933.鳳雛篇:読み手はどんな人

 今回は「読み手層を意識する」ことについてです。

 あなたの小説の「読み手層」はどのような方々でしょうか。





読み手はどんな人


 小説を読む方は実にさまざまです。

 ライトノベルは中高生、乙女系は女子高生・女子大生、ジュブナイルは主婦、企業小説は男性会社員、成人向けは出張の多い男性会社員など。

 これらの想定される読み手によって、小説の書き方は異なります。

 年齢・性別・職業によって、書き方・読ませ方は千差万別です。




ライトノベル

 ライトノベルは現役中高生が対象です。角川スニーカー文庫創設時から読んでいる中年は現在でもライトノベルを読みますが、総数は現役中高生には及びません。

 であれば、現役中高生が読んで理解できる言葉を選んで書きましょう。

「懊悩」と書いて現役中高生は読めますか。意味がわかりますか。

「襷」と書いて読めたり意味がわかったりするでしょうか。

 おそらく読めないし意味もわからないはずです。

 つまりライトノベルではこのような漢字を使わないのが暗黙の了解となります。

「懊悩」は「おうのう」と読み、「なやみもだえる」意です。であれば「悩みもだえる」と書けばよい。

「襷」は「たすき」と読み、駅伝などで見られる細長い帯のことです。「帯に短し襷に長し」という慣用句も「帯に短したすきに長し」とかな書きにしてください。

「憂鬱」は現在読める中高生が多いのでそのまま用いてもかまいません。配慮するのであれば「憂ウツ」と難読漢字をカナ書きしましょう。

 主人公は中高生の男子が一般です。中高生の女子が主人公の作品もありますが、これは書き手自身が女性であるケースが多い。

 小説の主人公は、書き手と同じ性別であることが望ましいのです。

 なぜなら「書き手の記憶を頼りにストーリーを考えられる」から。

 男子中高生なら女性に興味を持ち始める時期ですから、チラリズムだったりメガネ萌えであったりと、エロティックな要素や属性などを盛り込む必要があります。

 意外と「R15」レーティングのものが多いのも、ライトノベルの特徴です。

 つまり多少の暴力的な描写も含まれます。

 そもそも「剣と魔法のファンタジー」において、非暴力で解決する小説は好まれるものでしょうか。

 まず考えられませんよね。

 だからこそ「R15」レーティングが必然的に増えていくのです。




乙女系

 女子中高生が好んで読むのが乙女系の小説です。

 基本的に少女マンガの延長上にあり、複数のイケメンがヒロインを囲うようなシチュエーションが多くなります。

 その中から「意中の異性」を見つけるのが物語の骨子です。

 つまり「逆ハーレム」で最初からイケメンたちからちやほやされます。その中から「推し」を見つけて応援するのが、共感力にすぐれた女子中高生ならではの読み方です。

 またとくにボーイズラブ(BL)やティーンズラブ(TL)が好きなのも、女子中高生に特有の現象です。

 女子は男子よりも早熟で耳年増なため、恋愛感情の醸成も早い時期から始まっています。

 それがBLやTLとなって現れるのです。

 とくにBLは、同性愛にも共感力を発揮する女子中高生にとって格好のご褒美になります。

「逆ハーレム」に「BL」を混ぜた作品が人気を集めるのも女子中高生の特徴です。

 また女性は女性の同性愛「ガールズラブ(百合小説)」についても寛容で、『ピクシブ文芸』では「ガールズラブ」がランキングの上位に多数入選しています。




職業によってウケるジャンル

 男性会社員にウケるジャンルは、池井戸潤氏に代表される「企業小説」です。『下町ロケット』『半沢直樹』『ロスジェネの逆襲』など、企業の中で厳しい現状を努力で打破する小説に人気があります。

 少し対象年齢を上げると司馬遼太郎氏に代表される「歴史小説」「時代小説」です。吉川英治氏『三国志』は日本に「三国志ブーム」を巻き起こしました。現在も数多くの訳本が出版されており、「歴史小説」では不動の人気を誇ります。


 女性が好む「乙女系」も「ジュブナイル」も、基本的にエッチ描写のあるエロ小説です。なのに男性向けのエッチ描写のあるエロ小説は「成人指定」をされて未成年は読めません。しかし「乙女系」も「ジュブナイル」も男性向けエロ小説と異なり、一般書店で普通に手に入ります。

 この男女差は明らかに差別です。

「子どもに悪影響がある」と声高に主張する女性が、一般書店でエロ小説を買って読んでいます。本末転倒もよいところだと思いませんか。

 これは少女マンガでもよく非難されます。

 少年マンガ誌ではポロリにすら抗議が来るのに、少女向けマンガ誌では当たり前のようにレイプシーンが出てくるのです。

 どちらがより「社会の悪」なんでしょうね。




ターゲットにする読み手層を可能なかぎり絞る

 多くの読み手に読んでもらいたいからと、できるだけ万人ウケする物語にしがちです。

 ライトノベルでも単に中高生と想定するのではなく、「高校二年生男子」や「中学三年生女子」といった細かな絞り込みをするのです。

 そうすれば、用いるべき語彙の選択も適正になります。

 彼ら彼女らに「懊悩」「阿る」なんて言葉は通用しません。

 ターゲットにする絞り込んだ読み手層がわかる表現をしなければ、苦労して書いても読まれるのは初回だけです。初回で読み手から「これはわからないな」と思われたら、そこで試合終了。今回はあなたの完敗に終わります。

 小学生が読む児童文学と、壮年・老年が読む文学小説とは、表現が異なっていて当然です。小学生に「懊悩」「阿る」なんて書いてもわかるはずがありません。壮年・老年に「たたかいました」「うれしかったです」なんて書いても読んでもらえるはずがないのです。

「年齢・性別・職業」によって、用いる表現は異なります。

 特定の作品が最も読まれるには、どのような表現をすればよいのか。まずはそこから考えてみましょう。考えもなしに正しい書き方が身につくはずはないのです。





最後に

 今回は「読み手はどんな人」について述べました。

 読み手層を明確にそして細密に設定することで、適切な表現が身につきます。

 万人ウケを狙って当たり障りのない表現にとどまるのでは、誰からの支持も得られません。

 ピンポイントで狙いを定め、百人中ひとりの心を射止めれば書き手の勝ちなのです。

 九十九人に嫌われてもいい。たった「ひとり」に伝わればいい。

 そのくらい割り切って書いてください。



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