927.文法篇:比喩は一次元の芸術に欠かせない
今回は「小説に比喩は欠かせない」ことについてです。
ですがありきたりな比喩は安易に使わないでください。一段低く評価されてしまいます。
比喩は一次元の芸術に欠かせない
小説や俳句などの文字だけで表現される「一次元の芸術」では、「比喩」を巧みに使いこなせるかが問われます。
しかし、ありきたりな「比喩」は逆効果です。
ありきたりな「比喩」。紋切型や慣用句、常套句とも呼びます。
ありきたりな「比喩」を安易に用いない
紋切型、慣用句、常套句はすでに多くの書き手が用いてきて、手垢にまみれた存在です。
そんな慣用句はあなたの個性を表現する手助けにはなりません。
最低限の表現はできるでしょう。ですがそれだけです。
「逆転のチャンスにポール際への大ファールを打った後の空振り三振で、肩を落としてベンチへ帰ってきた。」
気落ちしたことの慣用句「肩を落とす」ですが、ずいぶんと手垢まみれですよね。
とくに重要でない場面で用いるのであればそれでもかまいません。ですが、今回は「ここでホームランが入っていたら逆転できたのに」という悔しい場面です。
重要だと思いませんか。ここで流れを変えられたのに、という大一番。
たとえば「意気消沈してベンチへ帰ってきた。」という四字熟語を用いたらどうでしょうか。
これでも悪くはないと思います。しかし、四字熟語も慣用句のひとつなのです。
「落胆して帰ってきた。」はどうでしょうか。これは漢語動詞ですがストレートな物言いだと思います。
「気落ちして帰ってきた。」ならば。和語動詞になりましたので、バリエーションの中の基本形です。一周回って「比喩」がなくなりました。
ここであなたは考えなければなりません。
この場面で最適な表現はどれなのか。
「肩を落として」「意気消沈して」「落胆して」「気落ちして」のいずれを使うのか。それともまったく新しい「比喩」を生み出すのか。
おそらく多くの書き手はまったく新しい「比喩」を作ろうとはしません。前出の四パターンのいずれを選ぶはずです。
だって、そのほうが時間がかかりませんから。
毎日連載をすると、時間はとても貴重に感じられます。
その中でたった一文のためにまったく新しい「比喩」を考えていたら、いつまで経っても原稿は完成しないのです。
しかし「小説賞・新人賞」へ応募する作品では慣用句を避け、まったく新しい「比喩」を考えなければなりません。
まったく新しい「比喩」には、書き手のセンスが明確に表れるからです。
いくらでも生み出せるだけの「文才」があれば、選考さんから高い評価を受けます。
まず一次選考はかるく突破できるでしょう。
「お預けの挙げ句エサをもらえなかった子犬のような様子でベンチへ帰ってきた。」
さすがにこんな「比喩」を書く人はいませんよね。
ですが、こういうまったく新しい「比喩」をひとつでも思いつけるかどうか。そこに「文才」が映り込むのです。
目の肥えた選考さんにも小説投稿サイトの読み手にも、まったく新しい「比喩」はとても輝いて見えます。
あなたはこの場面で、三振してベンチへ帰ってくるバッターにどんな「比喩」を使いたいですか。
考えてみてください。
たったひとつでもかまいません。
的外れでもよいのです。
とにかく頭を巡らせて、まったく新しい「比喩」を思いつこうともがきましょう。
すぐにはできないことでも、考え続けることで回路が突然つながることがあります。
まったく新しい「比喩」を思いつけるときが必ずやってくるのです。
この壁を突破できない書き手は、「小説賞・新人賞」で勝ち残れません。
漫然と連載するのではなく、毎回ひとつの「比喩」をまったく新しい「比喩」で書けないかに挑戦してください。
毎回ひとつでもまったく新しい「比喩」が書かれてあれば、それが読み手に新鮮さをもたらします。
読んでいて惹き込まれるのです。
手間を惜しまず、毎日連載のたった一箇所をまったく新しい「比喩」にしてみる。
それが「小説賞・新人賞」の一次選考を通過する条件のひとつです。
手垢まみれでも「比喩」を積極的に使う
たった一箇所をまったく新しい「比喩」表現にするとして、残る部分はどうしましょうか。
これは手垢まみれの「比喩」でもかまわないのです。
慣用句、紋切型、常套句を積極的に使いましょう。
「文章読本」の中には「紋切型や常套句は平易な語句に置き換えましょう」と提唱するものもあります。
しかしそれは小論文や新聞記事を書くような方に向けたアドバイスであり、小説を書くことには通用しません。
小説は「比喩」があってこそ情景が思い浮かぶのです。慣用句、紋切型、常套句を積極的に使って、読み手に共通の情景を思い浮かべさせます。だからこそ、誰が読んでも同じ内容の物語を楽しめるのです。
「一文字の眉」「氷の微笑」のような使い古された言い回しも積極的に用います。
「あなたは僕にとっての太陽だ。」なんていう古典の言い回しでもかまわないのです。
たった一箇所を引き立てるために、残りはありきたりな「比喩」で片付けて、綺麗サッパリと平穏な文章に仕立てます。
だからこそ、たった一箇所のまったく新しい「比喩」が生きてくるのです。
慣用句、紋切型、常套句をどれだけ知っているのか。それが試されます。
多様な表現ができてこそ、まったく新しい「比喩」が輝いて見えるのです。
そもそも、「比喩」のない小説はありません。それはただの報告文です。
一人称視点の視点保持者からどのように見えているのか。それを読み手にイメージさせるには「比喩」を用いるほかないからです。
もし「比喩」ではなく具体的な数字や名称を書いたらどうなるか。やはりただの報告文になります。
報告文は読んでもまったく感情移入できず感動できません。
しかし小説は「比喩」を使いこなすことで、読み手が感情移入します。
だからこそ、小説には人の心を動かす力があるのです。
ワクワク・ハラハラ・ドキドキを味わいたいから小説を読む。
引き出すのは「比喩」の力です。
「比喩」は読み手を感情移入させるためにある。
そう考えて、積極的に「比喩」を用いましょう。
最後に
今回は「比喩は一次元の芸術に欠かせない」ことについて述べました。
「比喩」には直喩や暗喩などのほか、慣用句、紋切型、常套句も含みます。
これらを多用して、読み手にイメージを伝えること、感覚や感情を伝えること。それが小説には必要です。
「文章読本」に書いてあるのは、小論文やレポートの書き方であって、小説の書き方ではありません。
この違いを理解すれば、「比喩」がいかにたいせつかわかります。
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