959.筆洗篇:伏線で密度を高める

 今回は「物語の密度を高める」ために「伏線」を勉強します。

「鎖状の伏線」と「集中の伏線」の二種類を憶えましょう。





伏線で密度を高める


 小説を「しっくりとくる納まりのよい結末」にするためには、「ここでこう終わると綺麗に決まるな」と考えましょう。

 綺麗に決まる結末とはなにか。

 それまで物語で示されていた伏線をすべて回収し、隠し事がいっさいない状態で幕を閉じることを指します。




伏線をすべて回収する

 物語には伏線が不可欠です。

 伏線がなければ「物語の先を知りたい」という欲求が高まりません。つまり「惹きが弱く」なるのです。

「惹きの弱い」小説を毎回読んでくれるような奇特な読み手はいません。

「惹きが強い」小説は、読み手が自然と先へ先へと前のめりになって読んでくれます。だから評価も高まりますし、読み手も雪だるま式に増えていくのです。

 加速度をつけて読み手が増えていくことで、連載は自然とランキングに入ります。

「惹き」を左右するのが伏線です。

 伏線を入れることで「惹き」が強まり、評価も上がる。まさに好循環です。




鎖状の伏線

 小説では毎回伏線を入れて、次回を心待ちにさせてください。

 前提が示されただけで今回を終えるのです。次回ではそれを踏まえて物語が展開できます。

 これが「鎖状の伏線」です。

 鎖のように各話がつながって、一話読めば次話も読みたくなる。次話を読めばその先を読みたくなる。

 このように次々と「先が読みたい」と思わせられれば、労せずして評価を高められます。

 また逆に、途中から読み始めて「どんな経緯でこうなったのかな」と思わせられれば、前話を読みたくなる。前話を読めばその前が読みたくなる。

 このように次々と「前が知りたい」と思わせられれば、途中から読み始めた方も改めて第一話から読み直してくれる確率が高まります。

 各話が鎖状につながっているからこそ、初回から最新話までを通して読みたくなるのです。

 鎖状につながっている小説は、必ずランキングの上位に載ります。

 伏線を鎖状につなげるには、次話の展開を一部前倒ししてください。

 ちらっと見せることで興味を高めるのです。

 あなたもちらっと見せられると、知りたくなりますよね。

 ただし、次話ではその「ちらっと」を書かないでください。

 書いてしまうとその投稿だけで満足してしまい、前話が気になる鎖が完成しないからです。

「1話本編」→「2話ちらっと」⇒ 「2話その後から」→「3話ちらっと」⇒ 「3話その後から」……という具合に書いていけば、「ちらっと」効果により次話が気になりますし、その投稿回の前フリ「ちらっと」が書いていないので前話が読みたくなります。




集中の伏線

「鎖状の伏線」のよいところは、次話と前話が読みたくなる点です。

 しかしそれだけでは物語全体の魅力が薄らいでしまいます。

 そこで「集中の伏線」を用いてください。

「集中の伏線」とは、要所要所で結末へと向かう伏線を仕込んでおき、集中点で一挙にネタバラシを行なうことです。

 推理小説の定番ですが、異世界ファンタジーでも使えます。

 登場したときはさして重要人物には見えなかったものの、要所要所で登場して物語に関与してくるのです。そして気づいてみれば欠かすことのできない重要なものになっていた。というのが鉄板の展開です。

 刑事が関係者から次々と聞き込みし、「鎖状の伏線」で前後をつなげていく。そしてある関係者のアリバイに不備が見つかり、その裏取りをすることになります。しかし決定的な事実はつかめません。ここまでである関係者の情報が三回登場し、それがひとつの箇所に向けて集中してくるのです。

 これが「集中の伏線」になります。

 現在ではマンガの青山剛昌氏『名探偵コナン』がわかりやすいのではないでしょうか。

 工藤新一を幼児化した「黒の組織」に関する情報が、要所要所で登場してある集中点でネタバラシが行なわれます。たとえば「黒の組織」で「バーボン」のコードネームを持つ人物が動き出した、という情報を新一が入手しました。「バーボン」は組織一の推理力を持っています。江戸川コナンとなった工藤新一の前に「バーボン」と思しき人物が三名登場。それぞれが高い推理力を持っており、この中の誰が「バーボン」なのかを考えるのです。

