955.筆洗篇:誰も書いたことのないものを書く

 今回は「テンプレートでない作品を書こう」ということについてです。

 テンプレートに従って書けばランキングに載りやすい。事実なのですが、それで紙の書籍化を果たした作品はまずありません。

「小説賞・新人賞」の入賞作がテンプレート作品で、それが紙の書籍化されたケースはいくらでもあります。

 ですが正直な話、テンプレート作品は現在ほとんど売れないんですよね。

「なろう系」はフォロワーの多さからアニメ化まで行きやすいですが、そのアニメが大ヒットするわけでもありません。

 そろそろテンプレートから旅立つときが来たのではないでしょうか。





誰も書いたことのないものを書く


 今回は「テンプレートなんて気にするな」ということについてです。

 小説投稿サイトには決まった型テンプレートがあります。

 それに沿えばたくさん評価されてランキング上位になれるのです。

 しかし、テンプレートで埋め尽くされたランキングの中にも、テンプレートにはハマっていない作品もちらほら見えます。

 そしてそういう作品が紙の書籍化してヒットするのです。




テンプレートは初心者向け

 小説投稿サイトの初心者には、テンプレートが必要です。

 どのような作品を書けばその小説投稿サイトで人気が出るのか。ランキング上位のテンプレート作品を読めばおおよそわかります。

 だから初心者ほど、テンプレートの研究をするべきです。

 そして初心者は短編小説を書いてください。

 初心者がランキング上位のテンプレート作品をマネて、いきなり連載小説など書かないように。ただのモノマネで終わるか、総合評価ポイントがつかずに連載を続けてもランキングに載れない可能性が高いからです。

 その小説投稿サイトで人気のあるジャンルやキーワードなどを見つけ出し、それを用いている作品はどのようなストーリー展開をしているのかを確認します。

 一話限りの短編小説であれば、いくらでも物語は思いつけますし、一時間や二時間ほどで書き終えられるはず。

 結果も投稿した翌日には判明します。

 どんなストーリー展開がテンプレートを踏襲しているのかを見極めるにはじゅうぶんな作業です。

 こうしてストーリー展開を見つけ出しつつ、読み手に「伝わる」レベルまで文章力を高めましょう。

 ストーリー展開と文章力は車の両輪です。

 片方が頭抜けていても、拙いほうが足を引っ張ります。

 小説投稿サイトの最大手である『小説家になろう』では、評価を「文章評価」と「ストーリー評価」に分けているのです。

 初心者にはとてもありがたい。

 読み手を惹き込むストーリー展開を思いつく能力があるのかどうか。読み手に伝わる文章が書けているのかどうか。すべて「ストーリー評価」と「文章評価」で判断できます。

 あなたの名前が知れわたるまで、短編小説を中心に執筆して投稿してください。

 連載小説を書くのはそのあと。

 このように、名前が売れていない初心者ほど、テンプレートに沿った小説を書くべきなのです。

 名望と実力双方を同時に高めるには、テンプレートにハマった短編小説が欠かせません。




テンプレートから少しずつ離れていく

 テンプレート短編小説がランキングに載れば、名望と実力を手に入れたと言えます。

 そうなったら、テンプレートから少しずつ離れたストーリー展開を目指してください。

 あくまでも「少しずつ」です。

 いきなりテンプレートから逸れると、これまで必死にためた「テンプレート作家」としての名望が失われてしまいます。

 ストーリー展開で始まりと終わりは変えず、その間にある物語に少しずつ「あなたらしさ」「あなたが書きたかったもの」を混ぜていくのです。

 それでも読み手がついてこられるようなら「終わり方」を変えてみましょう。

 それでも評価してくれる方が多いようなら、初めて連載小説に着手してください。

 連載小説は何十日、何百日にも及ぶ長丁場になります。「あなたが書きたかったもの」が書けない状況で連載を始めても、ただの苦行でしかないのです。

 しかし短編小説でテンプレートから少しずつ逸れていき、それでも読み手がついてこられるようなら。「あなたが書きたかったもの」を書いても読み手はけっして離れません。

 むしろ「あなたが書きたかったもの」を読みたがるようになります。

 だからこそ、初心者のうちはテンプレートを踏襲しても、書き慣れてきたらテンプレートから少しずつ逸れていかなければなりません。

 逸れていかなければ、読み手はテンプレート作品を読みたいだけで、それはなにもあなたの作品でなくてもかまわないわけです。

 多くの読み手を抱えるトップランカーにも「テンプレートを踏襲しているから読まれる」だけの作品が目立ちます。

 前述しましたが、テンプレートを踏襲している作品は十中八九紙の書籍にはなれません。

 テンプレート作品がその小説投稿サイト内だけでしか盛り上がっていないことを、出版社レーベルは過去の出版経験から学んでいます。

 紙の書籍にしても売れる小説は、テンプレートのようでありながら、ひとクセもふたクセもある書き手独特の作品なのです。

 今テンプレート作品を連載している方にご忠告致します。

 このままでは紙の書籍にはなりません。

 その他大勢と大差ない作品は、紙の書籍にしても売れないからです。それこそ小説投稿サイトで読めばよい。

 それでも文章力があれば、「小説賞・新人賞」を授かって紙の書籍化もない話ではありません。しかし変わらないのは主人公だけで、他は総取っ換えという「地獄の書き直し」が待っています。

