敬語篇〜要点を押さえて違和感なく

946.敬語篇:丁寧語と美化語

 今回から「敬語篇」に入ります。

 短期集中でまいりますので、振り落とされないようご注意くださいませ。





丁寧語と美化語


 敬語を学ぶにあたり、最初に知っておくべきなのが「丁寧語」と「美化語」です。

 このふたつは厳密に言えば敬語ではありません。

 あくまでも丁寧な物言いをしているだけです。

 敬意を込めた尊敬語・謙譲語は次回から挙げていきます。

 今回はあくまでも丁寧な物言いの「丁寧語」と「美化語」だけを扱います。




丁寧語

 敬体の「です・ます体」である「〜です。」「〜ます。」の文末が「丁寧語」です。

 名詞文「私は猫です。」

 動詞文「私は走ります。」

 形容詞文「私は悲しいです。」※注意

 形容動詞文「私は静かです。」

 このように名詞文、形容詞文、形容動詞文では「〜です。」を用い、動詞文では「〜ます。」を用います。


 形容詞文に「※注意」を付けたのには理由があるのです。

 それは敬体の「〜です。」を常体の「だ・である体」に変換し直した際に明らかになります。

「私は猫だ。」「私は悲しいだ。(?)」「私は静かだ。」

 このように、形容詞文では常体に直した際「〜いだ。」「〜しいだ。」となり、おかしな文が出来あがるのです。

 解決するには「〜のです。」「〜ことです。」「〜ものです。」のような「の」「こと」「もの」などの用言を体言に変換する言葉を用いてください。

「私は悲しいのです。」⇒「私は悲しいのだ。」

「私は悲しいものです。」⇒「私は悲しいものだ。」

 これなら敬体を常体に変換しても、おかしさは減ります。

 しかし常体で「私は悲しい。」と書いたのに、敬体へ直すと「私は悲しいのです。」と変換すると困った点も出てきます。

 上記したとおり常体に戻したときに「私は悲しいのだ。」と「のだ」が余計に付いてしまうのです。

 それを解決する方法はただひとつ。

「形容詞文では常体をそのまま用いる」こと。

 つまり「私は悲しい。」を敬体でも用いるのです。

 こう定義すれば、「うれしかったです。」「たのしかったです。」という小学生のような表現をしなくて済みます。


 しかし、さらなる改善方法があるのです。




敬意を込めた丁寧語「ございます。」

 ただ丁寧にしただけの「〜です。」「〜ます。」の他にも丁寧語があります。

 それが「〜(で)ございます。」です。

 名詞文「私は猫でございます。」

 形容詞文「私は悲しゅうございます。」

 形容動詞文「私は静かでございます。」

 このように、「〜です。」語尾を「〜ます。」語尾に変換するのが「〜(で)ございます。」の機能となります。

 いずれも「〜(で)ある。」の丁寧語です。

 動詞「ある」を加えることで、少し改まった物言いになります。

 そしてなによりも、形容詞文の丁寧語として「悲しゅうございます。」を使えるのが大きい。

「悲しゅうございます。」は厳密には「悲しくある。」「悲しゅうある。」の丁寧語です。

 この「ある。」を「ございます。」に置き換えるのが丁寧語になります。

 丁寧語には、相手を立てる機能がありません。

 相手を尊敬したり自分を下にしたりする場面では尊敬語、謙譲語を用いるべきです。

 そのうえで丁寧語「〜です。」「〜ます。」「〜(で)ございます。」を組み合わせることで、敬語は成り立ちます。

 尊敬語、謙譲語だけを憶えても、丁寧語で話せなければ敬意は低まるのです。




尊敬語に近い丁寧語「くださる。」

 尊敬語のときにも触れますが、「〜くださる。」も丁寧語です。

 ただし、以下で説明する美化語「御」が付いてしまうと尊敬語になってしまいます。

 動詞の頭に「御」を付けない「〜くださる。」だけが丁寧語です。

 動詞文「走ってくださる。」

 このように使うには使いますが、少し「お嬢様言葉」のように感じるでしょう。

 実は「〜くださる。」よりも身近な使い方があります。

 それは「走ってください。」、つまり命令形です。

 敬語は基本的に、相手に命令する形をとりません。

 それでもやはり場面によっては相手に命令する必要が出てきます。

 そのために使われるのが「〜ください。」なのです。

「走ってください。」は「走ってくれ」「走ってほしい」よりも丁寧な言葉遣いになります。

 これを「お走りください。」と書いてしまうと尊敬語になるのです。

 あくまでも丁寧語として用いたければ「走ってください。」と活用しましょう。




美化語

「美化語」という言葉に馴染みのない方が大勢いるでしょう。

 しかし、名詞の頭に「御」を付けるというとすぐにわかる方が多い。

「お酒」「お魚」「お米」「おみおつけ」「お土産」「お金」「ご飯」「ご挨拶」「ご本」などがあります。

 皆様は「御」を「お」と読むべきか「ご」と読むべきかの区別はつきますか。

 実はとても簡単な法則なのです。

 訓読みしている名詞なら「お」、音読みしている名詞なら「ご」と読みます。

 「さけ」「さかな」「こめ」「みおつけ」はいずれも訓読みであり、「御」は「お」と読む。

 対して「はん」「あいさつ」「ほん」はいずれも音読みであり、「御」は「ご」と読むのです。

 他にも「み」と読む場合があります。「錦の御旗」のように使います。

 ちなみに「おみおつけ」は漢字で「御御御付け」と書きます。

 なんと美化語を三つも使っているんですね。

 例外として「お野菜」「お大根」「お蜜柑」「お椀」のような野菜や果物や食器など食べることに関係する名詞は「お」を用いることが多い。


 名詞であればなんにでも美化語が付けられるわけではありません。

 たとえば外来語には美化語を付けられません。

「おビール」「おコーヒー」「おジュース」は明らかに変ですよね。

 名詞は日本語・漢語であること。これが最低限のルールです。


 また「おトイレ」「お便所」「おかわや」のような美化に値しない名詞にも美化語は付けられません。

 卑俗な単語をいくら美化しても、卑俗なものは卑俗なのです。

 日本語では「はばかり」「お手洗い」「化粧室」など別の名詞に言い換えます。

 英語でも「toilet」は「WC」つまり「water closet」と直接的でない言い回しが用いられるのです。

 卑俗な単語を当たり障りのない名詞に置き換えるのは、洋の東西を問わないのでしょう。





最後に

 今回は「丁寧語と美化語」について述べました。

 丁寧語は「〜です。」「〜ます。」「〜(で)ございます。」「〜くださる。」の語尾を指します。

 美化語は「お背中」「お腹」「ご注進」など、名詞の頭に「御」を付けたものです。

 このふたつは口調を和らげるのに効果があります。

 しかし敬意は示せないので、目上の方には尊敬語・謙譲語を併用することを忘れないでください。

 敬語の初手ですので、日常で頻繁に用いて慣れましょう。

 丁寧語と美化語を書けない方が、敬語を書くのは相当難しいのです。



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