 そして集中点でネタバラシを行ない、ある人物こそが「バーボン」であると突き止めます。

 このように「集中の伏線」はちらっと見せる「鎖状の伏線」のようでありながら、ネタバラシはずいぶん先の話になるのです。

 しかしただネタバラシ(伏線の回収)を遅らせればよいわけではありません。

 ネタバラシされるまで存分に伏線を張り巡らせて、ネタバラシの高揚感を高める必要があります。

 いつネタバラシをしてくれるのか。読み手は期待しながら読んでくれます。

 ですが、あまりにも引っ張りすぎるのはよくありません。

 たとえば一話と二話と三話で「集中の伏線」を張ったら、四話で「ネタバラシ」というように、伏線との距離が近いと読み手も満足しやすくなります。

 意外性を出したい場合はあえて、四話と八話と十二話で「集中の伏線」を張って、二十五話で「ネタバラシ」のように間隔を空けるのも効果的です。大きな謎や伏線を解くためには、ある程度焦らしてもよいでしょう。




伏線をすべて回収する

 ここで示した「鎖状の伏線」と「集中の伏線」が物語を先へ先へとつなげる推進力になります。

 伏線で注意したいのが「物語で張り巡らせた伏線はすべて回収する」ことです。

 長編小説であっても、連作の予定があるのなら、そしてそれがすぐに連載開始するようなら、あえて伏線を残しておけば読み手がごっそり新作へ住民移動してきます。

 しかし、連作の予定がないのに伏線を残すのは「反則技」です。

 伏線を残すと、読み手に煮えきらなさを残してしまいます。

 結果としてストーリーの満足度が目減りしてしまうのです。

 新作でフォローできるのであればまだよいのですが、多くの場合はこの連載で物語は決着を見ます。

 最終決戦だと思うから「佳境クライマックス」がおおいに盛り上がりますし、「結末エンディング」にも感動できるのです。

 それなのに、回収し忘れた伏線が残ってしまうと「佳境クライマックス」が本当に最終決戦なのか読み手は疑いますし、感動も目減りしてしまいます。

 田中芳樹氏『銀河英雄伝説』は名作でありながらも、続編の要望がいまだにあるのも、「佳境クライマックス」に向けて回収していない伏線を数多く残してしまったからです。だから「ここはどうなるんですか」とか「このキャラはその後どうなるんですか」とか「銀河帝国のその後はどうなるんですか」とか。要望が集まるのです。

 もちろん『銀河英雄伝説』は名著であり、それを疑う方はいないでしょう。

 しかし続編への期待を高めるだけ高めて終わってしまったがために、生かされない伏線が山積しました。

 この点がひじょうに惜しい作品なのです。それを『アルスラーン戦記』では見事に解決しています。すべての伏線を回収して、これ以上ない状態にしてから幕を閉じているのです。

『銀河英雄伝説』で懲りたのかもしれませんね。





最後に

 今回は「伏線で密度を高める」ことについて述べました。

 伏線には「鎖状の伏線」と「集中の伏線」があります。

 これを巧みに使い分けることで、物語は魅力が高まって全体の閲覧数(PV)が上がり、ブックマークや評価も高まるのです。

 およそ伏線のない小説はありません。

 童話なら『桃太郎』のような「なぜ桃から生まれたのか」「なぜ元服したらいきなり鬼退治に行くと言い出したのか」「なぜ犬・猿・雉は桃太郎の仲間になったのか」「鬼がどんな悪さをしていたから退治されたのか」「桃太郎は鬼ヶ島から金銀財宝を持ち帰ったが、強盗のような振る舞いではないのか」とまったく伏線のない物語もあります。

 ですが皆様が書くのは小説です。小説に伏線なしは許されません。唐突に変化してはならないのです。

 伏線を回収することで、物語の味わいを楽しめるようにしましょう。



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