921.文法篇:せい・おかげの使い分け

 今回は「せい」と「おかげ」の使い分けについてです。

 それぞれよくない原因・理由と、よい原因・理由の意味があります。

 これがうまく噛み合っていないと嫌味を言われた気になるのです。





せい・おかげの使い分け


 違いがわかりやすいのに、つい間違えて使ってしまう語があります。

「せい」と「おかげ」は、ともに原因や理由を述べるために用いるのです。

 しかし、その前提はまるで逆です。




よくないことの責任をなすりつける「せい」

「台風が近づいてきているせいで、風が強くなって花火大会が中止になった。」

「失敗を人のせいにするな。」

「電車が遅れたせいで、出社時刻に間に合わなかった。」

 すべてよくないことが前提になっています。

 もし、よい前提に「せい」を使うと、おかしなことになるのです。

×「教授のご指導のせいで、無事に卒業論文が仕上がりました。」

×「あなたのせいで、プロテストに合格しました。」

 本来ならお礼を言うべき状況です。なのに「せいで」を用いたため、結果の責任をなすりつけるような印象を読み手に与えてしまっています。

「本当なら卒論なんて仕上げたくなかったのに、教授の指導があったため無事完成してしまいました。」という「皮肉」たっぷりな表現になったのです。

「本来なら風が強まってほしくはなかったのに、台風が近づいてきたため花火大会が中止になった。」これなら構造は正しいことがわかります。

「よくないことの責任をなすりつける」のが「せい」の機能なのです。




よいことのありがたさを伝える「おかげ」

「教授のご指導のおかげで、無事に卒業論文が仕上がりました。」

「あなたのおかげで、プロテストに合格しました。」

 すべてよいことが前提になっています。

 もしよくないことの前提に「おかげ」を使うと、こちらもまたおかしなことになります。

×「台風が近づいてきているおかげで、風が強くなって花火大会が中止になった。」

 まるで花火大会が中止になってほしかった、かのように受け取れます。

×「失敗を人のおかげにするな。」

 これも、まるで失敗してほしかった、かのように読めるはずです。

×「電車が遅れたおかげで、出社時刻に間に合わなかった。」

 やる気のまったくない新入社員のような印象を受けます。


 このように噛み合わないことを利用して「皮肉」を言う表現もあります。

「君のミスのおかげで、残業させていただきましたよ。」

 嫌味がたっぷり含まれた「皮肉」です。

「皮肉」を表現する方法は他にもありますが、セリフひとつで「皮肉」が伝えられる点で「おかげ」はとても便利に活用できます。

 純朴な登場人物だけが出てくる作品にもじゅうぶん価値はあります。

 しかし、ひとりは皮肉屋がいれば、ユーモアにあふれた情緒豊かな作品に仕上がるのです。




原因や理由を表すその他の語句

「せい」「おかげ」以外にも、原因や理由を表す語句はあります。


 たとえば「結果」。「せい」とも「おかげ」とも置き換えられます。しかし前提がよいことでもよくないことでもなく、中立になるのです。

「汗水垂らして働いた結果、高い評価が得られた。」

○「台風が近づいてきている結果、風が強くなって花火大会が中止になった。」

○「教授のご指導の結果、無事に卒業論文が仕上がりました。」


 たとえば「から」。動詞や形容詞・形容動詞の終止形に付けて用います。「せい」と置き換えられますが、「おかげ」とは置き換えられません。

「おいしそうだったから、先に食べちゃったよ。」

○「台風が近づいてきているから、風が強くなって花火大会が中止になった。」

×「教授のご指導を仰いだから、無事に卒業論文が仕上がりました。」


 古めかしいですが「ゆえ」もありますね。

「貧しいがゆえに、かっぱらいに手を染めてしまった。」

○「台風が近づいてきているゆえ、風が強くなって花火大会が中止になった。」

×「教授のご指導を仰いだゆえ、無事に卒業論文が仕上がりました。」


 次に「ため」。「せい」は置き換えられますが、「おかげ」はかなり怪しくなります。

「国王の寵愛を受けたために、彼女はねたまれた。」

○「台風が近づいてきているため、風が強くなって花火大会が中止になった。」

△「教授のご指導のため、無事に卒業論文が仕上がりました。」


 他にも原因・因果の「因」という字には、「もとづく・つながる」の意があります。

 そのため「因」の字を用いた漢熟語は、原因や理由を表す語句になりえるのです。

「真因」(真の原因)・「要因」(主な原因)・「一因」(原因のひとつ)・「素因」(もととなる原因)・「外因」(外部の原因)・「内因」(内部の原因)・「動因」(事件などを引き起こす直接原因)・「遠因」(遠い間接的原因)・「起因」(それを原因としてなにかを起こすこと)・「成因」(物事の出来あがる原因)・「誘因」(ある作用を引き起こす原因)の類いです。

 他にも、勝因・敗因・病因・死因・訴因など、特定の原因があります。

 また「賜物」という語句も原因や理由を表す語句として使えるのです。





最後に

 今回は「せい・おかげの使い分け」の使い分けについて述べました。

「せい」はよくない原因や理由に付けるもの、「おかげ」はよい原因や理由に付けるものです。

 よくない原因に「おかげ」を使うことで、嫌味のある「皮肉」を込めることができます。

 作中に「皮肉」があるだけで、表現は多彩になるのです。

 アニメ『機動戦士ガンダム』ではカイ・シデンが「皮肉屋」の役割を努めています。カイがいたから『ガンダム』は多くの支持を集めたのです。

「おかげ」にはそんな魔力があります。



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