915.文法篇:へ・に・までを正しく使い分ける

 今回は行く先を表す助詞「へ」「に」「まで」の使い分けについてです。

 すべて同じように感じている方は注意しましょう。

 指しているものが根本から違うのです。





へ・に・までを正しく使い分ける


 行く先を表す助詞に「へ」「に」「まで」があります。

 これらは行く先の状況によって使い分けてください。

 この三つの助詞は以下が違っているのです。




行く方向を示す助詞「へ」

「東海道新幹線で、新大阪駅から東京駅へ向かう。」

 これは助詞「へ」の一般的な使われ方です。

「新大阪駅」を発して「東京駅」のある方向を目指している、という意味合いになります。

 方向を示す品詞に「ほう」があります。

「新大阪駅から来ました。」と「新大阪駅のほうから来ました。」という二つの文。

 前者は「どこから来たか明確に出発点が」わかります。

 後者は「どこの方向から来たかが」わかります。

 これは助詞「に」と助詞「へ」の違いと同じです。




行く先(目的地)を示す助詞「に」

「東海道新幹線で、新大阪駅から東京駅に向かう。」

 これは助詞「に」の一般的な使われ方です。

「新大阪駅」を発して目的地「東京駅」を目指しています。

「目的地」が明確で、たどり着くために移動しているのです。

 向かう方向に助詞「へ」、向かう目的地に助詞「に」が用いられます。

「渋谷駅前交番に集合」と「渋谷駅前交番へ集合」では、「渋谷駅前交番に集合」のほうが集まる場所が明確ですよね。




消防署のほうから来ました問題

 前述した助詞「へ」と助詞「に」の関係を、「消防署のほうから来ました。消火器を点検させてください。」問題と名付けます。

「消防署から来ました。消火器を点検させてください。」は「出発点」が明確です。これは「目的地」が明確な助詞「に」に対応しています。

 しかし「消防署のほうから来ました。消火器を点検させてください。」は「出発点」があいまいです。「消防署」の方向から来た、というだけで「消防署」そのものから来たことの証明にはなりません。

 だますほうは誤ったことは言っていないのです。「消防署のある方向から来た」ことだけは正しいのかもしれません。

 ですが、だまされた側は「ウソを信じてしまった。なんて自分は馬鹿だったんだ」と嘆くのです。

 詐欺師の言ったことは「ウソではない」。ここが重要です。


 助詞「に」と助詞「へ」の違いを「消防署のほうから来ました」詐欺の逆から考えてみましょう。

 助詞「に」は目的地を明確に示しています。つまり「新大阪駅を出発した東海道新幹線は、東京駅が目的地だ」ということです。これは「消防署から来ました」と同じ。

 助詞「へ」は方向を示しています。「消防署のほうから来ました」詐欺と同じです。途中名古屋で降りてもよいし、静岡で降りてもよい。ただ単に「新大阪駅を出発した東海道新幹線は、東京駅方面に向かった」ということを示しているのです。方向だけが示されていて、「到達点」「目的地」がわかりません。だから「消防署のほうから来ました」詐欺と同じなのです。


 また「銃口を人へ向けてはならない。」と「銃口を人に向けないでください。」は、助詞「へ」は銃口を向けようとしている立場からの文であり、助詞「に」は銃口を向けられている立場からの文です。


 この基本を憶えておけば、助詞「に」と助詞「へ」の取り違えは防げます。




目的地までの道中を示す助詞「まで」

「東海道新幹線で、新大阪駅から東京駅まで向かう。」

 これは助詞「まで」の一般的な使われ方です。

「新大阪駅」と「東京駅」間、つまり道中を明示するのが助詞「まで」になります。

 出発地「新大阪駅」から到着地「東京駅」の間の出来事を書きたい場合は、助詞「まで」の出番です。

 道中に出来事イベントが起こらなければ、助詞「まで」を使用するのは適当ではありません。

 アガサ・クリスティー氏『オリエント急行の殺人』(『オリエント急行殺人事件』とも呼ばれる)は、出発地から到着地までに起こる殺人事件を読ませるミステリー小説です。

 主人公の名探偵エルキュール・ポアロが登場するシリーズで、イスタンブール発カレー行きのオリエント急行に乗ってポアロがイギリスへ帰国しようとしているというのが導入になります。

 雪にハマって立ち往生しているオリエント急行で起こった殺人事件。意外な方向から乗客たちの論理を破綻させようとするポアロの活躍が描かれています。

 このように「〜から〜まで」が明確であれば、その間に出来事イベントが起こるのです。起こらないのであれば、助詞「まで」は不適切になります。




「に」「へ」「まで」の差異の一例

 大型家電を買ってマンションの十階に運び込んでもらうとしましょう。

「冷蔵庫を十階に上げるのはたいへんだった。」は、十階にいて話しています。

「冷蔵庫を十階へ上げるのはたいへんだった。」は、下から見上げて話しています。

「冷蔵庫を十階まであげるのはたいへんだった。」は、途中の苦労を話しています。

 また「かくれんぼ」をしていたとしましょうか。

「ここまで来れば、大丈夫だ。」は追跡を苦労して振り切り、もう安心という感じです。

「ここに来れば、大丈夫だ。」は格好の隠れ場に着いた感じです。

「あそこへ行けば、大丈夫だ。」はこれから向かうときに用います。

「あそこに行けば、大丈夫だ。」は着いたときのことをイメージしています。


 いずれもニュアンスが微妙に異なっているのです。





最後に

 今回は「へ・に・までを正しく使い分ける」ことについてまとめました。

 いずれも行動の行き先について用いる助詞ですが、意味するところにはかなりの差異があります。

 この違いを正しく使い分けられるのか。

 文章力を計るうえでも、避けては通れない助詞です。



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