929.鳳雛篇:あなたはなぜ小説が書けないのか

 今回は「小説を書けない」理由についてです。

 あなたには誰かに「伝えたい」ものはありますか。





あなたはなぜ小説が書けないのか


 小説を書こうと思い立ったとき、あなたは初めになにをしますか。

 いきなりPCでテキストエディタを立ち上げて、文章を書こうとしていませんか。

 それではいつまで経っても小説は書けませんよ。




なにを書きたいのか明確になっていない

 漠然としたイメージを思いついて、いきなり本文を書こうとしてはなりません。

 なにを書きたいのか明確になっていないと、「どう書けばいいのだろう」とばかり時間を費やし、考える時間が増えていきます。

 そうやって時間を浪費すれば、せっかく思いついたイメージが立ち消えとなり、結果として「なにを書くつもりだったんだっけ」となるのです。

 これでは小説を書くことなんてできませんよね。

「書きたい!」と思いついても、それだけでは考えすぎて筆が止まってしまいます。筆が止まればイメージはしぼんでいくのです。

「書きたい!」と思いついたら、「なにを伝えたいのか」をまず見つけてください。

 伝えたいものが見つかれば、「書きたい!」ものも明確になります。

 漠然としたイメージを思いついたら、必ず「どんなことを伝えたいのか」をよく考えてください。

 伝えたいことを考えておきさえすれば、「プロット」無しで本文を書きだしても、ショートショートや短編小説なら書けてしまいます。

 本コラムも毎回「なにを伝えたいのか」を考えてから執筆しています。

 そのおかげで九百回以上、総文字数三百二十三万字の連作となりました。

 以前書いた「伝えたいこと」を何度も用いて書いているので、厳密に伝えたいことが九百個あるわけではないのです。

 また新しいことを思いついたら都度iPod touchの「メモ」アプリに単語を書き出すようにしています。

 単語から連想したテーマ、つまり「伝えたいこと」をもとにしてエピソードに仕立て上げているのです。

 小説もコラムと変わりません。

「伝えたいこと」もなしに小説を書いても、読み手にはなにも伝わらず、その小説に価値を見出してくれないのです。

 それではせっかく小説を書いたのに、なんの意味もありません。

 評価もされませんし、ブックマークもつかない。ただの駄作が出来あがるだけです。

 小説で名作と駄作を分けるのは、読み手に伝わるものがあるかないか。ただそれだけです。

「伝えたいもの」がある小説は、読んでいるだけで読み手に訴えかけてきます。

 だから「読んだだけの価値があった」と充足感を味わえるのです。

 その充足感こそが「名作」の条件となります。

 どうせ書くなら「名作」にしませんか。


「人生八十年時代」となった現在においても、時間はかけがえのないものです。

 誰からも評価されない「駄作」を書いている暇があるのなら、その時間で「名作」を書いたほうが何倍も有益でしょう。

「名作」を書くには「伝えたいこと」を明確にすることです。

「面白ければそれでいいじゃないか」と考えていませんか。「どうせライトノベルだし」「どうせ小説投稿サイトだし」と軽んじていませんか。

 それでは「名作」は書けません。

 小説投稿サイトだからこそ「名作」を書くべきなのです。


 百六十万超のアカウントを誇る最大手の小説投稿サイト『小説家になろう』において、潜在的な読み手総数はもちろん百六十万人超となります。

 もし百六十万人超が読んで評価してくれるなら、それはほとんどの商業作品をかるく凌駕するほどの知名度が得られるということです。

 百六十万人超から「駄作」の書き手だと思われるのと、「名作」の書き手だと思われるのと。どちらがよいかは言わずもがな。

「駄作」と「名作」の分かれ目は「伝えたいこと」があるかどうか。それが「伝わる」かどうかです。




どういう体験を味わったのかを伝える

 一言で「伝えたいこと」と書きました。

 どんなものが「伝えたいこと」になるのでしょうか。

「今日彼女と映画『天気の子』を観に行った。」

 これは「伝えたいこと」ではなく、ただの報告です。

 確かに映画を観に行ったのは事実でしょう。しかし「観に行った」だけでは読み手にはなにも「伝わりません」。

「今日彼女と映画『天気の子』を観に行った。とても楽しかった。」

 これでは小学生の作文と大差ありません。

