947.敬語篇:尊敬語について

 今回は「尊敬語」についてです。

 敬語は大きく分けて「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語と美化語」に分けられます。

 尊敬語は少し難しいので、この説明で完全に伝わるかはわかりかねますが、私の認識しているものは書けたはずです。





尊敬語について


 尊敬語は、相手や話題に登場する人物について、また、その人物の物、動作、状態などを高めて表現するときに用いる敬語です。




尊敬活用

 動詞には「尊敬活用」があります。

 それが「-aれる」です。

 しかし万能ではありません。


 五段活用なら「会われる」「行かれる」「刺される」「立たれる」「死なれる」「積まれる」「走られる」となります。「走る(走r-u)」+「-aれる」=「走raれる」の形です。

 上一段活用なら「いられる」、下一段活用なら「食べられる」になります。

 カ行変格活用である「来る」なら「来られる」、サ行変格活用である「する」なら「される」です。


 尊敬活用は日本語では古くからある表現です。

 しかし現在ではあまり好まれなくなりました。

 他の活用と区別がつきにくいからです。


 たとえば「社長が部長に言われました。」という文があります。

 この「言われました。」が尊敬活用なら「社長が言った」ことになるのです。

 しかし受け身活用なら「部長が言った」ことを社長が受ける形になります。

 実は受け身活用も「-aれる」なのです。


 では「ファックスを見られましたか。」という文があります。

 これはどのような意味でしょうか。

 尊敬活用なら「ファックスをご覧になりましたか。」の意味です。

 受け身活用なら「ファックスを誰かに見られませんでしたか。」という意味になります。

 そして可能活用なら「ファックスを見ることができましたか。」の意味です。

 なんと三通りに解釈できます。

 これが現在、尊敬活用が廃れてきた最大の理由です。


 厳密に言えば、現在の可能活用は「-eる」になります。

 なので「会える」「行ける」「刺せる」「立てる」「死ねる」「積める」「走れる」「いれる(?)」「食べれる(?)」「来れる」「される(?一般的には「できる」を用います)」などが現在の可能活用なのです。

(?)としたものは通常用いません。これらは現在でも上一段活用「いる」⇒「いられる」、下一段活用「食べる」⇒「食べられる」を用います。

 日本語の本来の文法上では「-aれる」が可能活用です。そのため、解釈に齟齬が生まれやすくなります。それをクリアにしたのが、現在の可能活用「-eる」なのです。

 可能活用を「-eる」に任せれば、「いられる」「食べられる」「される」以外は尊敬活用・受け身活用とは異なる活用となります。

 しかし、やはり尊敬活用なのか受け身活用なのかはわかりにくい。

 そこで、いっそ「-aれる」は受け身活用だけに限定し、尊敬活用は別の方法で表現できないでしょうか。




尊敬語の基本「御〜になる」

 尊敬活用を別の方法で表現するには、尊敬語の基本形である「御〜になる」を用いるのが一般的です。

「お会いになる」「お行きになる(?)」「お刺しになる」「お立ちになる」「お死にになる(?)」「お積みになる」「お走りになる」「おいになる(?)」「お食べになる(?)」「お来になる(?)」「おしになる(?)」となります。

 今回は(?)が多いですね。これらは一般的には用いません。それぞれ別の動詞に置き換えられます。

「行く」⇒「おいでになる(いらっしゃる)」、「死ぬ」⇒「お亡くなりになる」、「いる」⇒「いらっしゃる」、「食べる」⇒「召し上がる」、「来る」⇒「お越しになる(いらっしゃる)」、「する」⇒「なさる」にそれぞれ置き換えます。

 このように特定の動詞は、そのまま「御〜になる」ではなく決められた動詞への変換が必要です。そのため少しややこしくなります。

 ですが、言い換え例はそれほど多くないので、対応する動詞を憶えておくと便利です。


代表的な言い換え例

 五段活用「言う」⇒「言われる」⇒「おっしゃる」「のたまう」⇒「おおせられる」

 五段活用「歩く」⇒「歩かれる」⇒「玉歩ぎょくほ

 五段活用「行く」⇒「行かれる」⇒「おいでになる」「いらっしゃる」

 五段活用「聴く」⇒「聴かれる」⇒「ご清聴」「いらっしゃる」

 五段活用「知る」⇒「知られる」⇒「ご存じ」

 五段活用「飲む」⇒「飲まれる」⇒「召し上がる」

 五段活用「読む」⇒「読まれる」⇒「拝読する」

 上一段活用「いる」⇒「いられる」⇒「見える」

 上一段活用「着る」⇒「着られる」⇒「お召しになる」

 上一段活用「見る」⇒「見られる」⇒「ご覧になる」

 下一段活用「得る」⇒「得られる」⇒「お手に入る」

 下一段活用「食べる」⇒「食べられる」⇒「召し上がる」

 カ行変格活用「来る」⇒「来られる」⇒「お越しになる」「いらっしゃる」「おいでになる」「お見えになる」⇒「おなりになる」

 サ行変格活用「する」⇒「される」⇒「なさる」




尊敬語を使うときは丁寧語・美化語も用いる

 通常、尊敬語を用いる際には丁寧語も同時に用いられます。

 五段活用なら「会われます」「行かれます」「刺されます」「立たれます」「死なれます」「積まれます」「走られます」となります。

 上一段活用なら「いられます」、下一段活用なら「食べられます」になります。

 カ行変格活用である「来る」なら「来られます」、サ行変格活用である「する」なら「されます」です。

 これらを尊敬語「御〜になる」に置き換えると以下のようになります。

「お会いになります」「おいでになります(いらっしゃいます)」「お刺しになります」「お立ちになります」「お亡くなりになります」「お積みになります」「お走りになります」「いらっしゃいます」「召し上がります」「お越しになります(いらっしゃいます)」「なさいます」

