923.文法篇:書き言葉と話し言葉

 今回は「書き言葉と話し言葉」についてです。

 一人称視点であっても、基本的に地の文での「説明」は書き言葉、会話文は話し言葉で書きます。

 もっと深くまで読み手を近づけたいのなら、地の文も話し言葉で書いてかまいません。

 ただし、馴れ馴れしい語り口になることだけは承知しておいてください。





書き言葉と話し言葉


 日本語には「書き言葉」と「話し言葉」があります。

 主要な外国語にはこのような使い分けがありません。

 しかし俗語スラングという、日本語の「江戸っ子口調」のようなものがあるのです。

 日本語の「話し言葉」はこういった俗語スラングではありません。

「話すための言語」として「書き言葉」とは区別されています。

 この日本語特有の「書き言葉」と「話し言葉」の乖離が、小説を書くうえでの重荷となるのです。

 以下に代表的な「書き言葉」と「話し言葉」をまとめました。




書き言葉と話し言葉の対応

接続詞

(書)しかし、だが ⇔(読)でも、てゆうか

「しかし、問題が解消されるか甚だ疑問だ。」⇔「てゆうか、問題が解消されるのかよくわかんないし。」

(書)だから、それで ⇔(読)なので、なんで

「だから、誰も文句が言えないのだ。」⇔「なので、誰も文句が言えないんだ。」

(書)そうであるのに ⇔(読)なのに

「そうであるのに、誰も不満を口にしない。」⇔「なのに、誰も愚痴を言わない。」

接続助詞

(書)のは、とは、などは ⇔(読)なんて

「今どきうさぎ跳びとは時代遅れも甚だしい。」⇔「今どきうさぎ跳びなんて時代遅れもいいところだ。」


副詞

(書)とても、ひじょうに ⇔(読)とっても、すごく

「とても驚いた表情を見せた。」「ひじょうに驚いた表情を見せた。」⇔「とっても驚いた表情を見せた。」「すごく驚いた表情を見せた。」

(書)きちんと ⇔(読)ちゃんと

「乾いた食器は棚にきちんと戻しなさい。」⇔「乾いた食器は棚にちゃんと戻すのよ。」

(書)やはり ⇔(読)やっぱり、やっぱし

「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」⇔「やっぱし俺の青春ラブコメはまちがってる。」


省略

(書)では ⇔(読)じゃ、じゃあ

「では、提案の中身を精査しましょう。」⇔「じゃあ、提案の中身を精査しよう。」

「廊下を走るものではありません。」⇔「廊下を走るものじゃないよ。」

(書)している ⇔(読)してる ※「い抜き言葉」とも言います。

「息をしている、感じている」⇔「息をしてる、感じている」

(書)けれども、けれど ⇔(読)けど

「けれども世の中そんなにうまくはいきませんでした。」⇔「けど世の中そんなにうまくはいかなかった。」

(書)いろいろな、さまざまな ⇔(読)いろんな

「さまざまな料金プランを取り揃えています。」⇔「いろんな料金プランを用意してます。」


変化

(書)のよう ⇔(読)みたい

「まるで陽炎のようだ。」⇔「ちょうど陽炎みたいだ。」

(書)よろしいですか ⇔(読)大丈夫ですか

「ご注文は以上でよろしいでしょうか。」⇔「ご注文は以上で大丈夫ですか。」

(書)です、ます ⇔(読)じゃん

「持久走はつらい思いをします。」⇔「持久走はたいへんじゃん。」


 この他にもまだまだありますが、すべてをまとめようとすれば何万字必要かわかりません。

 ここでは目につくものだけを取り上げました。




話し言葉は一人称視点で用いる

「話し言葉」は主人公の一人称視点の地の文に用います。また会話文では当然「話し言葉」を使うのです。

 主人公の性格を最も物語るのは、一人称視点で地の文です。

 生真面目なキャラか、チャラいキャラか、臆病なキャラか。

 地の文での描写にその差が表れます。

 もちろん会話文もキャラ作りには不可欠ですが、話し相手がいなければ会話文の使い出はありません。

 だから主人公の見たこと、聞いたこと、感じたこと、思ったこと、考えたことを語り手となって読み手へ与えるときは「話し言葉」がよいのです。




書き言葉は客観的な場面で使う

 三人称一元視点、三人称視点の場合、地の文は「書き言葉」を使うことになります。

 これらは主人公と若干距離があり、主人公の心の声を地の文に書くのが難しいからです。

 そして一人称視点においても、主人公の意識が及ばないような、世界観や舞台、場面シーンの「設定」を書くときに用います。

「書き言葉」は主観や感情のこもらない、「設定」を淡々と書くのに向いているのです。

 一人称視点の小説を書き慣れている方には少しハードルが高いとは思います。

 しかし「書き言葉」はたとえば「小説賞・新人賞」受賞後に出版社の担当編集さんとメールのやりとりをする際、必ず用いなければなりません。「話し言葉」で書いてしまったら、おそらく「マナーがなっていない」と感じさせて、「紙の書籍」化が後れる可能性も出てきます。担当編集さんとの信頼関係を築くには、メールは「書き言葉」で書けるようになりましょう。





最後に

 今回は「書き言葉と話し言葉」についてまとめました。

 主人公の一人称視点なら地の文を「話し言葉」で書けます。

 三人称視点を用いるのであれば地の文は「書き言葉」で書かなければなりません。

 あなたがどちらを選択するかで異なります。

 しかし「とりあえず今話しているように小説を書きたい」とお考えなら、主人公の一人称視点にして地の文も「話し言葉」で書けるようにするべきです。

 地の文を「話し言葉」で書いて「小説賞・新人賞」が獲れたら、そのときに「書き言葉」を勉強してもよいでしょう。ただし、付け焼き刃であることは承知しておかなければなりません。



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