が結構いるようです。

 なぜだと思いますか。

 読み手に「伝えたいこと」がないからです。




伝えたいことはひとつあればよい

 小説を通して読み手に「伝えたいこと」があなたにはあるでしょうか。

 改めてそう言われると、とても困るはずです。

 今まで小説と向かい合ってきて、「伝えたいこと」なんて考えたこともない。そんな方も多いでしょう。

 では逆を聞きます。

 あなたはどんなことを「伝えてもらいたい」ですか。

 私は『アーサー王伝説』のファンなので、「忠誠と策謀の物語」が読みたいかな。

 それなら私が「忠誠と策謀の物語」を皆様に伝えればよいのです。

 あなたが「ゲームで世界一のプレイヤーになりたい」のであれば、「ゲームで世界一のプレイヤーになる物語」を多くの方へ伝えましょう。

 あなたが「読みたい」「知りたい」ことは、他の誰かが「読みたい」「知りたい」ことでもあるのです。

 それがあまりにもニッチなものであれば、閲覧数(PV)は減るでしょうが評価してくれる確率は高まります。隠れた需要はありながらも、他に書いている方が少ないから、そういう作品を高く評価してくれるのです。

『小説家になろう』では「異世界転生」の強さが一段落つきました。そこで新しい需要を掘り起こそうと、さまざまな作品が世に送り出されたのです。

 一時期天下を取った「ざまぁ」がその最たるもので、多くの「裏切り」からの「ざまぁ」展開が見られました。

 これは多くの読み手が「ざまぁ」に爽快感を覚えたからではないでしょうか。

 多くの評価が集まり、ランキングを席巻する一大勢力となったのです。

 しかし現在では「ざまぁ」は勢力を大きく落としています。需要よりも供給が過多になって陳腐化したからです。

 つまりある作品が爆発的にヒットすると、そのフォロワーが一挙に現れて供給が過剰になります。すると欲していた作品が飽和してしまうので、すぐに読み飽きてしまうのです。

 だから、大ヒット作のフォロワーという立ち回りでは、てっぺんは獲れません。

 トップランカーになるためには、自らが大ヒット作を生み出す気概が求められるのです。




誰かに喜ばれたいと思えるか

 小説は読み手を意識しなければ、独りよがりな文章にしかなりません。

「伝えたいこと」が独りよがりだと、共感を呼びにくいのです。

 ですがどんなにニッチな作品にも、数人は共感してくれる方がいます。

 それをあてにしてニッチな作品を書き続けてもよいのです。しかしそれが本当に読み手を喜ばせているのかについては深く考える必要があります。

「誰かに喜ばれたい」と思って書く。

 文字にするのは簡単ですが、実践するのはかなり難しい。

 書き手は自分が書きたいものを書いて、それで正当な評価を得たいものです。

 読み手は自分が読みたいものを読んで、正当な評価を付けたいものです。

 このとき、書き手が書きたいものが、読み手の読みたいものと一致しているかどうか。それが重要になります。

 もし一致していれば、放っておいても人気に火がつくのです。

 しかし一致していなければ、いくら苦労して連載しても読み手はいっこうにつきません。

「誰かに喜ばれたい」というボランティアの精神が書き手には必要です。

 将来プロになりたければ、「読み手に書籍を買ってもらう」ことになります。そのとき「読み手に喜ばれる」ような作品であれば、紙の書籍が飛ぶように売れるでしょう。

 読み手を意識していないと、置いてけぼりを食らった読み手はすぐに離れていってしまいます。

 その物語を誰に届けたいのか。誰になにを「伝えたい」のか。それをまず明確にしましょう。

「伝えたいもの」はひとつでよいのです。




失敗は挑戦したことの証

「誰かに喜ばれたい」と思って書いた小説が、ものの見事に玉砕したら、あなたの筆歴に汚点を残してしまう。だから小説を書くとき失敗しない作品を書かなければならない。失敗した作品はすぐにでも削除してしまいたい。そう思ってしまう方が多いと思います。

 しかし「文豪」にも失敗作つまり「駄作」は存在するのです。それらをすべて発表して酷評されたこともあります。ですがそんな「駄作」も「文豪」が書いた作品のひとつなのです。

「駄作」を量産する一方で、たまに「傑作」を書くから「文豪」たりえました。

 あなたは「文豪」ではありません。

 プロでもない今から、売れ行きや評価の高さを気にしないようにしてください。

 とにかく書いてみる。書いたら小説投稿サイトに掲載してみる。そして反応を見てみる。結果として評価がつかなければ「駄作」だった。ただそれだけです。

 最初から「傑作」が書ける書き手などいません。

「駄作」の連発から起死回生の「傑作」を書くことのほうが多いのです。

 ようやく生まれた「傑作」から、過去の「駄作」を削除してしまいたい衝動に駆られると思います。

 しかし「駄作」にもいくらかの評価があったはずです。その評価をしてくれた方の気持ちを踏みにじってはなりません。削除するということは、評価してくれた方を蔑ろにする行為なのです。

「駄作」は挑戦を続けたことの証だと思ってください。

 私はこれだけの「駄作」を書いたからこそ、今回の「傑作」が書けたのだと。

 そう胸を張るくらいの度量が求められます。

 また「駄作」だと思っていた作品が、「傑作」を投稿した後に読み直されて評価が高まることも、ない話ではありません。

 失敗したと感じても、挑戦した証を残しておくことが、将来のためになるのです。





最後に

 今回は「書きたいものが思い浮かばない」ことについて述べました。

「伝えたいこと」がひとつあれば小説は書けます。

 それが思い浮かばなければ、「誰かに喜ばれたい」と思って物語を考えるのです。

 たとえ評価が低くて「失敗した」と感じても削除してはなりません。

 いずれ書く「傑作」を機に見直される可能性があるからです。

「文豪」は「傑作」を書いたからこそ「文豪」なのですが、「駄作」のほうが多い方もたくさんいます。

 だから失敗を恐れず、とにかく書いて投稿してみましょう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る