913.文法篇:重ね言葉で賞レースから脱落する

 今回は「重ね言葉」についてです。

 一見なんの変哲もない文でありながら、問題を抱えていることはよくあります。

 とくに「重ね言葉」は基本中の基本です。

 これができていないだけで、賞レースからは脱落してしまうでしょう。





重ね言葉で賞レースから脱落する


 どんなに華麗な比喩を用いても、どんなに面白い物語でも、「小説賞・新人賞」の一次選考を通過できない作品があります。

 理由が思い当たらない方は、ひょっとして「重ね言葉」をしてしまっているからかもしれません。




重ね言葉は文章を陳腐にする

「重ね言葉(重言)」とは、一文中で同じ意味の言葉を繰り返すことです。

 たとえば「馬から落ちて落馬する。」「骨が骨折して折れた。」「あらかじめ予定に組み込んであります。」のようなものです。

「馬から落ちて落馬する。」は、「馬から落ちる」から「落馬する」と言うのであり、まったく同じ出来事を指しています。

「馬から落馬する」「落馬して落ちる」も「馬」と「落ちる」を繰り返しているので「重ね言葉」です。

「重ね言葉」を解消するには、「馬から落ちる」か「落馬する」のいずれかにしましょう。

 ということは「骨が骨折して折れた」も「重ね言葉」であることがわかりますよね。こちらも「骨が折れる」から「骨折する」のであり、正しくは「骨が折れる」か「骨折する」かのいずれかです。


 他にもよく見られる「重ね言葉」を挙げてみます。

「犯罪を犯したら警察に捕まる。」もよく見ますが、「犯」の字が「重ね言葉」になっていますよね。

 正しくは「罪を犯したら警察に捕まる。」です。

「カラスにより生ゴミが荒らされる被害をこうむる。」もよく見ますよね。

 こちらは「カラスにより生ゴミが荒らされる害を被る。」です。「被害を受ける。」と書く方法もあります。

「精緻な加工を加える。」も「加工」と「加える」で「加」の字が「重ね言葉」になっています。

 こちらは「精緻な加工をする。」「精緻に加工する。」ですね。

「沿岸沿いに大量の魚が打ち上げられています。」も「沿岸」「沿いに」で「沿」の字がかぶっているため「重ね言葉」になります。

 正しくは「沿岸に大量の魚が打ち上げられています。」「海沿いに大量の魚が打ち上げられています。」のいずれかです。

「後になって後悔しても知らないぞ。」は「後」の字が重なっていて、「重ね言葉」なのは明らかです。


 では「あらかじめ予定に組み込んであります。」はよいのではないか。そう思う方もいらっしゃいますよね。ですが、これも「重ね言葉」です。

「あらかじめ」は漢字で「予め」と書きます。ということは「予め予定に組み込んであります。」は「予」の字が重なっているのです。そもそも「予定」とは「あらかじめ定める」意味があります。つまり「あらかじめ」という意味が重なっているのです。

「いまだ未完成のまま放置されているプラモデル。」も「重ね言葉」になります。こちらも漢字に直すと「未だ未完成」となって「未」の字がかぶっているので、「未完成のまま放置されているプラモデル。」が正解です。

「炎天下のもとで開催された高校野球。」は、「もと」を漢字にすると「下」になるのです。また「炎天下」には「炎天のもと」という意味がありますから、「炎天のもとのもと」となり、「重ね言葉」になっています。


 これらはいずれも漢字ですが、英語やフランス語などの外国語の言葉にも「重ね言葉」はあります。

「バーゲンセールの特売品。」は「セール」が「売る」という意味です。「特売品」の「売」とかぶりますよね。

「思いがけないハプニングに出くわした。」は「ハプニング」が「思いがけない出来事」のことなので「重ね言葉」です。「思いがけないサプライズ」も同様。

「ソニーはスマートフォンのカメラで世界一の製造メーカーだ。」は一見するとわかりません。

「メーカー」は「製造業者」のことなので「ソニーはスマートフォンのカメラで世界一のメーカーだ。」「ソニーはスマートフォンのカメラで世界一の製造業者だ。」となります。




漢字ではわかりづらい重ね言葉

 漢字ではわかりにくい「重ね言葉」もあります。

「商品の価格をバーゲンセールに合わせて値下げする。」

 気づかないかもしれませんが、これも「重ね言葉」になっています。「価格」の「価」も、「値下げ」の「値」もともに「あたい」という意味です。正しくは「商品の価格をバーゲンセールに合わせて下げる。」と書きます。


