922.文法篇:くらい・ほど・ばかりの使い分け

 今回は「おおよその数量」についての表現を見ていきます。

 重ね言葉になりやすいので、気をつけてくださいませ。





くらい・ほど・ばかりの使い分け


 おおよその数量や程度を表す助詞に「くらい」「ほど」「ばかり」があります。

 明確な数字を定めないのが共通点です。

 その役割はほとんど同じですが、少しずつ違いがありますので、見ていきましょう。




いちばん用いられている「くらい」

 この三つの中で、最も用いられているのは「くらい」です。

「駅から歩いて五分くらいかかる。」

「百メートルくらい離れている。」

「二百キログラムくらいあるバーベル。」

「宝くじで十億円くらい当たらないかな。」

 時間・空間・重量などの数量をおおよそしか書かないときには、「くらい」がとても便利に機能します。

 丁寧すぎず、卑俗すぎず、バランスがとれているため、話し言葉では「くらい」が標準です。




古風な響きのある「ほど」

「駅から歩いて五分ほどかかる。」

「百メートルほど離れている。」

「二百キログラムほどあるバーベル。」

「宝くじで十億円ほど当たらないかな。」

 このように「くらい」と同じように使える助詞が「ほど」です。

「それと同じ程度」の意味合いがあります。

 しかし「くらい」よりも若干古びた響きのある語句だと感じませんか。

 そのため書き言葉では「ほど」が標準です。

 会話文では「くらい」を使い、地の文では「ほど」を用いる。

 そんな使い分けをすればよいでしょう。




あいまいさを増して丁寧さを感じる「ばかり」

「くらい」「ほど」とそれなりに互換性がありながらも、丁寧さを表す助詞が「ばかり」です。

「五十万円ばかりお貸しいただけませんか。」

 これを、

「五十万円くらいお貸しいただけませんか。」

 と書くだけで金額に生々しさが出てしまいます。

「五十万円」という金額をそれとなく示して、奥ゆかしさを表現しているのです。それを逆手にとった卑屈さを感じさせもします。

「旦那。百両ばかり恵んでくださらなんかね。」

 野卑な小男が言葉だけ下手に出て、たかっているような印象を受けるはずです。

「十人ばかり、精鋭を用意した。任務の達成に期待する。」

 これは明確な数字を出しているのですが、あえてぼかすことで角が立たないように配慮した物言いになっています。

「十人くらい、精鋭を用意した。」はあやふやな人数を感じさせます。

「十人ほど、精鋭を用意した。」は「十人ばかり」と同じように機能しますが、より具体的な数字を挙げているのです。だから「十人ほど」は「十人」ちょうどの場合が多い。

「十人ばかり」は「十人ほど」よりもあいまいさを増した表現であり、「ざっくり数えると」の意味になります。

 また「ばかり」には「同じ言葉ばかりじゃない。たまには気の利いた言葉でもかけてくれたっていいのに。」のように、「繰り返し」の意味を持たせた表現もあるのです。




「ばかり」の派生形は「くらい」よりも砕けた表現

 丁寧さのある「ばかり」にはいくつかの派生形があります。

「ばかし」「ばっかり」「ばっかし」です。

 いずれも口語的で、「くらい」よりさらに砕けた表現になります。

 それは「旦那。百両ばかり恵んでくださらんかね。」が持っていた卑俗さを強調するからです。

「五十万円ばかしお貸しいただけませんか。」

「五十万円ばっかりお貸しいただけませんか。」

「五十万円ばっかしお貸しいただけませんか。」

「ばかし」は「ばかり」の語尾変化になりますので、「ばかり」よりも砕けた表現になります。

「ばっかり」は「ばかり」に「っ」を加えて強調して話したいときに使いますし、「ばっかし」は「ばかし」を強調して話すときに用いるのです。

 だからどれも会話文で用いることが多い。


 丁寧な順に並べ替えるなら、「ばかり」「ほど」「くらい」「ばかし」「ばっかり」「ばっかし」になります。




助詞以外でおおよその数量を表す語句

 以上は助詞について述べました。

 他にも「おおよその数量」を表す語句があります。

 名詞は「がらみ」「見当」です。

「六十がらみの男でした。」

 この「がらみ」は年齢や値段を表す数詞に付いて「それくらい」の意があります。

「支払いは割り勘で三千円見当になる。」

 この「見当」は「見込みとしてだいたい」の意味で使われます。よく「見当違いでした。」のように用いられる表現は「見込み違いでした。」ということです。


 副詞は「約」「およそ」「ざっと」があります。

「『孫子』は約二千五百年前に書かれた、世界最古にして最高の兵法書である。」

 この「約」はおおまかな数量を述べるときによく使いますね。おそらく「くらい」と並んでよく用いられるのです。

「南海トラフ巨大地震の想定被害額はおよそ千二百四十兆円と試算されている。」

 この「およそ」は「正確ではないがだいたい」の意味です。

「香港の雨傘デモにはざっと百四十万人が集まった。」

 この「ざっと」は「大づかみに見積もって」の意味があります。




重ね言葉に注意

 ここに挙げた語句はすべて「ひとつだけで」おおよその数量や程度を表しています。

 ふたつ以上盛り込んでしまうと「重ね言葉(重言)」となり、文の品位を貶めます。

 ですので「約百人ほど集めました」も「およそ千年ばかり前の逸品」も「ざっと7Gくらいの負荷がかかった」も、すべて「重ね言葉(重言)」です。

「重ね言葉」は文章評価を著しく落とします。「たくさん盛り込めばすごいと思ってくれる」意図は小学生となんら変わりません。

 中高生が対象の「ライトノベル」であっても、「小学生の意図」なんて読ませてはならないのです。

「重ね言葉」にはくれぐれもご用心くださいませ。





最後に

 今回は「くらい・ほど・ばかりの使い分け」について述べました。

 ほとんど同じ語句ですが、意味合いが少しずつ異なります。

 その違いを考慮して用いてください。

 また重ね言葉をしやすいので、注意を払って用いるようにしましょう。



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