 本当に「心から楽しかった」のだとしても、それをそのまま「とても楽しかった」と書くのではあまりにも幼稚です。ただ感想を書けばよいというものでもない。

「今日彼女と映画『天気の子』を観に行った。普通の少年と不思議な力を持つ少女との心の交流を描いた作品だった。」

 こう書いてもやはりただの「報告」です。

 そういう作品であっても、そこからなにを感じたのか。読み手になにを「伝えたい」のか。そういう視点が必要です。

「今日彼女と映画『天気の子』を観に行った。街並みの描写が圧巻だった。」

 これなら「伝えたいこと」がはっきりしています。「圧巻」も感情語ではありますが、なにがすごかったのかは一目瞭然。「街並みの描写」ですよね。

 さらに続けて、

「新海誠監督は前作『君の名は。』でも東京の街並みをただの背景としてではなく、ひとつの芸術作品へと昇華させていた。『背景の名手』と呼べるだろう。」

 と書けば「伝えたいこと」がさらにはっきりします。

 ただ「楽しかった。」と書くのは報告です。

「どこがよかったのか」を正確に書くことで、読み手へ情報を「伝えて」います。

 だから「街並みの描写が圧巻だった。」は「名作」への道標となりうるのです。

 もちろん「よかったこと」を書くだけが「伝えたいこと」ではありません。

「どの人物も同じような顔をしていて、魅力が際立っていなかった。」

 と「よくなかったこと」も「伝えたいこと」になります。




どんな文章が伝わるかなんて名筆家でもわからない

 では読み手に最も伝わる文章の形はあるのでしょうか。

 形はあってないようなものです。

 名筆家と呼ばれる書き手であっても、読み手に伝わる文章がどのような構造をしているのかを知りません。

「伝えたいこと」の数だけ「伝え方」は異なるのです。

 だからこそ「伝えたいこと」を明確にして、多くの読み手に「伝わる」よう文章に落とし込んでください。

 あなたが「伝えたいこと」は名筆家であっても正確に「伝えられない」のです。

 あなたが「伝えたいこと」と、それをどう読み手に「伝えたい」のか。それを百パーセント理解していなければ正しい文章は書けません。

 つまり今のあなた以上にあなたの「伝えたいこと」を理解していなければ、どんな名筆家であっても「伝わる」文章にはならないのです。

 あなたの「伝えたいこと」は、あなたにだけわかっています。

 それが読み手にどう「伝える」かを考えるのも、あなた以上の適任者はいません。

 まずは「どう表現したらよいのかわからない」という迷いを脇へどけてください。

 そして自分がこの小説で読み手になにを「伝えたい」のか、その根源を模索するのです。

 たとえそれが「勧善懲悪」のようなわかりやすい形であってもかまいません。

 鎌池和馬氏『とある魔術の禁書目録』だって、突き詰めれば「勧善懲悪」の物語なのですから。


 要はあなたが「伝えたいこと」を正確に表現できるかどうか。

 それは名筆家でも表現できません。

 あなたの「伝えたいこと」は、あなたの語り口でなければ正確に伝えられないものである。

 そのことをよくわきまえてください。




難しく考えず、素直に内心と向き合う

「伝えたいこと」を難しく考えないでください。

 あなたが「伝えたいこと」を書いて、読み手にどうなってもらいたいのか。

 楽しんでもらいたいのか、泣いてもらいたいのか、怒ってもらいたいのか。

 読み手のリアクションを想定しながら文章を書くようにしましょう。

 こればかりは、どんな文章読本にも載っていません。載せられるものではないからです。

「伝えたいこと」が平凡でも、書き手の数だけ正しい書き方が存在します。

 だからこそ「伝えたいこと」の根本と虚心で向き合って、その本質を探ってください。

 あなたにしかわからない本質さえ見つけ出せれば、「伝えたいこと」をどう書けばよいのかは自ずとわかります。

 漠然としたイメージを思いついたら、そのイメージのなにを「伝えたい」のかと向き合いましょう。

 それが正確な小説を書く秘訣です。





最後に

 今回は「あなたはなぜ小説が書けないのか」について述べました。

 根性が足りなくて書けないのではありません。

「伝えたい」ものと虚心で向き合えていないからです。

 素直に向き合えていれば、なにを書けばよいのかが見えてきます。

 がむしゃらに書くのではなく、内心との対話を経てから書くのです。



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