914.文法篇:的・性・化、省けませんか(毎日連載850日目)
今回は「的・性・化、省けませんか」についてです。
なんでも「的」「性」「化」を付ければそれなりなことを言っている気になってしまいます。
そんな気になっているだけで、実際はそれほど伝わっていません。
それなら省いてみればよいのです。
的・性・化、省けませんか
「個人的見解を申し上げれば、」「信頼性が高まる。」「不祥事が顕在化する。」
ここに出てきた「的」「性」「化」は必要な言葉でしょうか。
的は「の」の意味
元々中国語で「的」は、日本語の助詞「の」に相当する語です。
しかし「の」と言うより「的」と言ったほうがカッコよく見える、という理由から「的」を使う方が多い事実があります。
上記した「個人的見解」は、今ではすっかり見慣れた言葉です。ですが、本来の「個人の見解を申し上げれば、」ですんなり読めます。読めてしまうのです。
たとえば「核心的利益」の的は「核心となる利益」「核心の利益」で問題ありません。
「国際的貢献」は「の」ではなく、省くことで「国際貢献」と表記できるのです。
しかも「個人的見解」「核心的利益」は漢字が五文字も連なっているため、読みづらく難解な印象を受けます。
「庶民的感覚に立った政治のあり方。」も「庶民の感覚に立った政治のあり方。」でまったく問題ありません。
「的」は「の」であったり省いたりしても文は成立するのです。
似た表現に「的な」という言葉があります。
「個人的な見解」「核心的な利益」「国際的な貢献」「庶民的な感覚」のように、単に「的」を用いると漢字五文字が生成されるのが嫌いな方がよく用いる手法です。
しかしこれは「的」となんら変わるところがありません。
「個人の見解」「核心の利益」「国際貢献」「庶民感覚」と意味合いはまったく同じです。
「わたし的な意見ですが、」は和語「わたし」に「的な」を付けています。最近の若い方に多い言い回しです。
これは「わたしとしての意見ですが、」「わたしの意見ですが、」でじゅうぶん伝わります。さらに縮めるなら「
「的」は水増し語のひとつである。そう認識していただいてかまいません。
あなたが文章を書いていて「的」という字を使いそうになったら、意識して「的」を使わなくても表現できないか、を考えてください。
「的」が用いられているだけで、「小説賞・新人賞」の一次選考を通りにくくなります。
「的」を用いずに文章を表現できるほどの文章力があるのかどうか。
一次選考でつまずく方は、ぜひ文章を見直しましょう。
多く用いられているようなら、「どうすれば「的」を用いずに文章が書けるか」を真剣に取り組んでください。
性は「こと」の意味
「敵が先に動く可能性がある。」「この出来事は起きる必然性がある。」「犯罪件数の増加のデータには具体性がある。」「この殺人は連続犯との関連性が薄い。」の「性」の字も多用されます。
「敵が先に動く可能性がある。」は「敵が先に動くことがある。」です。
「この出来事は起こる必然性がある。」は「この出来事は起こる必然がある。」と「性」を省いてもでまったく問題がありません。
「犯罪件数の増加のデータには具体性がある。」はちょっと複雑になります。「犯罪件数の増加のデータは具体的である。」と書く方法もありますが、これでは「的」を省くという趣旨に反するのです。ではどうするのか。
「実体が明らかである。」と「具体」の意味を書きましょう。「具体」とは「実体を
「犯罪件数の増加のデータは実体が明らかである。」とします。「データは」と「実体が」が似通っているため前者を削って「犯罪件数の増加の実体は明らかである。」としても読み手に通じるでしょう。
「この殺人は連続犯との関連性が薄い。」は「この殺人は連続犯との関連が薄い。」と素直に「性」を省けるパターンです。
化は「する」の意味
「環太平洋諸国はTPPで共存共栄化を図るべきだ。」
これは「環太平洋諸国はTPPで共存共栄を図るべきだ。」と「化」を省いても通じます。「化」に意味を持たせたければ、「環太平洋諸国はTPPで共存共栄するべきだ。」です。「共存共栄する」を「共存共栄化」と表現しても得はありません。
「貿易の自由化を図る。」は形容動詞の名詞形を「化」で受けているため、そのまま「化」を省いたり「する」に置き換えたりすることができません。「貿易を自由にする。」
「重ね言葉」の観点からも、「化する」はあまりよろしくない表記です。
「化」が省けなくなった言葉もあります。「地球温暖化」「少子化」「映画化」などです。
これらから「化」を省いたとして、読み手に正しく伝わるでしょうか。今では「地球温暖化」「少子化」「映画化」は文章には欠かせない単語になっています。
無理やり「化」を省くのではなく、一般に普及した「化」はそのまま用いるほうが有効でしょう。
使わないに越したことはない
「的」「性」「化」は意識していないと多用してしまう、恐ろしい言葉です。
連発してしまうほど、文章レベルが低まります。
「具体的」「抽象的」「積極的」「消極的」「汎用性」「可能性」「温暖化」「少子化」のように、すでに定着しているものはそのまま使ってもかまいません。
悪いことに、「具体」「抽象」「積極」「消極」「汎用」は「的」「性」「化」のすべてにつなげられます。また「さ」につなぐこともできるのです。「具体的」「具体性」「具体化」「具体さ」、「抽象的」「抽象性」「抽象化」「抽象さ」、「積極的」「積極性」「積極化」「積極さ」、「消極的」「消極性」「消極化」「消極さ」、「汎用的」「汎用性」「汎用化」「汎用さ」となります。
これらはどんな使い方もできてしまいます。便利に使える言葉ですが、あまりにも便利すぎて表現が平凡になるようでは、よい小説とは呼べません。
「できるかぎり使わない」と決めておけば、表現力が一気に身につきます。
難しいですが、やってできない話ではないのです。
「的」「性」「化」をどれだけ少なくするのか。そこに書き手の実力が現れます。
最後に
今回は「的・性・化、省けませんか」について述べました。
使うととても便利な「的」「性」「化」ですが、あまりの便利さについ多用してしまうのです。
気がつけば、小説は「的」「性」「化」だらけになります。
しかも「伝わっている」と勘違いして使ってしまうのです。
「的」「性」「化」はいずれも「わかるような気になる」だけで、「正直わからない」文章を生みだします。
省けるものなら、省いてみませんか。
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