鳳雛篇〜小説家のヒナたちへ

928.鳳雛篇:テーマの設定された小説賞

 今回は「テーマのある小説賞」への対策です。

 どのようにすれば「テーマの決まっている小説賞」への応募作を執筆できるのでしょうか。





テーマの設定された小説賞


「小説賞・新人賞」の多くは、盛り込むべき「テーマ」が定まっています。

「テーマ」をどうクリアすればよいのでしょうか。

 あなたが書けそうにない「テーマ」の設定された「小説賞・新人賞」は応募するべきではないのか。

「テーマ」があらかじめ定まっている「小説賞・新人賞」では、「テーマ」に沿いつつも多様性、意外性を見せつけるべきです。




献立とレシピを考える

 料理を作る際、初めにするのは「献立」を考えることです。

 幸いなことに「献立」は「小説賞・新人賞」で設定されている「テーマ」になります。

献立テーマ」にどんなアレンジを加えていくのか。

「カレーライス」が「献立テーマ」でも、インド式、英国海軍式、海上自衛隊式、CoCo壱番屋式、蕎麦屋式など、実にさまざまな「レシピ」の「カレーライス」が存在します。あなたのご家庭だけで作られる味もあるでしょう。

 たとえばじゃがいもの代わりにさつまいもを使う、トマトを入れる、コーヒーやソースを混ぜるなど、アレンジは多岐にわたります。

 どんな「カレーライス」を作るのか。

 それを端的に表したのが、本「小説の書き方」コラムでいう「企画書」です。

「主人公がどうなりたくて、行動し、結果どうなるのか」をまとめたものになります。

「レシピ」が決まらなければ、「企画書」が出来あがらず、小説を書き始められないのです。

献立テーマ」が設定されている場合、あなたの腕の見せどころは「他人が考えつかないようなレシピ」を作ることにあります。

 たとえ拙い文章でも、「斬新なレシピ」なら読み手は一様に瞠目どうもくするでしょう。




食材をリストアップする

献立テーマ」から「斬新なレシピ」を作れました。

献立テーマ」と「レシピ」が決まっていれば、次は「食材」つまり「材料、素材」の買い出しをしなければなりません。

「レシピ」に必要な「食材」つまり「材料、素材」を貪欲に収集するのです。

「レシピ」どおりに料理を作るためには、具体的な調理法や味付け(どんなことを書くのか)を明確にしましょう。

 具体的にどんな「レシピ」で「カレーライス」を作るのか。それを明らかにしなければなりません。

「カレーライス」のあなたなりの「レシピ」に必要な「食材」こそが、小説を執筆するのに必要な「材料、素材」なのです。

 これによりどんな「食材」が必要か、手元にある「食材」はどれで、ない「食材」はなにかを点検します。

 ストックが切れている「食材」は当然買い出しに行くことになります。

 足りない「食材」は取材や調査で集めてくるのです。




食材を集める

「食材」は自らの体験、伝え聞き、書籍や資料で知ったこと、調査結果、取材結果、体験者の談話などに分けられます。

 まず「献立テーマ」をどう表現するか、主人公は困った事態に陥りそうか、対策はどうすればよいのか。というように具体的な問いを立てます。

 また「献立テーマ」に関連づけられる論点を示すことで、文章が多様性を帯びるのです。


「食材」はできるかぎり新鮮なものがよいでしょう。

 熟成肉には熟成肉のおいしさもあります。

 しかし料理に用いるなら新鮮な肉のほうがよいに決まっています。

 熟成肉はステーキにするからおいしさがわかるのです。

「カレーライス」のために煮込んだら、熟成肉のおいしさも半減します。

 では「新鮮な食材」とはなにか。

 やはり「自らの体験」が一番です。

『カクヨム』で「オーバー30歳主人公コンテスト」が開催されています。(『カクヨム』投稿時点ではすでに終了しています)。

 もし中高生が三十歳以上の主人公を書こうとすれば、妄想だけであやふやな主人公像にしかなりません。

 実際に三十歳を超えている書き手なら、自分の経験をそのまま書けばよいのです。

「恋愛小説」という「献立テーマ」で、書き手が一度も恋愛したことのない人物だったら。とても表面的な描写しかできないでしょう。

 恋愛には欠かせないワクワクやドキドキの現実味リアリティーがなくなります。

 稀に妄想だけで名作を書ききってしまう書き手も現れるでしょう。

 しかしそれはあくまでも例外です。

 やはり書き手本人が経験した「恋愛話」ほど新鮮な「食材」はありません。

 新鮮な「食材」はなにものにも勝ります。

「三十歳未満」の書き手に「オーバー30歳主人公」の心の内はわからないはずです。

 どんなものを抱えているのか。

 結婚していないことを焦っているのか、結婚はしたけど子どもができないことに落胆しているのか。会社では役職を任せられているでしょうから、部下や取引先との円滑なやりとりも欠かせません。

「30歳」を超えているからこそわかることがあるのです。

 それが「食材の鮮度」を決めます。




取材で集める

 書き手「自らの体験」がない「食材」は、資料集めをしなければなりません。

 多くの場合は書籍にあたればヒントや答えが載っています。

 ですので、図書館やインターネットで積極的に「食材」探しをしてください。

 それでもわからなければ「取材」をするほかありません。

 カレーライスが作りたいのに、インド固有のスパイスが手に入らない。

 それならスパイスをインドから輸入しなければならないのです。

「取材」は実地「調査」が必要なこともあるでしょう。インタビューが必要ならその人にかけ合い、実際に会って話を聞くべきです。

「取材」により集めた「食材」を一覧にして、足りないまたは欠けている「食材」がないか、点検します。

 じゅうぶんな「食材」を集められていれば、いよいよ「あらすじ」へ進みましょう。





最後に

 今回は「テーマの設定された小説賞」について述べました。

 テーマは「献立」です。「企画書」を考えるのは「献立」から「レシピ」を考えることでもあります。

「レシピ」が決まれば、「食材」を集めなければなりません。

「食材」は鮮度が命です。「新鮮な食材」は、書き手であるあなた自身が体験したこと。

 たとえば「デイトレードをしている女性」の話を書こうと思えば、「デイトレード」に関する書籍を読むこともたいせつです。しかし実際に「デイトレード」を体験してみれば、どんなものかは教わることなく明らかになります。

 ぜひさまざまな「体験」をしてください。

 どうしても「体験」できないことは、「取材」をしましょう。

「取材」してもわからないのであれば、関連情報から妄想するか、いっそ書かないかを選ぶべきです。

「食材」がじゅうぶんに集まったら、いよいよ「あらすじ」の段階まで進むことになります。

「あらすじ」は、集めた「食材」をどのような手順で調理していくかを考えることです。

 本コラムをここまでお読みいただいた方にとっては、簡単だと思います。



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