「かねてから懸念されている。」は「かねて」を「予て」と書きますから、漢字はバッティングしていません。ですが「懸念」には「前から問題になっていながら、まだ解決されていない」という意味があります。「かねて」は「あらかじめ」つまり「前から」という意味です。意味が「重ね言葉」になっているのです。

「私の立場は従来から変わっておりません。」は「従来」に「以前から」の意味がありますので、「以前からから」となってしまいます。ここは「私の立場は従来変わっておりません。」「私の立場は以前から変わっておりません。」とするべきです。

「インターハイの雪辱を晴らす。」の「雪辱」は「恥や汚名を消す」ことであり、「晴らす」もここでは「消す」ことを指しています。正しくは「インターハイを雪辱する。」または「インターハイの雪辱を果たす。」です。


「社長は次の後継者にすべてを一任して、辞意の意向を表明した。」

 この文の「重ね言葉」はわかりますか。漢字を見ると「辞意」と「意向」があることに気づきますよね。「辞意」は「辞める意向」のことですから「辞意を表明した」「辞める意向を表明した」のいずれかです。

 ちょっと待ってください。まだ「重ね言葉」は残っていますよ。

「すべてを一任する」は「一任する」が「すべて任せる」意ですから、「すべてを」と「一任する」は意味が「重ね言葉」になっているのです。ここは単に「一任する」もしくは「すべてを任せる」とするべきでしょう。

 これで「重ね言葉」はなくなった――わけではありません。実はもうひとつあります。

「次の後継者」です。後継者とは「次を継ぐ者」のこと。だからこちらも「重ね言葉」です。単に「後継者」と書くか「次を継ぐ者」と書けば「重ね言葉」は解消します。


「小型船舶免許で操縦できるのは小型船だけに限定されている。」

 これはとてもわかりづらい。「だけ」と「限」が「重ね言葉」になります。

 解決は「小型船だけに定められている」「小型船に限定されている」のいずれかです。

「彼女から連絡が来ない。スマートフォンのメッセージアプリをしばしば何度も確かめた。」

 これは「しばしば」と「何度も」が「重ね言葉」になっています。「しばしば」は「何度も」という意味ですから同じです。

「暴れる犯人を後ろから羽交い締めにする。」は一見正しそうなのですが「重ね言葉」になっています。「羽交い締め」は「背後から取り押さえる」ことなので、「後ろから」が余分です。

「お体ご自愛ください。」も「重ね言葉」になります。「自愛」は「自分の健康状態に気をつける」ことなので「お体」が余分です。

「約三十分ほど」「約三十分くらい」も「重ね言葉」になります。「約」と「ほど」「くらい」は同じ意味です。「約」または「ほど」「くらい」のどちらかを省きましょう。




述語が同じならまとめる

「彼は百メートルの日本記録を持ち、二百メートルの日本記録を持ち、四百メートルの日本記録を持っている。」

 こんな文章を書いてしまう方が意外と多いのです。

 すべての「日本記録を持って」いるのなら、ひとつにまとめてしまいましょう。

「彼は百メートル、二百メートル、四百メートルの日本記録を持っている。」

 でもこれは、すべて同じ述語だから成り立ちます。

「彼は英語も話せるし、スペイン語もしゃべれるし、フランス語も語れる。」

 述語が違っていますが、すべて「話す」の語彙です。

 そこで「話す」に統一してまとめます。

「彼は英語もスペイン語もフランス語も話せる。」

 これですっきりしたはずです。 

「彼はギターを弾けるし、ピアノも弾けるし、ドラムも叩ける。」

 最後のドラムだけが違う動詞です。これを「彼はギターもピアノもドラムも弾ける。」と書くと、「ドラムは弾くものじゃない」とお叱りを受けるでしょう。

 これらはすべて楽器なので、「演奏できる」という動詞ならひとつにまとめられます。

「彼はギターもピアノもドラムも演奏できる。」

 いずれの例でも、述語をひとつにまとめると文章がスマートになるのです。

 一文中に同じ表現、似たような表現が何回も出てくると、駄文の印象が強まります。

 削れるものは素直に取り除いて、よりわかりやすい表現に置き換えるべきです。





最後に

 今回は「重ね言葉で賞レースから脱落する」ことについて述べました。

 一文中で言葉を重ねてしまうと、少し間抜けな文章になってしまいます。

 もっとスマートにしないと「小説賞・新人賞」には届かないでしょう。

「重ね言葉」をしない。そう注力するだけで文章は見違えるほどスマートになります。



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