 尊敬語の基本形「御〜になる」にはすでに美化語の「御」を用いていますので、そちらは気にしなくてもかまいません。

 上記のとおり、尊敬語を用いるときは丁寧語「〜ます。」を伴うのが一般です。




尊敬語の別添「御〜くださる」

 尊敬語には「御〜になる」の他に「御〜くださる」という表現もあります。

「お会いくださる」「おいでくださる(いらっしゃいください(?))」「お刺しくださる」「お立ちくださる」「お亡くなりくださる(?)」「お積みくださる」「お走りくださる」「いらっしゃいくださる(?)」「お召し上がりくださる」「お越しくださる(いらっしゃいくださる)」「ご理解くださる」

「?」は用いない別添です。

 尊敬語「御〜になる」があるのに、なぜ「御〜くださる」があるのかわかりますか。

 実は「命令形」を書くとき、「御〜になれ」より「御〜ください」のほうが一般的だからです。

 丁寧語「〜ます。」の命令形「ませ。」を加えるとさらに丁寧度が増します。

「お会いください」「おいでください(いらっしゃい)」「お刺しください」「お立ちください」「お亡くなりください」「お積みください」「お走りください」「いらっしゃい」「お召し上がりください(?)」「お越しください(いらっしゃい)」「してください」

 この中で「お召し上がりくださいませ」に「?」を付けたのは、「二重敬語」との兼ね合いからです。




二重敬語に気をつける

 一文の中で「重ね言葉(重言)」が禁止であるように、敬語も重複する「二重敬語」は禁止されています。


 たとえば「お会いになる」が正しいのに、これに尊敬活用「-aれる」を付けて「お会いになられる」と書くのが二重敬語です。

 また「おっしゃる」に尊敬活用「-aれる」を付けて「おっしゃられる」、「召し上がる」に尊敬活用「-aれる」を付けて「召し上がられる」とするのも二重敬語になります。

「ご覧になる」を「ご覧になられる」とするのも同様です。

 だからといって丁寧語を付ければよいというわけでもありません。

「お会いになられます」「おっしゃられます」「召し上がられます」「ご覧になられます」と書いても二重敬語に変わりないのです。


 先ほど出てきた「お召し上がりください」が「二重敬語」かどうか。これは国語学者の間でも判断は二分されています。

 許容される方と「召し上がってください」に置き換える方とにです。

 まず「御〜ください」は尊敬表現です。そのうえ「召し上がる」が「食べる」「飲む」の尊敬表現になります。つまり「二重敬語」だというわけです。

 ではどうするか。まず美化語である「御」をとります。「御〜くださる」の形だから尊敬表現になります。

 単に「〜くださる」だけなら丁寧語のひとつです。主に「〜してくださる」の形で用います。「理解する」⇒「理解してくださる」で丁寧な印象を受けますよね。

 ということで「お召し上がりください」は、「御」をとって「召し上がりください」を経由して、「召し上がる」+「〜してください」=「召し上がってください」となるのです。

 ここまで悩むくらいなら、単純な尊敬語の形「御〜くださる」を用いて「お食べください」でもかまいません。


 これらはみな、敬意を高めようと意識しすぎた結果生まれます。かえって過剰になってしまうのです。




命令形から意向を尋ねる形に

 命令形の文末として丁寧語「〜ください」があります。

 しかし丁寧語ですから相手に強く命令している印象を与えかねません。

 そこで「いただけますでしょうか」「くださいますでしょうか」「願えますでしょうか」の形で意向を尋ねるようにするのが、ワンランク上の敬語の心得です。

「見てくれ」⇒「見てください」⇒「ご覧いただけますでしょうか」

「読んでくれ」⇒「読んでください」⇒「お読みいただけますでしょうか」

「来てくれ」⇒「来てください」⇒「お越しいただけますでしょうか」

「聞いてくれ」⇒「聞いてください」⇒「お聞きいただけますでしょうか」

「電話をくれ」⇒「電話をください」⇒「お電話をいただけますでしょうか」

「連絡をくれ」⇒「連絡をください」⇒「ご連絡をいただけますでしょうか」

「渡してくれ」⇒「渡してください」⇒「お渡しくださいますでしょうか」

「仕上げてくれ」⇒「仕上げてください」⇒「仕上げてくださいますでしょうか」

「伝えてくれ」⇒「お伝えください」⇒「お伝え願えますでしょうか」

「届けてくれ」⇒「届けてください」⇒「お届け願えますでしょうか」

 いずれも尊敬するべき相手に強く働きかけない表現になります。





最後に

 今回は「尊敬語について」述べました。

 現在では「動詞+-aれる」の形は用いにくくなりました。

 どうしても受け身活用、可能活用と区別しづらいからです。

 ですが「御〜になる」「御〜くださる」ほど改まった言い方をしたくない場合は、やはり「動詞+-aれる」の形を用いてください。



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