916.文法篇:で・にを正しく使い分ける

 今回は「で」と「に」の使い分けについてです。

 場所を表す助詞は「で」「に」の二種類あります。

 どの場面で使えばよいのかを検証してみます。





で・にを正しく使い分ける


 動作はたいてい人間の意志によって行なわれます。

「会議を開く」「食事をする」「スクラムを組む」「書籍を買う」などです。

 しかし予期せぬ出来事は起こるもので、「心を盗まれる」「財布を落とす」「邪魔が入る」などもあります。




人間の意志による動作には助詞「で」

 助詞「で」と助詞「に」はどちらも場所を表すために用います。

 人間の意志によって行なわれる動作には助詞「で」が使われます。

「大ホールで会議を開く」これが自然です。もし「大ホールに会議を開く」と書けば違和感があります。「大ホールに会議の予約を入れる」という文なら、助詞「に」でも場所が書けますが、動詞が変わってしまいますよね。

「料亭で食事をする」これが自然です。もし「料亭に食事をする」と書けば違和感。これも「料亭に食事の予約を入れる」と書けば成立します。なにか「予約を入れる」ばかりになってしまいますね。

「フィールド上でスクラムを組む」これが自然です。もし「フィールド上にスクラムを組む」では違和感しか残りません。「フィールド上にスクラムが組まれる」なら成立しそうですが、これは「フィールド上でスクラムが組まれる」でも成立するので基本は後者になります。

「アマゾンで書籍を買う」これが自然です。もし「アマゾンに書籍を買う」では違和感だけ。「アマゾンに書籍を買う予約を入れる」これなら助詞「に」でも成立します。また「予約を入れる」ですね。「アマゾンに書籍が買われる」これは文意が異なりますが文としては成立しています。

「カリオストロ城で心を盗まれる」これが自然です。「カリオストロ城に心を盗まれる」だと「お城に心を奪われた」ように感じませんか。これが「ルパンに心を盗まれる」なら本来の意味を果たせます。二つの文を合わせると「カリオストロ城でルパンに心を盗まれる」これなら成立します。しかし助詞「に」は場所を意味していませんよね。


 ここまでで気づかれた方もいらっしゃると思います。

 助詞「で」は自発的な動詞で場所を指しているのです。

 そして助詞「に」は受動的な動詞で場所を指しています。

「予約を入れる」は、自発的な「入る」と対になる受動的な「入れる」が使われているから成立するのです。

 そして「スクラムが組まれる」も「書籍が買われる」も受動形になっています。


 以上のような具合です。

 いずれも自発的な動詞では、助詞「で」が場所を指しています。

 受動的な動詞では、助詞「に」が場所を指すのです。

「山場で邪魔が入る」「タクシーの中で財布を落とした」

 これも成立しているように見えますが、実は成立していません。




物のありようには助詞「に」

 では上記した中で助詞「に」を使って成立している文を抜き出します。

「大ホールに会議の予約を入れる」「料亭に食事の予約を入れる」「フィールド上にスクラムが組まれる」「アマゾンに書籍を買われる」

 いずれも動詞の受動形です。

 しかし能動的な動詞でも助詞「に」が場所を指すことがあります。


「山場で邪魔が入る」と「タクシーの中で財布を落とした」は、ともに場所を指しているように見えます。

 そうなのです。あくまでも見えるだけであり、実際には場所を指していません。




助詞「で」はタイミング、助詞「に」は場所

 たとえば、

「山場で邪魔が入る」なら、邪魔が入るタイミングは「山場」に差しかかったときです。

「山場に邪魔が入る」なら、邪魔が入る場所は「山場」ということになります。

 また、

「タクシーの中で財布を落とした」なら、財布を落としたタイミングは「タクシーの中」にいたときです。

「タクシーの中に財布を落とした」なら、財布を落とした場所は「タクシーの中」ということになります。


 おわかりいただけたでしょうか。

 助詞「で」はタイミングを指し、助詞「に」が場所を指しているのです。

「黒猫が庭影でじっと動かないでいる」

「黒猫が庭影にじっと動かないでいる」

 助詞「で」は場所を指していますが、同時にタイミングも窺っています。黒猫の意志でそこにいる印象を受けます。

 助詞「に」は明確に場所だけを指しています。黒猫に意志などなく、そこに置かれているだけの存在に映るのです。


 この助詞「で」と助詞「に」の違いに気づけば、使い方を誤ることもないでしょう。





最後に

 今回は「で・にを正しく使い分ける」ことについてまとめました。

 どちらも場所を指す助詞ですが、自発的な動詞では助詞「で」、受動的な動詞では助詞「に」を用います。

 そして受動的な動詞であっても、タイミングを指すのが助詞「で」、場所を指すのが助詞「に」になる場合があるのです。

 ちょっとした意識付けだけで、使い方を誤ることは防げるはずです。



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