957.筆洗篇:勝負をかけてはならない局面もある
今回は「勝負をかけてはならない局面」についてです。
なにを血迷ったのか、突然あらぬ方向へ走り出してしまう作品を目にします。
勝負をかけるべき局面を見極めて、正しいタイミングで挑みましょう。
勝負をかけてはならない局面もある
小説投稿サイトで連載を開始すると、定期的に次話を投稿しなければなりません。
不定期になると読み手は「いつ次話が投稿されるのか」が気になるのですが、いつまで経っても次話投稿がなければすぐに見限ります。
だから、できるだけ定期的に次話を投稿する必要があるのです。
連載初期は箱書きどおりに
連載を始めたばかりの頃は、想定していた「箱書き」どおりに書いていきましょう。
「企画書」「あらすじ」「箱書き」「プロット」で言うなら、「箱書き」が出揃った段階で連載を始める方が多いと思います。「プロット」は長編小説を書くときには必須です。しかし連載小説なら「箱書き」を見ながら「プロット」をそのまま投稿できるレベルまで手を入れて書いていくほうが効率的でしょう。
最低限「箱書き」が出来ていなければ、どのような場面が必要なのかを確定できません。
だからどのような場面を書いてよいのかわからなくなるのです。
「箱書き」どおりに書いていこうと決めてあれば、「どんな場面を書けばいいのか」と毎日迷わず執筆できます。
それが毎日投稿につながり、定期的に次話が読めるため読み手の人気を集めるのです。
とくに連載小説を初めて書く方や、まだ連載小説を書き終えたことがない方は、必ず「箱書き」を作るようにしてください。
「箱書き」が
マラソンを一キロ三分ペースと決めて走っているランナーが多いのも、一キロずつ通過点を経ることで体力配分をしながら最速でゴールできるからです。
小説を書くときに「箱書き」を決めるのも、マラソンのペース配分と同様。そのとおりに書いていけば、最速で終着点まで到達できます。
人によっては「あらすじ」の中でも連載の頭部分だけを決めて、あとは反響を見て展開を変えたり気の向くままに書いたりします。ですが、このパターンだとたいてい「エタる」はずです。
なにをどう書いてよいのか。どんな場面が必要なのかがまったくわからなくなるからです。
物語の終着点がどのようなものかわからないため、どう進んでよいものか見当がつかなくなります。
どんなに筆力のある書き手であっても、終着点がわからないのでは、五キロ先なのか十キロ先なのか二十キロ先なのかフルマラソンなのか百キロ先なのか、どれだけ書けば物語が終わるのかがつかめないのです。
これでは、いくらスタートダッシュに成功しても、ペースがだんだん落ちてきて、いつの間にか「エタり」ます。これではまるでフルマラソンのレースなのに競技場の中を全力疾走して一番に外へ出てテレビに映りたいという「素人丸出し」のランナーそのものです。
小説投稿サイトの連載では確かにスタートダッシュもたいせつです。しかし、考えなしに飛ばすのはよくありません。
きちんと「箱書き」まで作り込んであれば、第一話から読み手を惹きつけながらも、次話以降まで読み手の興味を保ち続けられます。
「箱書き」は「あらすじ」を再現するために必要な場面を揃えるために書くのです。
だから「箱書き」がなければ、次になにを書けばよいのかわかりようもありません。
これで「エタら」ないほうがどうかしています。よほどの文才があるか、幸運が続いているか。とにかく尋常ではない。こんな神がかりはそう長く続かず、いつか必ず止まります。つまり「エタる(エターナル:永遠に終わらない)」のです。
エタった作品が増えると
このような「エタっ」た作品ばかりがライブラリーに並んでいる書き手の新作は期待されなくなるのです。
どんなに美しい文章が書けても、楽しい話が書けても、読み手は「どうせこの作品もエタるんでしょ」と思って追わなくなります。どんなに面白くても「完結したら一気に読めばいいや」と思われるのです。まるでマンガの尾田栄一郎氏『ONE PIECE』や冨樫義博氏『HUNTER×HUNTER』のように。
マンガの『名探偵コナン』はその時代の最新技術を用いることで時事性を出しています。だから「完結したらまとめ読み」にすると面白さが半減するのです。
しかし『ONE PIECE』『HUNTER×HUNTER』に時事性はありません。「異世界ファンタジー」であるがゆえに、いつ読んでも同じ面白さなのです。それなら読むのはいつでもよい。そう思われてしまいました。
あなたの書く小説がもし「異世界ファンタジー」なら『ONE PIECE』『HUNTER×HUNTER』と同じで、いつ読んでもかまわないのです。
人気の高い「異世界ファンタジー」で時事性を持たせるために「主人公最強(俺TUEEE・チート)」「追放」「ザマァ」「スローライフ」といった流行りのキーワードを使うことになります。つまり「異世界ファンタジー」はテンプレート作品が集中しやすいのです。
