948.敬語篇:謙譲語について
今回は「謙譲語」についてです。
こちらを下にして、相手を上に立てる言葉が「謙譲語」です。
こちらも基本形と応用形があります。
謙譲語について
謙譲語はこちらや話題に登場する人物を低めることで、相手へ敬意を示すものです。
謙譲語Iと謙譲語II
謙譲語には現在IとIIという分類があります。
謙譲語Iは、こちらを低め、相対的に相手を高めて敬意を表す謙譲語です。
「拝見する」「うかがう」「いただく」「頂戴する」「申し上げる」「お伝えする」「ご連絡する」などが謙譲語Iに分類されます。
謙譲語IIは、話題に登場する人物や事物を低めることにより、相対的に聞き手を高めて敬意を表す謙譲語です。
「おる」「参る」「申す」「致す」などが謙譲語IIに分類されます。
謙譲語の基本「御〜する」
相手を上に立てる尊敬語の基本が「御〜になる」でした。
同じように、こちら側を下にして相手を立てる謙譲語の基本が「御〜する」になります。
五段活用なら「お会いする」「お行きする(?)」「お刺しする」「お立ちする」「お死にする(?)」「お積みする」「お走りする」となります。
上一段活用なら「おいする(?)」、下一段活用なら「お食べする」です。
カ行変格活用である「来る」なら「お来する(?)」、サ行変格活用である「する」なら「おしする(?)」です。
今回も「?」つまり適切でない謙譲語があります。
このように特定の動詞は、そのまま「御〜する」ではなく決められた動詞への変換が必要です。そのため少しややこしくなります。
ですが、言い換え例はそれほど多くないので、対応する動詞を憶えておくと便利です。
代表的な言い換え例
五段活用「言う」⇒「申し上げる」「申す」
五段活用「思う」⇒「存じる」
五段活用「もらう」⇒「頂く」「頂戴する」「賜る」「拝領する」
五段活用「行く」⇒「伺う」「参る」「参じる」「上がる」「参上する」
五段活用「聴く」⇒「拝聴する」「伺う」
五段活用「死ぬ」⇒「亡くなる」「
五段活用「知る」⇒「存じ上げる」「存じる」
五段活用「尋ねる」⇒「伺う」
五段活用「やる」⇒「差し上げる」「あげる」
五段活用「わかる」⇒「
上一段活用「いる」⇒「おる」
上一段活用「見る」⇒「拝見する」
下一段活用「考える」⇒「愚考する」
下一段活用「食べる」⇒「頂く」「頂戴する」
カ行変格活用「来る」⇒「参る」「伺う」
サ行変格活用「する」⇒「致す」
※「亡くなる」は「死ぬ」の婉曲表現なので、尊敬語でも謙譲語でも使えます。
※「食べる」は本来「
謙譲語でも丁寧語は必須
謙譲語でも尊敬語同様、用いるときは敬体の「〜ます。」「〜です。」を併用します。
五段活用なら「お会いします」「伺います」「お刺しします」「お立ちします」「亡くなります」「お積みします」「お走りします」となります。
上一段活用なら「おります」、下一段活用なら「いただきます」です。
カ行変格活用である「来る」なら「参ります」、サ行変格活用である「する」なら「致します」です。
謙譲語の別添「御〜願います」
謙譲語には「御〜願います」があります。尊敬語の「御〜くださる」に対応しています。
五段活用なら「お会い願います」「伺います」「お刺し願います」「お立ち願います」「亡くなります」「お積み願います」「お走り願います」となります。
上一段活用なら「おります」、下一段活用なら「お食べ願います」です。
カ行変格活用である「来る」なら「参ります」、サ行変格活用である「する」なら「致します」です。
二重敬語が許容されている
不思議なことに「御〜する」という謙譲語の文型は、「する」をさらに謙譲語にした「御〜致す」も許容されています。
五段活用なら「お会い致す」「伺い致す(?)」「お刺し致す」「お立ち致す」「ご逝去致す」「お積み致す」「お走り致す」となります。
上一段活用なら「おります」、下一段活用なら「頂戴致す」です。
他にも「御〜申し上げる」「御〜いただく」が使えるのです。
「お祈り申し上げる」「ご連絡申し上げる」のように「言う」の語彙である動詞には「申し上げる」が使えます。「お送りいただく」「お届けいただく」「お声をかけていただく」のように書くこともできるのです。
頻出の「〜させていただく」も本来の文法上は誤り
よく「このたび司会を務めさせていただきます堺と申します」の形で用いられる「〜させていただく」という表現があります。
これは「〜させてもらう」の謙譲語です。
よくよく考えてください。
「させる」は「する」の使役活用です。つまり相手に「それをやれと命じる」ことです。
そして「もらう」は自分のものにすること。
このふたつを組み合わせたものが「させてもらう」なのです。
つまり「誰かからやれと命じられている」「誰かから許可をもらってやっている」と言いたいように受け取られます。
これではこちらが嫌々行なっているような印象を与えてしまうのです。
正しい文法では「このたび司会を務めます堺と申します」と「申します」だけを謙譲語にしても意味は通じます。
しかし現在では「〜させていただく」も認知されるようになりました。
本来なら誤った文法なのです。しかし世の多数が用いればそれが認められる「変わりゆく言語」日本語の変化の過程に、我々は立っています。
「〜させていただく」より正しい文法として、「〜致す」に直すケースもあります。
「お話させていただきます」⇒「お話致します」
「〜させていただく」には「やらされている」「許可を受けている」感が漂いますが、「〜致す」には「自発」の意志が見えますよね。「〜致す」はより前向きな表現なのです。
ぜひ「〜致す」を使いこなしましょう。
最後に
今回は「謙譲語について」述べました。
尊敬語ほどではありませんが、謙譲語にもさまざまなものがあります。
しかし、尊敬語のつもりで謙譲語を使ったり、謙譲語のつもりで尊敬語を使ったりして、相手から不評を買うこともあるのです。
それについては次回で言及致します。
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