 テンプレートだけで成り上がれるほど、小説の世界は甘くないのです。




誰も書いたことのないものを書く

「小説を書く」のは、読み手に伝えたい物語があるからです。

 伝えたい物語がないのに小説を書く人はまずいません。

 テンプレートに沿った小説も「テンプレ作品」を読ませたいから書きます。

 しかしテンプレートに沿った小説は、爆発的なヒットとまではいかないでしょう。

 それは「皆がストーリー展開を知っている」からです。

 数多くの書き手は主人公が違うだけでまったく同じものを書いている。よってこの先どう展開するのかも皆が知っているのです。

 だからこそ「テンプレ作品」でランクインできるようになったら、そこから少しずつ逸れていくことをオススメしています。

 しかしその程度では、趣味として承認欲求を満たすだけで終わりです。後にはなにも残りません。

 あなたが読み手に伝えたい物語は「テンプレ作品」なのでしょうか。

 心底そうお思いならそれでもよいでしょうが、多くの方は「独自の物語」を何本も温めているはずです。

「誰も書いたことのないもの」を書けば、必ず多くの方が読んでくれて絶賛間違いなし! といけば苦労しません。

「誰も書いたことのないもの」を読ませようと思ったら、読みたくなるようなタイトルやあらすじ・キャプションを書くことです。

 しかし有象無象の書き手の小説を、貴重な時間を費やしてまで読もうとする方はごく少数であることを自覚してください。

 いくら魅力的なタイトルやあらすじ・キャプションが書けたとしても、読んでみようと思わせるには書き手の「知名度ネームバリュー」が必要です。

知名度ネームバリュー」があれば、「テンプレ作品」でなくても「これは面白そうだ」と感じた作品を読んでくれる率が高まります。

 そして「これは面白そうだ」と思わせるには、「誰も書いたことのないもの」であることです。

 賀東招二氏『フルメタル・パニック!』が大ヒットしたのも、当時存在しなかった「高校生を主役にしたミリタリー小説」だったから。

 川原礫氏『ソードアート・オンライン』が大ヒットしているのも、掲載当時存在しなかった「VRMMORPGを舞台にしたサバイバル小説」だったから。

 ともにさまざまな類似作品がのちに登場します。しかし最初に発表した作品が評価のすべてを持っていきました。

 なにごとも一番手となった者がすべてを手に入れるのです。

 もしあなたが「心で温めている物語」が類を見ない作品であったなら。疑いなく一番手になれます。

 紙の書籍化を果たせますし、アニメ化やマンガ化も視野に入るのです。

「一番手」となれれば多くのものが舞い込んできます。

「誰も書いたことのないもの」を読ませられれば、未来はひじょうに明るいのです。

 しかし「読ませられれば」という点が問題でしょう。

知名度ネームバリュー」のある書き手となっていることは最低限です。そのために「テンプレ作品の短編小説」をあえて数多く書くのです。

 読み手へおもねらなければ、あなたの存在に気づいてさえもらえません。

 だからこそ、小説投稿サイトではまず流行っているテンプレートを見つけ出し、それを量産してあなたの存在に気づいてもらいましょう。

 これで気づかれなければ、どうしてあなたの小説を読ませるというのか。

知名度ネームバリュー」さえあれば、どんな新作を書いても読んでもらえます。

 結果「駄作」だった場合は、二度とあなたの新作を追わなくなるかもしれません。

 だからこそ「誰も書いたことのないもの」を必ず「名作」となるように書く必要があります。

 そのためにはストーリー展開と文章力の質が高くなければなりません。

 つまり小説投稿サイトにアカウントを持ったからといって、すぐに「誰も書いたことのないもの」を投稿してはならないのです。評価されませんし、そもそも「読もう」という気すら起きない。

「誰も書いたことのないもの」を書くことでプロの書き手に近づけます。

 その代わり、プロレベルの作品を書いても「知名度ネームバリュー」がなければ誰にも読まれない可能性が高まるのです。





最後に

 今回は「誰も書いたことのないものを書く」について述べました。

「誰も書いたことのないもの」はプロの書き手になる唯一の手段となりえます。

 しかしそもそも「誰にも読まれなければ」プロレベルの作品ですら誰からも評価されないのです。

 だから初めのうちは「知名度ネームバリュー」を高めるようにしてください。

 勝負に出るのは「知名度ネームバリュー」がじゅうぶんに高まってからです。

 高まっていれば必ず評価されます。

 小説投稿サイトで開催される「小説賞・新人賞」に応募する場合でも同じです。

 評価がゼロポイントの作品と一万ポイントの作品とでは、どちらが有利かわかりきっています。



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