要望を取り入れるか否か
連載が軌道に乗ってくると、読み手の方からさまざまな反響や質問や要望が舞い込みます。
よかった、悪かったといった反響は、以後の連載を続けるための推進剤です。
この展開がよくわからないのですがどういうことですかという質問は、その答えを近いうちに書いてくださいという要望になります。
また「このキャラクターが好きなので、活躍するシーンを見せてください」というストレートな要望も来るでしょう。
このような要望を取り込んでも物語の本流に影響を及ぼさないのであれば、果敢に挑戦するのも「あり」です。
しかし要望を取り込むことで本流に影響が及ぶ場合は注意してください。
その要望を取り入れれば、無用な勝負を挑むことになります。
本流に影響が及ぶ要望は、可能であれば無視しましょう。
「そのほうが面白くなるかもしれない」というヤマカンだけで勝負に打って出ないように。
そのヤマカンはたいてい外れます。「そのほうが面白くなるかもしれない」というのは、先がわからないからそう思うだけなのです。書いたところで「矛盾が発生する」事例がたいへん多い。
「そのほうが面白くなるかもしれない」と感じたら、まずは「あらすじ」の変更が可能かどうかをチェックしてください。
「あらすじ」を変えるということは、あなたが当初作品で読み手に訴えたかった「テーマ」も変わってしまう可能性があります。
変更しても訴えたかった「テーマ」が変わらないのであれば、「あらすじ」を変更して「箱書き」も新たに作成するのです。
けっして先の見通しを立てる前に「そのほうが面白くなるかもしれない」というヤマカンだけで勝負に出ないでください。
勝負をかけてはならない局面
もし「そのほうが面白くなるかもしれない」とヤマカンが働いたとしても、訴えたかった「テーマ」が変わってしまうようであれば、勝負に出てはなりません。
そんなときは、少しだけ探りを入れてみるのです。
「探りを入れて」みて、読み手の反応が芳しい場合は、訴えたかった「テーマ」を投げ捨ててでも勝負に打って出るだけの価値はあるかもしれません。
しかし反応が悪かったら、ヤマカンは見事に大外れしているとわかります。
その場合はすぐに本流へ戻ってください。
こういった要望は、連載が軌道に乗った頃からちらほらと舞い込むようになります。
都度ヤマカンだけで判断していると、ストーリー展開は必ず破綻するのです。
書き手はすべからく一心不乱に執筆する情熱を持つべきです。と同時に、いつも冷静に判断できる高みから作品全体を見渡せる能力も必要になります。
高みから作品全体を見渡すためには、「あらすじ」をじゅうぶんに掌握していなければなりません。
「あらすじ」すら作らずに小説を書くのは無鉄砲です。無謀と言ってよいでしょう。
もちろん文才次第では、「あらすじ」がなくても傑作を書けるでしょう。しかしそんな文才を持つ人は稀です。そんな稀をあてにしてはなりません。
人は自分のことを「特別視」する生き物です。
「自分には他人にない才能がある」と思い込みます。
だから自分は「あらすじ」を書かなくても連載できると考えているのでしょう。
その「特別視」は実際には根拠のない思い込みにすぎません。
ヤマカンが働きそうになったら「自分は特別じゃないんだ」「自分の文才では勝負しないほうがよい」と自分に言い聞かせるのです。
勝負をかけてはならない局面があります。
「そのほうが面白くなるかもしれない」とヤマカンが働いたときこそ、勝負をかけてはならないのです。
どうしても自制できないときは「探りを入れて」みましょう。
「探り」の回が出来ますが、大失敗はしません。
反応がよくなければすぐに本流へ戻れば済むのです。
反応がよかったときに備えて、掌握している「あらすじ」を俯瞰で見てください。
もし要望を受け入れたら「絶対面白くなる」と確信できるのであれば、「あらすじ」段階から先々の展開を変更する必要があります。
結果として本流に戻れたらよいのですが、戻れなくなることがほとんどです。
だからこそ変更には慎重を期すべきなのです。
安易に勝負に出てはなりません。
最後に
今回は「勝負をかけてはならない局面もある」ことについて述べました。
連載初期は「あらすじ」どおりに物語を進めてください。ここで「あらすじ」から逸れてしまうと、想定していたものとまったく異なる物語が出来あがってしまうのです。
ある程度連載を続けると、読み手からさまざまな反響が寄せられます。
要望も多く届くでしょう。
それを受け入れるか切り捨てるかは書き手であるあなた次第です。
ただしヤマカンだけで選択しないでください。
じゅうぶんな勝算がなければ勝負をしない。これが負けない戦いの第一歩です。
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